日本政策金融公庫など金融機関から融資を受けるには、創業計画書(事業計画書)の提出が必要です。創業計画書の中に「事業の見通し」として収支計画を記入する欄があります。
収支計画は、起業前の人が最も苦労する部分でもありますが、融資担当者が重視するところでもあります。収支計画は具体的かつ現実に即した数字でなければ融資不可の判断も下されかねません。
当サイトでは、創業融資を受ける際に出す創業計画書とともに、収支計画書の作成と提出をおすすめしています。それにより融資に通る可能性が高まるほか、経営にも確実に役立つからです。
この記事では、収支計画書について、作成方法や作成のメリット、書き方のポイントなどを紹介します。
目次
収支計画書とは?似たような書類との違いも
まずは収支計画書とはどんなものか、そして、似たような名称の帳簿についてもどのような種類のものか、あらためて確認しておきましょう。
収支計画書
収支計画書は、事業での売上(収入)と仕入原価や経費など(支出)を予測し、どれくらいの利益が出るかを把握するものです。
売上から仕入れや経費・税金といったお金の出入りのほか、借入金の返済額も含めて予測します。融資を受ける際に金融機関から提出を求められる書類の1つです。
事業計画書
事業計画書は、事業内容などを第三者にもわかるように記載したものです。事業の目的や内容、サービスの特徴や戦略などを記すほか、取引先との状況や関係先やビジネスモデルなども書きます。
また、事業に必要となる資金の額とその調達方法を書いたうえ、売上や経費などの見込みも記入します。この見込みの部分が「収支計画」となります。
金融機関からの融資を受ける際には、事業計画書の提出は必須です。
損益計算書
損益計算書とは、売上や費用、利益あるいは損失といった事業の資金の運用状況を発生ベースで表したものです。毎年の決算時に作成する決算書(財務諸表)の1つで、「P/L」とも呼ばれます。
収支計画書が損益を予測するものなのに対し、損益計算書は損益の実状を把握するものです。収支計画書は「予測損益計算書」とも呼ばれます。
発生ベース(発生主義)とは、お金が出入りしたタイミングでなく契約・取引のタイミングで利益や費用を計上することです。
貸借対照表
貸借対照表は、決算日時点での資産や負債のバランスを見て事業の財政状態を把握するものです。これも損益計算書と同じく決算書の1つで、バランスシート(B/S)とも呼ばれます。
貸借対照表は、資産を左に、負債と資本を右に記し、文字通り対照する表となっています。左右の額が必ず一致していることが特徴です。資産は資金を何に使ったかを表しており、負債は借入など返済すべきもの、資本は返済の必要がないお金を表します。
資金繰り表
資金繰り表は、事業にかかる資金全体の動きを見るために作るもので、資金繰り計画書、資金収支計画書などとも呼ばれます。
損益計画書では、事業でどれくらいの利益を得られるかを見ます。しかし、利益が出ていても設備など資金に多額のお金をかけていれば、資金がマイナスとなる恐れも。そのため、資金が何に使われどう動くのかを資金繰り表で見ていく必要があるのです。
収支計画書の2つの作成目的とメリット
収支計画書を作成するのには、大きく次のような2つの目的およびメリットがあります。
1つは、事業経営をスムーズに行うため。もう1つは、融資を受けやすくするためです。
収支計画書で経営を正常化する
事業を行っていくには、当たり前ながら利益を生み出す必要があります。
ただ継続していくだけでなく事業を拡大させるにも、日々あるいは月々に収入や支出がどれくらいあり、どれだけの収益が確保できるのかを事業主本人が把握していなくてはなりません。
いわゆるどんぶり勘定では、その時にあるお金をとにかく動かす自転車操業のような状態になりかねず、健全な経営ができなくなります。
収支計画書で融資を受けやすくする
低金利や無担保・無保証人の融資が可能として創業時の融資申込先の最有力候補となるのが日本政策金融公庫。ここで融資を申し込むには、創業計画書(創業時の事業計画書)の作成・提出が必須です。
その中に「事業の見通し」という欄があり、収支計画を記入することになっています。
融資審査では、「返済能力の有無」を確認します。中でも収支計画は重要で、数字が現実的で実現可能かどうかが大きなポイントとなります。
実際に起業した方々の状況を見ると、開業後に売上が思いのほか伸びず、返済や経費の支払いで資金が底をついたことで廃業に追い込まれるケースも多いようです。
そのような事態を避けるにも、リアルな収支計画を立てて事業を計画通り軌道に乗せることが重要です!
