一般に「独立開業」というと、ある程度の経験を積んだ人がその業界・業種でステップアップする手段というイメージがあります。 不動産の開業も、経験がある人が会社から独立するというのが一般的でしょう。
しかし中には、不動産業界に興味があったり魅力や将来性を感じたりして、未経験から不動産会社を開業したいという人もいます。
未経験での開業は不可能ではありませんが、業界知識やノウハウがないため、あらかじめ知っておくべきことは多岐にわたります。
この記事では、不動産業界での独立開業をテーマに、不動産業界で開業するメリット・デメリットや、そもそも不動産業にはどんな業務があるのか、など解説していきます。
目次
経験者が不動産業界で独立したい理由は?
現在、不動産業界で働いている人が「独立したい」と考えるのには、大きく3つの理由があるようです。
- 独立した方が稼げるから
- 自分が持っている顧客数で、独立しても最低限の売上が見込めるから
- 独立すれば自分の裁量で仕事ができるから
独立を感がる人には、すでに営業マンとしてバリバリ働いていて会社から高額の報酬を得ている人も多いですが、独立をすればさらなる年収アップも可能です。
不動産業界は人脈がものをいう世界でもあるので、資産家の顧客等を担当している場合には、その人脈を独立後の自分のビジネスにも繋げていける可能性があります。
また、自分の裁量で、好きに仕事ができるのも魅力です。
上司に監視されたり、気が合わない同僚などに気をつかったりする必要はありません。人間関係だけでなく時間に縛られるストレスがない、というのも理由に含まれていそうです。
不動産業界から独立するメリットとデメリット
では実際に、その独立理由はメリットとなるのでしょうか。ここでは、不動産業界から独立するメリットとデメリットについて、簡単に解説していきます。
独立開業するメリット
不動産業界から独立した場合の主なメリットには、次のようなものが挙げられます。
- 営業力があれば稼げる
- 今までに培った人脈が活用できる
- 在庫がないのでリスクが低い経営ができる
不動産会社を経営するには知識や資格などのスキルも必要ではありますが、第一に必要なのは何といっても「営業力」です。
営業力さえあれば、新規顧客の開拓にも成功し、安定した経営ができるでしょう。
今までのキャリアで培ってきた人脈を活用できるのも、独立開業の良い点です。
信頼関係を構築できていれば、起業の際に協力してもらえるかもしれません。
また仲介業の場合は、自分で土地や建物などの在庫を持たなくても、商売が可能です。
そのため、小さな規模でスタートすれば、他の業界に比べて資金繰りがラクな方といえるでしょう。
自身が宅建の資格を保有していれば、人を雇う必要もなく身軽に開業できます。
独立開業するデメリット
対して、不動産業界から独立した場合の主なデメリットには次のようなことが挙げられます。
- 資金繰りに失敗すると倒産しやすい
- 新規の顧客が獲得しにくい
- 収入が安定しない
一番のデメリットは、小売業や販売業などの他業種に比べて取り扱う金額が大きいので、資金繰りに失敗するリスクも大きいことが挙げられます。
不動産仲介の場合は、基本的に在庫を持たず、第三者の物件で利益を得られます。しかし自分で土地を仕入れ、建物を建築して販売する「建売」などは、かかった経費を回収するのに時間がかかることもあります。
その場合、売れるまでは資金が入ってこない状態が続きます。資金繰りが上手く行かなくなれば、最悪の場合には、現金が不足し倒産してしまうこともあるでしょう。
また、独立して間もない時期は知名度もないため、新規の顧客が獲得しにくいというデメリットもあります。このあたりは営業力・集客力でかなり異なってくるでしょう。
経験者で営業成績が良かった人も、実は「会社の知名度と信頼性で売れていた」ということも十分にあり得ます。独立する場合は、その辺りもよく検討してからするようにしましょう。
加えて、「収入が安定しない」というデメリットも独立に向けての懸念材料の一つです。
不動産業は基本的にインセンティブ制の給与体系のため、毎月の給与は同じではないものの、基本給は保証されます。
しかし、独立したら自身による売上がなければ収入はありません。
月々の事務所維持費などランニングコストもかかりますので、収入が安定しなくても一定の支出は必ずあることも覚悟しておく必要があります。
