事業の経営が軌道に乗ってくると、事業拡大も視野に入ってくるでしょう。とはいえ、事業拡大は簡単ではありません。
「何から始めればいいのか」「いつ着手すべきか」「このままの方が安全では?」など、疑問や不安もつきものです。
そこで今回は、事業拡大の必要性やメリット・デメリット、方法や手順などを解説します。事業拡大の成功ポイントも紹介するので参考にしてください。
目次
事業拡大とその方法
まずは事業拡大の基本から押さえておきましょう。
事業拡大とは
事業拡大とは、文字通り会社の事業を大きくすること。事業拡大により利益が増加し、市場でのシェアが拡大すれば、会社の社会的な価値も高まります。
「事業拡大」2つの方法
事業拡大には、大きく次の2つの方法があります。
- 既存事業を拡大させる
- 新規事業を立ち上げる
既存事業を拡大させる
事業拡大の方法の1つが、現在行っている事業分野を広げることです。対象エリアを広げる、別の市場への参入を図るなどしてシェアを拡大、売上アップを目指します。
既存事業であれば、コストもリスクも比較的抑えることが可能です。
新規事業を立ち上げる
もう1つの方法は、新たな事業を始めることです。まったく新しい分野に参入するケースもありますが、一般的なのは自社の技術やノウハウを別の事業に生かすケースです。
新規事業の場合は、技術やノウハウの取得、設備や人材などの新たな整備が必要となるため、コストもリスクも高くなります。
事業拡大の必要性とタイミング
どんな会社でも、どんな場合でも事業拡大する必要があるのかと言えば、そうではありません。必要性とタイミングについても見ておきましょう。
事業拡大の必要性
企業の成長を可能にする方法の1つが、事業拡大です。企業には、常に成長が求められます。
成長すればより安定的な収益を生み出すことができます。地域や国の経済を活性化させ、雇用を生み出すなどして貢献できるなど、社会的な役割も果たせるからです。
また、常に成長を目指さなければ、企業は存続が難しくなります。
ただ、成長の方法は事業拡大だけではなく、どの企業にも必須なわけではありません。小規模経営、少数精鋭で商品・サービスの質を維持・向上させることに集中する優良企業も数多く存在しています。
むしろ、規模を大きくすることより、生産性の向上など「質」をよくすることが重要です。自社がどうすべきかは、各々の事情・状況に合わせて判断する必要があります。
事業拡大のタイミング
事業拡大を図るなら、タイミングも重要です。社内的な要因と外部要因が、成功に大きく関わってきます。
事業拡大を図るのは、経営が安定しているときがベストです。
経営を立て直すために事業拡大を図ると、必要な労力も金銭的なリスクも大きくなります。経営が厳しい状況では、思い切った策を講じることもできず、期待する結果が出せない可能性も高いです。
経営が安定していると、「このままでいいじゃないか」と変化を恐れる気持ちも生まれます。しかしそれでは、成長も好調の維持もできず、経営の悪化を招きかねません。
事業拡大することのメリット
事業拡大をすることで、大きく次の4つのメリットがあります。ただしこれはもちろん、事業拡大に成功した場合のメリットです。
- 利益が増やせる
- 認知度アップにつながる
- リスクが分散できる
- 融資などに好材料となる
それぞれ説明します。
利益を増やせる
事業拡大では、新たなエリアに進出したり、新たな顧客ターゲット層にアピールする商品・サービスを生み出したり、新規分野に参入したりします。
成功すれば、消費者の分母が広がる、シェアを広げることができ、利益も増やすことができます。
認知度アップにつながる
事業拡大によって、認知度のアップも期待できます。
例えば飲食店が多店舗展開すれば、人々の目に留まる機会が増えます。地域課題の解決につながる異業種に参入すれば、地元のマスコミに取り上げてもらえる可能性も。
認知度が上がれば、売上が増えるだけでなく、信頼感の醸成にもつながります。そうなれば、優秀な人材も集まりやすくなります。
リスクが分散できる
事業拡大では、店舗や営業所、工場といった拠点を増やしたり、新たに別の事業に参入したりします。これでリスクが分散できます。
例えば、どこかの店舗で赤字となったり、1つの事業で経営が悪化しても、別の拠点や事業で持ちこたえることが可能になります。
融資などに好材料となる
事業拡大をすれば、融資などを受けようとする際も有利に働きます。
経営が安定した状態で企業がさらなる成長を図ることは、地域社会にとっても歓迎すべきことです。また、事業を拡大するには人材が必要となるため、雇用の拡大にもつながります。
地域の活性化や雇用の拡大は、社会全体の大きな課題です。そのため、自治体や国による支援や助成金を受けられる可能性があります。