収支計画書の作成ポイントはのちほど解説します。
収支計画書の書き方と手順
収支計画の作成方法には、大きく分けて2通りの方法があります。1つは、まず商品やサービスの単価を決めて売上高を予測してから固定費などのコストや借入金の返済計画などから利益を予測する方法です。
もう1つは、まずはどれくらいの支出が必要となるかを想定した上で、利益を上げるためにどれくらいの売上が必要かを算出していく方法です。
創業時にどれだけ売上があるかの予測が難しい場合、必要な経費から考えると作成しやすいのではないでしょうか。この記事では後者の作成方法について見ていきます。
収支計画書の作成の流れ
収支計画は、次のような順に算出していきます。
- 固定費を出す
- 変動費を出す
- 売上総利益率を出す
- 必要な売上高を出す
- 売上原価を算出する
それぞれの項目について大まかに説明します。
固定費
固定費とは、事業を進める際に、売上の増減に関わらず毎月必要となる費用のことを言います。役員報酬(個人事業なら生活費)や人件費、家賃、広告費や旅費交通費などが当てはまります。
固定費は売り上げに関係のない費用なので、抑えておくことで経営状況が良くないときにも乗り切りやすくなります。
変動費
変動費とは、売上に比例して金額が動く、つまり売り上げが多いほど支出が増える費用のことです。例えば仕入れや材料費、外注費などが挙げられます。
売上総利益率
売上総利益率(粗利益率、粗利率とも呼ばれる)は、売上総利益を売上高で割って算出します。この数値が高いほど収益性が高いことを表し、良しとされています。
売上高を出すのが難しい段階では、業界や都道府県別の売上粗利率を調べて目安にするとよいでしょう。
必要な売上高
通常の売上高は、商品の販売やサービスの提供で得られるお金の合計額。例えば飲食業なら「客単価×席数×回転数」、製造業では「設備の生産能力×設備数」というように、それぞれの業種によって算出方法が異なります。
ここでは、経費と売上総利益率から次のように計算します。
必要な売上高=(経費の合計+目標利益)÷売上総利益率
目標利益には、生活費などに月々どれくらいの収入があればよいかを設定します。
売上原価
売上原価(仕入高)とは、利益やサービスを生み出すために必要とする経費の総称です。
簡単にいうと、販売した商品の仕入れや製造、サービスの提供にかかった費用(外注費、人件費を含む)を指します。
それぞれの項目で数字を出したら、収支計算書に落とし込みます。利益がマイナスとなるようなら、それぞれの費用を見直さなくてはなりません。
プラスになれば、借入の返済・利息についても検討していきます。借入金と支払利息については、「営業外費用」などの項目で記入します。
なお、収支計画書には決まった様式があるわけではありません。エクセル(Excel)ソフトで自社に合ったフォーマットを作れば、数式や関数で自動計算できて便利です。
計算方法がある程度確立されている項目であれば、計算式を入れておくだけで数字が変動しても瞬時に反映されるため、作成にかかる時間を短縮できます。
収支計画書作成で押さえるべきポイント
日本政策金融公庫などから融資を受けるためには、収支計画書の数字に根拠があること、現実として可能な数字であることが重要なポイントです。
そのため、適当に数字を決めるのではなく、1つ1つをしっかり算出していく必要があります。この章では、なかでも重要な「固定費・変動費」と「売上高」、「売上総利益」の項目に絞ってポイントを解説します。
固定費・変動費
固定費は前述の通り人件費や家賃、光熱費、広告宣伝費など、売り上げに関係なく必要となる費用のこと。変動費は売上が高くなれば同時に増える費用のことです。
額の大きさの目安には、日本政策金融公庫による業界別の「小企業の経営指標調査」の結果から、次のような比率を参考にしましょう。
- 損益分岐点比率
- 人件費対売上高比率
- 諸経費対売上高比率
飲食店の場合、それぞれの平均値は損益分岐点比率が103.9%、人件費対売上高比率が34.0%、諸経費対売上高比率が29.3%でした(2019年度)。
これらの数値をもとに、自身が開業する業種の固定費および変動費を検討します。
なお、固定費については、減価償却費も忘れずに記載してください。
リアルな収支計画書を作成するためのポイントの1つは、この「費用」を把握して損益分岐点がどこになるのかをしっかりと把握することです!