不動産業の仕事内容【業態別】
ここでは、不動産業界から独立した場合の業種の違いについて、それぞれ解説をしていきます。
街の不動産業者で大きな割合を占めるのは、売買仲介業・賃貸仲介業と管理業です。違いをそれぞれまとめてみました。
賃貸仲介の場合
仕事の内容 | 不動産を借りたい人と貸したい人をマッチングさせ、賃貸借契約を成立させる仕事 |
報酬 | ・1件ごとに仲介手数料をもらう ・上限は家賃1か月 ・1件あたりの取扱金額が小さい |
メリット | 成約金額が低いため契約がとりやすい |
デメリット | ・数をこなさないと利益が出ない ・繁忙期には休みが取れずハードワークになりがち |
仕事の難易度 | ★★★☆☆ |
入居者募集に関わる業務を行うのが「賃貸仲介」です。
具体的には、不動産を借りたい人と貸したい人をマッチングさせ、賃貸借契約を成立させるのが仕事です。
入居希望者が見つかった後は入居者に対する審査を行い、問題がなければ契約手続きへと進みます。
仲介業務での不動産会社の収入は「仲介手数料」であり、家賃1カ月分が法律で決められた上限金額です。
管理業務は自分で行い、不動産会社には入居者募集だけを依頼したいというオーナーは、この「仲介業務」の契約を仲介不動産会社と締結することになります。
売買仲介の場合
仕事の内容 | 不動産を売りたい人と買いたい人をマッチングさせ、売買契約を成立させる仕事 |
報酬 | ・1件ごとに仲介手数料をもらう ・成約金額により手数料の料率が異なる ・取扱金額が大きいため手数料が高額になる |
メリット | ・1件の成約で高額な手数料を得られる ・案件数が少なくてもある程度の利益が得られる |
デメリット | ・成約するまでに時間や手間がかかる ・税金や法律など専門的な知識が必要 |
仕事の難易度 | ★★★★☆ |
売買仲介は、中古住宅や中古マンション、土地や新築の建売住宅、投資用物件など幅広い種類の不動産の売買契約を仲介する仕事です。
簡単に言うと、不動産を売りたい人と買いたい人をマッチングさせ、売買を成立させています。
仕事の流れは次のように進めます。
1.売主が売りたがっている物件を確認する
2.広告を作って周知させる
3.見込み客が現れたら物件に案内する
4.お客様が気に入れば売買契約をし、ローンの申し込みをする
5.物件を引き渡す
まずは、売主が売りたいと考えている物件を確認することから始まります。
その後、物件の条件などを表記した広告を作成し、ネットやチラシなどで集客営業。広告を見て興味を持った人が現れたら、物件に案内します。
お客様が物件を気に入り、購入の意思を確認できたら売買契約を行い、ローンの申し込みの手続きを代行します。
全ての手続きが無事終了したら、お客様に物件を引き渡して完了です。
なお、不動産の売買取引には法律や税金など専門的な知識が必要です。日ごろから知識を蓄え、最新の法改正などにも対応しなくてはなりません。
取り扱う金額が高額なので大変なことも多いですが、大きな取引を成立させられればやりがいもあるでしょう。
管理の場合
仕事の内容 | ・賃貸マンション、アパート等の管理 ・空室対策から家賃の集金、物件の修繕や管理をする |
報酬 | ・管理手数料として毎月一定の報酬を大家からもらう ・手数料の相場は家賃の5%程度 |
メリット | ・毎月一定の安定した収入が見込める ・オーナー等、資産家との人脈ができる |
デメリット | 入居者からのクレーム対応等でストレスが溜まりやすい |
仕事の難易度 | ★★★☆☆ |
借主が入居した後の入居者対応や建物管理など、管理に関するサポートをするのが管理の仕事です。
オーナーから委託を受けて、マンションやアパートの管理業務を行います。
入居者のクレーム対応や、家賃の集金、建物の修繕・清掃などが基本的な仕事内容で、毎月一定の管理手数料が得られ、安定性があるのがメリットでしょう。
オーナーなど資産家との人脈が築ける場合もあります。
ただし、入居者からのクレームが発生した場合には迅速に対応しなければなりません。クレーマーのような入居者がいた場合には、毎日のように何かしらの苦情を訴えられたりしてストレスが溜まってしまうかもしれません。
もっとも、対応の仕方はある程度マニュアル化できますし、早めに対応すれば不満が小さいうちに収めることも可能でしょう。
未経験の開業でもこれをクリアすればOK!