事業拡大することのデメリット
事業拡大をするには、まず「成功するとは限らない」リスクがあります。その原因となるのが、次のようなデメリットです。
- 先行投資が必要となる
- ランニングコストが増える
- マネジメントが難しくなる
先行投資が必要になる
利益を上げるための事業拡大ですが、まずは先行投資となる支出が必須です。
新たな事業に進出する場合は特に、設備や機械などを1から整備しなくてはなりません。また、スキルやノウハウを持つ人材の確保、従業員の教育などにもコストがかかります。
ランニングコストが増える
事業拡大に着手すれば、活動を維持するためのランニングコストも増加します。
拠点が多くなるほど、家賃や光熱費、人件費、仕入れなどにかかる費用が増えます。事業拡大を知らせるには、広告宣伝にもお金をかける必要があります。
中でも家賃や光熱費、製造にかかる費用や人件費などいわゆる変動費は、売上の多少にかかわらず必要です。この費用が高額なほど負担が大きくなります。
マネジメントが難しくなる
事業拡大をすれば、必要な人材の数も増えます。新たに別の事業を始めるには、組織も新たに作らねばなりません。
人が増え、管理すべき部門や業種が増えれば、マネジメントも複雑化します。この後の章で説明するM&Aを行って他社を吸収合併などをすると、管理はより難しくなります。
事業拡大するための3つの方法
事業拡大の方法には主に、自社単独で行う方法と、他社と提携して行う方法、他社とのM&Aを行う方法の3つがあります。
- 自社単独で行う
- ビジネスマッチングを利用する
- M&Aを行う
それぞれにメリット・デメリットがあり、把握した上で選ぶ必要があります。
自社単独で行う
既存事業の拡大、新規事業への参入のいずれも、自社単独でノウハウを学び、始めることは可能です。新たなノウハウが蓄積できるほか、従業員がスキルアップ・キャリアアップできるというメリットがあります。
しかし、リソースのない状態でノウハウのない分野に自社の力だけで進出する場合、ゼロの状態からとなり、リスクも大きくなります。
時間もコストもかかるほか、専門人材の確保も簡単ではありません。コストの削減なとのため、社内ベンチャー制度を設ける企業も増えています。
ビジネスマッチングを利用する
ビジネスマッチングとは、互いに課題解決となる技術やノウハウを持つ企業と商談する機会を設けること。金融機関や商工会議所などで行われています。
ビジネスマッチングを利用すれば、他社がすでに確立したノウハウを自社に活用することができます。パートナーとなる企業も、効率よく探せます。
卸などの仲介業者が入らないため、スムーズかつ無駄なコストなく取引ができます。
M&Aを行う
M&Aとは、企業の合併や買収(Mergers and Acquisitions)をいいます。双方の合意に基づく友好的な買収で、事業を拡大できます。
M&Aには、複数のスキーム(手法)があります。事業拡大に使われるのは、合併や株式取得、事業譲受、経営統合といった方法です。
M&Aには、ゼロから始める必要がなく、時間の短縮になる、新規事業への参入ハードルが下がる、弱点を補いシナジー効果が狙えるといったメリットがあります。
一方で、簿外債務を引き継いでしまったり、従業員の反発や離職を招いたりするといったデメリットがあるリスクもあります。
事業拡大を行う流れ
事業拡大を行うための、具体的な流れを見ていきましょう。
共通の流れ
自社単独、業務提携、M&A他どのような方法でも、大まかに次のような流れで進めます。
- 目的・方向性の明確化
- 市場・商圏分析、情報収集
- 事業拡大の方法の検討
- 専門家への相談
- 事業計画書の作成
- 資金の調達
- 事業拡大への取り組み開始
それぞれ見ていきましょう。
目的や方向性を明確にする
まずは事業拡大で自社がどうなりたいのか、どの方向に進むのかを明確にします。
方向性については、既存事業を強化していくのか、それとも新たな事業に乗り出すのかを決め、さらにより具体的な取り組み内容を決めていきます。
この次の章「事業拡大の戦略フレームワーク」で、戦略作成に使えるフレームワークを2つ紹介します。
新たな事業への進出には、アイデア出しから始める必要もあります。
市場や商圏の分析、情報収集を行う
既存事業の市場や新規参入する市場、既存の商圏や進出する商圏について分析します。既存事業についても状況を改めて確認しましょう。
新規参入するのであれば、どの分野・市場にすべきか、将来性も踏まえて慎重に検討しなくてはなりません。競合の存在や競合の強み、動向などにも注視してください。
どの方法で事業拡大するかを決める