ご自身で把握できていないと、面談で審査官に根拠を聞かれたときに答えられません。
損益分岐点についてはこちらの記事で詳しく説明しています。
売上高
売上高が現実離れした金額であるほど、説明が難しくなります。融資担当者が見て現実的ないと判断されれば、その時点で見込みが甘いと見なされます。
根拠を聞かれても答えられなければ、計画性がないと判断されるでしょう。そうなれば融資も難しくなるので要注意です。
売上高の算出ポイント
売上高を算出するには、まず「なぜこの場所に出店するのか」の根拠となるマーケティング分析から始めます。
飲食店の出店なら、候補地の商圏の人口や競合店の数をはじめ、競合店の客単価や座席数・客単価や商品などを分析し、自店の単価などをどうするか決め、売上高を算出します。
例えば平均客単価が3,000円で座席数が20、1日あたり3回転・平均月間営業日数を25日と想定すると、売上高は450万円と算出されます。
そのほか、業界ごとの売上収益構造比を参考にして売上高を試算するのも良いでしょう。たとえば飲食業の収益構造は「売上高に対する食材費と人件費の割合(FL比率)が30〜40%程度」というのが一般的な目安です。
売上に季節や繁閑による変動がある場合
業種によっては、季節や月によって特に忙しい時期もあれば、それほどお客さんが来ない時期もあり、売上に大きな差が出ます。なのに1年を通じて同じ売上予測を立てていては、事実に即さない計画書になってしまいます。
その場合には、標準月/閑散期(例:1〜2月・8月)/繁忙期(例:3〜4月・12月)のそれぞれを考慮した売上を算出しましょう。
そのほか、別紙として収支計画表の作成・添付もおすすめします。収支計画表とは、固定費・変動費の年間支出額をより詳細に記載した表のことです。
売上設定をする際には、大まかではなく客単価の単位まで細かく突き詰めてください。
発注書など、売り上げ見込みが確認できる資料を添付するのがベターです!
売上総利益
売上総利益は「粗利益」「粗利」とも呼ばれ、売上高から売上原価(外注費・仕入高など)を差し引いた数値です。
より多くの売上総利益を得るには、いかに多くの売上を出すか、あるいは売上原価をいかに低くするか、がポイントです。
外注費
事業で外注費が発生するなら、売上原価として算出し、収支計画書に盛り込む必要があります。外注費とは、事業の一部を社外の個人や法人に委託した場合に支払う費用のこと。
商品の加工を他社に委託する場合や、一部の専門的な業務を業務委託として社外の人間に任せる場合に該当します。
仕入高
仕入高は、業界の平均程度を示しておくのが無難です。例えば、一般の飲食店の売上高総利益率(売上高に対する売上総利益の割合)の平均値は「64.2%」とされています( 2019年 「小企業の経営指標調査」/日本政策金融公庫)。
さらに、原価率(1-売上高総利益率)を算出すると、平均値は35.8%です。これらの数値をもとに、仕入高について検討しましょう。加えて、仕入先の見積書および単価一覧表などの資料を作っておくのもおすすめです。
そうすれば、仕入高が平均数値の範囲から外れていても収支計画書に説得力を持たせることができます。
収支計画書を見直す際の3つのポイント
収支計画書は、一度作って終わりではなく、無理がないかどうか見直す必要があります。見直しに関する次の3つのポイントについて解説します。
- 売上総利益・固定費・変動費を見直すポイント
- 借入額に対する目標利益の目安
- 第三者によるチェックの重要性
売上総利益・固定費・変動費を見直すポイント
収支計画書の売上総利益や固定費・変動費を見直す際は、次のことを中心に考えてみましょう。
売上総利益は、外注費が高すぎないか、仕入先が他にも存在しないか、などを確認した上で数値を見直してください。
固定費については主に、人件費や家賃などを見直します。
人件費では、雇用の人数が適切かどうか、各人への支給額が適正かどうか、残業や休日出勤の状況はどうか。家賃では、坪数や坪単価が適正かどうかを見直していきます。
変動費の主な見直しポイントは、材料費や外注費です。
材料費については、使用する量や単価を削減できないか、外注費については社内での対応に切り替えられないか、といった観点でそれぞれ見直しましょう。
このほか、水道光熱費がかかりすぎていないか、広告費に充てる金額は適切か、などを見て修正の必要性を探ってください。
