飲食店を開業するにあたって、まず重要なのは売上と運転資金の計算です。
当たり前ですが、売上に対して運転資金が大きすぎると、資金繰りができずに倒産します。
そのため、売上と運転資金を考慮した上で、メニューなどの具体的な内容や物件を考える必要があるのです。
今回は、運転資金の計算方法や、全体の資金繰りの考え方などについて解説していきます。
まずは全体の流れを把握
飲食店を開業するにあたって、「こんな店にしたい」「こんなメニューを出したい」といった希望があるかと思います。
完全に利益主義の場合でも、どのような飲食店が成功する、という大枠のイメージは持っているかと思います。
ちなみに大枠のイメージ(コンセプト)がない場合は、先にこれを策定する必要があります。
なぜなら、コンセプトがないと売上も運転資金も計算することは不可能で、逆に売上や運転資金から飲食店の大枠を決めるというプロセスは難しいからです。
いっぱい稼ぎたいから高級居酒屋、運転資金を抑えたいからデリバリーメインの飲食店、といった考え方もありですが、それなら売上や運転資金を詳細に決めなくても方向性を決めることはできます。
逆に、方向性が決まらないと売上も運転資金も計算できないので、まずは自分の理想と現実的な分析を踏まえて大枠を決定するということです。
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大枠が決まったら、以下の手順で全体の資金繰りを考えていきます。
1.売上予測の決定
2.原価率の決定
3.売上原価の決定
4.経費のトータルを計算
5.売上原価と経費を足す
6.売上と売上原価+経費を比較する
以上の流れになります。
各手順について詳しく解説
それでは各手順について解説していきます。
1.売上予測の決定
なぜ最初に売上予測を決めるかですが、売上が決まらないと仕入れのことはわからないからです。
どれだけ売れるかわからなければ仕入れの数は決まりません。
そのため、まずは売上予測を立てます。
売上予測をどこまで細分化して考えていくかはケースバイケースですが、例えば曜日や時間帯で区切って客の数を想定し、単価との掛け算で売上を算出する、といった計算は必ず行います。
ただしこの段階では単価は仮決定なので、後から決めた他の要素も組み合わせて再度売上を計算し直す流れになります。
ちなみに、原価率と原価がわからないと単価はわからない、という意見もあるかもしれません。
確かに、原価率と原価から単価を割り出していくという考え方は間違いではないのですが、これには一つ大きな問題があります。
それは、周辺相場やターゲットの目線が第一になっていないということです。
客は原価率や原価のことはそれほど考えていないので、いくら原価が高いから料金が高いのは仕方がないと言われても納得はしません。
周囲の競合店と比べて極端に料金が高ければ、客足は遠のきライバル店に負けることになります。
差別化を図るために相場を無視した料金設定にするなら原価率や原価から考えるのも良いのですが、一般的に顧客ニーズに合わせた単価設定と売上を考えて、そこから逆算して原価率と原価を考えていくということです。
2.原価率の決定
次に原価率を決定します。
上で考えた単価が高ければ原価率は低くなり、逆に単価が低ければ原価率は高くなるでしょう。
しかし原価率が高すぎると資金繰りが厳しくなります。
相場としては、30%前後の原価率を設定している飲食店が多いでしょう。
ここで原価率30%にすると仕入れが不可能になると気づけば、単価が安すぎるということです。
とはいえ、客は原価が高いから料金も高いでは納得しないので、希望する単価に合わせて原価を下げることを検討する必要があるでしょう。
原価率を上げたり逆に単価を引き上げるのではなく、ある程度品質に妥協して原価を下げなければならない場合が多いということです。
徹底的に品質にこだわることで差別化を図る場合などは例外ですが、それでも原価率と単価のバランスを見ながら、原価を下げる工夫は必ず必要でしょう。
3.売上原価の決定
ここで言う売上原価とは、トータルの売上原価を指します。
1商品あたりの原価は原価率と単価が決まった時点で自動的に決まるからです。
トータルの売上原価の計算は簡単で、総売上×原価率で計算できます。
自動的に計算結果が出るので、この時点で売上と原価のバランスに問題がある場合、上の手順に戻って再度単価と原価率を見直す必要があります。
4.経費のトータルを計算
次に経費のトータルを計算します。
経費のトータルとは、上の売上原価以外にかかる運転資金のことです。
具体的には以下のようなものが挙げられます。
- 人件費
- 家賃
- 通信費
- 保険料
- 旅費交通費
- 水道光熱費
- 広告宣伝費
- 支払手数料
- 清掃費
- 消耗品費
- 備品費
- 新聞図書費
- 交際費
他にも開業時であれば、テナントを借りるためのコストや、最初の設備導入費用などもかかります。
ただしこれらは開業後の運転資金という意味では関係ないので、ここでは初期費用のことも考慮しつつ、開業後の売上と費用のバランスを見るということが大切になります。
5.売上原価と経費を足す
次に上で計算した売上原価と経費を足します。
そうすることで、1か月にかかるお金のトータルがわかります。
これは最低限毎月かかるお金ということなので、売上目標として絶対に越えなければならない数字ということです。
6.売上と売上原価+経費を比較する
最後に、毎月出ていくお金と入ってくるお金を比較します。
この時点で売上の割合が低い場合は、原価や経費を下げるか、売上の目標を上げる必要があります。
目安としては、だいたい売上原価+経費が売上の7割以下になっていれば良いと言われています。
下限は特にありませんが、無理のない計画であるという前提条件であれば、売上の割合が大きいに越したことはないでしょう。
以上で、運転資金と売上比較の流れは終了です。
一度比較したら終わりというわけではなく、数字を見直すために手順を戻ったりする必要があります。
ただし一度一通り比較したらあとはどこからどう修正していくか自由です。
また数字を詰めれば詰めるほど良いということでもありません。
融資審査では数字を具体的にして説得力を持たせることが重要ですが、はっきり言ってしまえば、実際に売れるかどうかと数字の具体性はそこまで相関関係はないでしょう。
結局のところ、よほど無理のある資金繰り計画でなければ、売れたもの勝ちではあります。
数字を完璧にしようとすればするほど前に進まなくなるので、完璧主義の方は特に注意が必要でしょう。
それよりも売上に関わる客足のマーケティング部分に力を入れたり、実際に開業に向けて作業を進めていくことが重要です。
マーケティングについても予測できない部分は必ずあるので、考えなさすぎも良くないですが、完璧主義で前に進めないのはもっと良くないと意識しておくと良いかと思います。
まとめ
今回は、運転資金と売上を計算して比較する流れを解説しました。
これにより資金繰りに無理がないかを確認できます。
ただし、資金繰りの想定を完璧にしたら経営が絶対にうまくいくというわけではありません。
どちらかというと売上にプラスになるというよりは、あくまでも計画倒れのような倒産を防ぐことが目的です。
つまり結局は、売上が伸びなければお店はやっていけないので、客足の動きを考えたり、開業に向けて実際に動いていくことが重要ということです。