事業拡大にあたり、自社単独で進めるのか、提携するビジネスパートナーを探すのか、M&Aを行うのかを決めます。
目的や取り組み内容、商圏分析の結果、そして各方法のメリット・デメリットなどを総合的に見て判断する必要があります。
専門家に相談する
特に新規事業への参入を図る場合、どの方法で進めるにしても、専門家の助言を受けて行った方が効率がよく、失敗のリスクも少なくなります。
中小企業診断士や税理士、FA(ファイナンシャルプランナー)と言った専門家のほか、商工会議所や取引のある金融機関などへも相談できます。M&AであればM&Aの仲介業者も相談に乗ってくれます。
この時点で、すでに決めた方法や分野などについて、適切かどうか意見をもらって見直すことも可能です。より良い方法や注目すべき分野などの助言が得られる可能性もあります。
事業計画書を作成する
事業拡大を確実に進めるため、方向性や取り組み内容を具体的に記した事業計画書を作成します。必要な資金の洗い出しや、売上予測なども行います。
事業計画書は、資金調達をする際に金融機関などに見せることも必要です。特に融資では、事業計画書の内容が融資の可否を大きく左右します。
資金調達をする
事業拡大に必要な資金のうち、自社でまかなえない資金を調達します。
調達方法として挙げられるのは、創業時に融資を受けた金融機関のほか、日本政策金融公庫や地元の信用金庫などに融資を申し込むことです。
クラウドファンディングで支援を募るのも1つの方法です。
その他、自治体の支援制度や国の助成金・補助金が使えないかどうかも調べておきましょう。
ただし、助成金や補助金については、支払い済み費用の一部を助成するなど、後払いとなることが多いので注意が必要です。
事業拡大への取り組みを開始する
資金の調達ができれば、事業拡大に着手します。
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ビジネスマッチングやM&Aといった外部との調整が必要な場合には、それぞれ次のような手順を挟むことになります。
ビジネスマッチングを利用する場合
ビジネスマッチングを利用して提携する企業を探すには、次のような手順を踏みます。
- ビジネスマッチングサービスに登録
- 自社の情報・強みなどの公開
- パートナーとなる企業探し
- 商談の実施
- 正式契約の締結
- 事業拡大への取り組み開始
まずはビジネスマッチングを行っている地元の金融機関や商工会議所などの窓口に問い合わせましょう。
候補となる企業に公開される書類やインターネットの登録ページに、自社の企業情報や強みを掲載します。そして、相手となる企業を探し、候補が見つかれば連絡をします。
商談を行い、双方が合意に至れば、正式契約を締結します。
M&Aを行う場合
M&Aの場合は、大まかに次のような手順を踏みます。
- M&A利用のための登録
- 相手企業の選定・交渉
- 基本合意・秘密保持契約の締結
- デューデリジェンスの実施
- 最終条件の交渉・契約の締結
M&Aの窓口で利用登録する
M&A の仲介を行っている業者や窓口となっている金融機関、もしくはインターネット上のM&Aのプラットフォームサイトで利用登録を行います。
相手企業を選び、交渉する
売却希望の案件の中から、自社の条件に合うものを探し、相手方に交渉を申し込みます。希望の買収条件を見て、相手側からコンタクトがある可能性も。仲介業者や専門家から紹介されることもあります。
相手側と基本合意書や秘密保持契約を結ぶ
条件のすり合わせで合意が得られれば、まずは基本合意書を作成します。この時、秘密保持契約と独占交渉権を付け、リスクを回避します。
デューデリジェンスを依頼する
最終的な契約の締結前に、公認会計士などに依頼してデューデリジェンスを行います。これは、売り手企業の資産価値やリスクなどの内部情報を調査するもので、費用が高額になる可能性があります。
最終条件で交渉し、契約書を交わす
デューデリジェンスの実施後、基本合意について変更すべき点があれば変更します。問題がなければ、法的拘束力のある最終的な契約を締結します。
事業拡大の戦略フレームワーク
事業拡大の最初の段階、戦略を立てる際には、フレームワークを利用すると考えやすくなり、方向性をより的確に選ぶことができるでしょう。
PEST分析
PEST分析は、中長期的な戦略の作成、リスク回避に有効な手段です。
自社を取り巻く環境を4つの種類に分け、それぞれ将来にわたって自社にどのような影響を及ぼすかを予測し、ます。
PESTとは、次の4つの頭文字をつなげたものです。
- 政治(Politics)
- 経済(Economy)
- 社会(Society)
- 技術(Technology)