借入額に対する目標利益の目安
項目ごとに細かく見直しを行った後は、借入額に対する利益の割合を算出します。
創業融資への申し込みにあたって、「借入額に対してどれくらいの利益が出ていればいいのだろう?」と疑問に思う人も多いもの。個人事業主の目標利益水準は、次の式で表せます。
月々の利益×0.65+月々の減価償却費 > 経営者の月々の生活費+月々の借入の返済額
この不等式の通りになれば、返済を滞らせることなく事業を進めていけるはずです。
第三者によるチェックの重要性
収支計画の作成・見直しができたら、融資申し込みの前に第三者にチェックしてもらうことをおすすめします。
融資の審査官に見せる前に、第三者による冷静で客観的な目で、収支計画書の数字に根拠や現実性があるかを見てもらうのです。それで問題点があれば修正し、より良い内容の計画書に仕上げてください。
知人に過去に融資を受けた経験の人がいれば、その人に見てもらうのもよいかもしれません。ただ融資審査官の目は厳しいもの。税理士などの専門家に頼めば、より審査に通りやすい収支計画に仕上げられるでしょう。
資金計画で重要な3つの資金の考え方
融資審査の担当者が重要視するのは、返済可能かどうかだけではありません。それ以前に、何にどれくらいの資金を必要としているのか、という資金計画の部分も妥当かどうか見られます。
どのような資金を必要とするのか、それをどう調達するのかを決めるのが資金計画です。最後に、事業に必要な「設備資金」「運転資金」「赤字補填資金」という3つの資金について見ておきましょう。
設備資金
設備資金とは、事業を始めるのに必要な設備の購入や工事などでスポット(単発)的に発生する資金のことです。
事務所や店舗を賃貸する際の不動産初期費用や自動車の購入費用、店舗の内装工事費、各種機械設備から、パソコンや電話、机などの事務用品なども設備資金に該当します。
設備資金については、見積書を添付し、その金額を記入しておけば疑われることもありません。
運転資金
運転資金(回転資金)とは、経営を続けていく上で必要な資金のことです。大まかには「売掛金+在庫-買掛金」で算出します。
運転資金には現金で回収できるまでの期間(3カ月分)の経費が必要となるのが一般的なため、経費の3カ月分を目安に記載しましょう。
運転資金の額は、収支計画の内容と合致していなくてはなりません。事業の見通しなどの売上原価や経費として記載している内容と整合するようにしてください。
なお、経費の3カ月分以上の運転資金については自己資金でまかなう必要があります。
赤字補填資金
赤字補填資金とは、経営の赤字に耐え、資金繰りをつなぐための資金のこと。運転資金の1つという見方もあります。売上を計画通りに上げられなければ、利益も得られず赤字となります。その時にどうするかを示しておく必要があるのです。
赤字補填のための資金を創業融資でまかなうことはできません。自己資金のうち創業時に使わず確保している資金があることなどを書く必要があります。
事業が軌道に乗るまで、おおむね6カ月程度は赤字経営が続くのが一般的です。少なくともその期間の経費分は、赤字補填資金として用意しておきましょう。
融資審査に通る収支計画書作成もBricks&UKがサポート
収支計画は、経営を早く安定させるために必要な準備であり、融資を受けるのに必要な事業計画書の一部として金融機関に提出するものです。
収支計画を立てるには、まず売り上げを予測して算出していく方法もあります。しかしこの記事では、売り上げの予測が立てづらい創業時の収支計画の立て方として、まず経費の計上から算出していく方法を紹介しました。
収支計画書は、事業の内容や規模その他によって異なるもので、自社独自の状況に基づいて作る必要があります。
収支計画書の書き方に悩んでいる、作ってみたが内容に自信がない、融資が通るかどうか不安、という場合は、ぜひ当サイトの運営会社「Bricks&UK」にご相談ください。
税理士法人「Bricks&UK」では、収支計画のみならず創業計画書(事業計画書)の作成から会社設立、事業経営までトータルにサポートいたします。創業計画書については、無料添削サービスも実施中です。
中小企業庁による認定支援機関(経営革新等支援機関)でもありますので、安心してご相談いただけます。まずはお気軽にご相談ください。