では、未経験から不動産業界の開業をしようという場合、必要となるものは何でしょうか。
独立開業には宅地建物取引士の資格が必須
不動産業を開業するには、様々な要件を満たす必要があります。
元手となる資金の調達や宅地建物取引業の免許の取得、事務所や宅地建物取引士(宅建士)の設置などが条件として定められています。
まずは、宅建士の資格の必要条件と資格の取り方について見ておきましょう。
不動産業を開業する条件の一つに、宅地建物取引士の設置義務があります。
宅地建物取引業者として営業をする際には、その事務所等に「成年の専任の宅地建物取引士」を置かなければならないのです。
最低設置人数は、その設置場所の種類で異なり、具体的には下記のように決められています。
営業する場所 | 宅建士の最低設置人数 |
事務所(通常、営業する店舗) | 「業務に従事する者」(従事者)の数の5分の1以上 |
事務所以外 (モデルルームなど) | 1人以上 |
例えば、営業所で11人が業務にあたっているなら、その5分の1は2.2人なので、成年かつ専任の宅地建物取引士が3人以上いなくてはなりません。しかし5人以下の事務所であれば、宅建士は1人いればよいことになります。
そのため、従業員を雇う経済的な余裕がない場合でも、自分が宅建士の資格を取得していれば人を雇わずとも開業できるのです。
ちなみにこの場合の「専任」とは、宅地建物取引業を営む事務所に常勤、つまり通常の勤務時間を通じてその事務所に勤務し、宅地建物取引業だけに従事する人のことを指します。
ただ、例えば「建設業」など、他の業種を同じ事務所で兼業している場合には、宅地建物取引業の業務が行われていない時間に一時的に兼務することとなっても差し支えはありません。
宅建士資格の取得方法はこちら
独学でも業界等についての勉強が必須
不動産業界に身を置いたことがなくても、不動産業を開業して成功した人はいます。ただしもちろん、不動産や業界についての勉強は必須です。
前述の通り、不動産業には人脈が不可欠と言われ、営業力・集客力で業績に大きく差が付きます。それがないのであれば、まず副業やアルバイトでも不動産会社に勤めて業界や企業の実態を知り、知識や経験を得るのが近道でしょう。
資格の勉強をしたとはいえ、実務では試験には出てこないことも多々あります。1つ1つの案件をこなすには、相当の知識がないとお客さんへの対応ができません。
独学でもよいので書籍などで勉強し、より多くの知識を身につけておきましょう。
もちろん、不動産業に関連することだけでなく、会社を経営する上での経営や会計、マーケティングなどの知識も必要です。
知識不足をカバーするには、不動産業界や経営に詳しくいつでも相談できる人脈を作っておく、知識のある人と共同で会社を興す、といった方法もあります。
融資不可能も視野に自己資金を準備
不動産業界に限らず、起業しようと思えば自己資金の用意は必須。とはいえ自己資金ですべてをまかなうのは難しく、融資を受けるのが一般的です。
しかし、金融機関などが融資を行う場合、当然ながら返済能力を問われるため、未経験の業界での起業にはリスクを感じて融資を断られてしまう可能性もあります。
自己資金だけで小規模に開業をするか、融資担当者を説得するだけの周到な計画を立てるか、いずれにしても万全な準備をしておく必要があるでしょう。
まとめ
もっと稼ぎたい、自分の裁量で働きたい、などの理由から、不動産業界での独立を考える人は多いです。仲介業であれば土地などを所有していなくても可能なため、業界未経験で不動産業で開業する人もいます。
とはいえ、やはり未経験からの開業はかなり厳しいのは確かです。不動産業界に限りませんが、知識や経験は経営に大きく影響しますし、融資も経験者の方が優先されます。
それでも開業したいという熱意があるなら、短期間でも不動産会社に勤務する、独学で知識を学ぶなどして準備をしておきましょう。不動産業界の経験がある人と共同で開業するというのも1つの選択肢かもしれません。