例えば政治的要因には、新たな法律の制定や税制の改正などがあります。経済的要因には景気の動向やデフレ・インフレ、為替・金利の変化など。
社会的要因には、ライフスタイルの変化や流行、人口や年齢・性別などの構造、文化などが該当します。技術的要因には、ITやAIなどの技術の革新や、それによる競争力の変化などが挙げられます。
アンゾフのマトリクス
アンゾフのマトリクスは、事業拡大をどの分野で進めるかを決めるのに役立つ手段です。成長マトリクス、戦略マトリクスとも呼ばれます。
ターゲットとなる市場と自社の製品(サービス)を、それぞれ既存と新規とで組み合わせた次の4つのパターンで戦略を考えます。
- 既存の製品と市場で狙う「市場浸透戦略」
- 既存製品で新たな市場に出る「新市場開拓戦略」
- 既存市場に新製品を投入する「新製品開発戦略」
- 新たな市場に新製品で参入する「多角化戦略」
市場浸透戦略では、製品や市場は現状のまま売り上げを伸ばす必要があり、認知度や集客力のアップが重要です。
新市場開拓戦略では、既存の製品で国内の別の地域や海外など新たな市場に進出します。競合との差別化、特に売り方がポイントとなります。
新製品開発戦略では、現在と同じ市場に新たな製品を投入します。競合との差別化、ニーズの変化への対応が必要です。
多角化戦略では、製品も市場も新たになるため、製品開発にもマーケティングにも力を入れねばなりません。
また、多角化戦略にも、既存市場に似た市場に参入する、既存の製品とはまったく異なる製品で勝負するなど、複数の方法が考えられます。
事業拡大を成功させるポイント
事業拡大にはコストも時間もかかるため、失敗のリスクは極力抑えたいものです。それには主に6つのポイントがあります。
- 今ある強みを有効活用する
- 綿密な市場分析の実施
- 売上より利益率の重視
- 優秀な人材の育成と確保
- 社内ブランディングの強化
- 十分な資金の確保
それぞれ見ていきましょう。
今ある強みの有効活用
どのような事業拡大を図るにも、自社に今ある強みを生かすことが重要です。まったく新しい分野であっても、技術やノウハウを何らかの形で生かすことで成功に近づけます。
それにはまず、自社にどんな技術やノウハウがあり、どんな人材がいるのかをよく知る必要もあります。
綿密な市場分析の実施
事業拡大の成功も「ニーズ」にかかっています。新たな市場に出る場合だけでなく、既存の市場で勝負する場合にも、市場の変化には注意しなくてはなりません。
創業時に市場分析をしたきり、というのでは危険です。必ず綿密な市場分析を行い、進むべき方向性ややるべきことを見極めましょう。
売上でなく利益率を重視
売上が上がっても、コストが膨大であれば事業拡大とはいきません。利益率を重視し、費用対効果を考える必要があります。
いくら売り上げがよくても、コストが高ければ利益は思うように伸びず、持続も難しくなります。
優秀な人材の育成と確保
事業拡大には、優秀な人材も不可欠です。自社に能力のある人材がいれば育て、いなければ迎え入れる必要があります。
また、せっかくの優秀な人材が出て行ってしまうことのないよう、場合によっては労働条件の見直し等をする必要もあるでしょう。
社内ブランディングの強化
上項の人材育成や確保にもつながる取り組みとして、社内ブランディングの強化も必要です。一部のトップだけに熱意があっても、例えばいきなり新事業を立ち上げると言われれば、不安感も生まれます。
自社の強みや社会的な価値などについて共通の理解を図り、一体となって向上しようとする雰囲気を醸成しましょう。事業拡大とその理由・方法などについても周知し、他人事にさせないことが重要です。
十分な資金の確保
事業の拡大には、コストもかかります。特に新製品の開発・新たな市場の開拓をしようとする場合には、多額の資金が必要です。
資金繰りが厳しい状態では、十分な研究・開発ができず、事業拡大を図っても失敗に終わる可能性があります。また、費用をかけて進めたとしても、資金不足で頓挫しかねません。
安定した利益が確保できている状態なら、融資など外部からの資金調達もしやすくなります。
事業拡大は準備とタイミングが大切
事業拡大は、会社の成長を図る方法の1つ。市場調査や分析、計画の作成など入念な準備が必要です。タイミングとしては、経営が安定していることが重要なポイント。
自社の強みを生かし、現状だけでなく将来を見据えた方法で事業拡大を図りましょう。
事業拡大は自社単独で行うこともできますが、どのような方法を取るにしても、専門家のアドバイスを受けるのが成功への近道です。
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