新型コロナウイルス感染症の影響もあり、外食産業で増えてきているのが、ゴーストキッチンやキッチンカーなど、ホールのスペースがない、固定の店舗を持たないような飲食店です。
店舗を持たないことには、あらゆる感染症へのリスク回避や経費削減ができるといったメリットがあります。しかし、商売としてはデメリットになる部分もあり、経営がうまくいかないケースもあるので注意が必要です。
この記事では、店舗を持たない飲食業態の種類やそのメリット・デメリット、開業方法について紹介します。
目次
店舗を持たない飲食店の種類とその特徴
まず、店舗を持たない飲食店とはどういうものかについて簡単に見ておきましょう。
大きく分けると次の3つがあります。
- 客を迎え入れないゴーストキッチン
- 定位置でなく車で移動するキッチンカー
- 店舗として独立していない自宅カフェ、間借りする週末カフェ
それぞれの特徴やメリットなどについて説明します。
ゴーストキッチン・クラウドキッチン
「ゴーストキッチン」とは、店内に飲食スペースを構えず、調理のみに特化した事業形態のこと。ゴーストレストランとも呼ばれます。
デリバリーやケータリングのサービスを利用する宅配専門の業態のため、厨房設備だけがあればよく、開業にかかる初期費用や開業後の運転資金を大幅に抑えられるのが特徴です。
「クラウドキッチン」は、ゴーストキッチンの一種で、レンタルキッチンやシェアキッチンなど調理場所を間借りするのが特徴です。
調理スペースが自前かどうか、という点でゴーストキッチンとは区別されます。こちらはキッチン設備への投資が必要ないため、設備費用を削減してさらなる費用の節約が可能です。
キッチンカー(フードトラック)
「キッチンカー」は、文字どおり、自動車にキッチン設備を入れて調理や販売の場として使う移動販売型。アメリカでは「フードトラック」と呼ばれています。
場所を選ばず営業できること、スポーツや音楽フェス、お祭りといった大規模なものだけでなく、小規模な手作りマーケットやイベントの開催も増えたことから、近年増加傾向にあります。
キッチンカーは車のスペースによりかなり手狭となりますが、開業届や飲食店の営業許可の取得などは通常の店舗と同じように必要です。
店舗の確保が不要な代わりに、営業道具かつ移動手段となるキッチンカーの購入あるいはリース、改造などの準備が必要です。
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自宅・週末カフェ
この場合、店舗はあるのですが、店舗として建てられた建物ではなく、自宅などを利用し、平日のみ、あるいは週末のみ飲食サービスを提供します。
自宅を店舗としているから「自宅カフェ」、週末のみ営業するので「週末カフェ」などいろいろな呼び方がありますが、明確な定義はありません。
ソーシャルダイニング
「ソーシャルダイニング」では、シェアスペースや定休日で空いている他店舗などを借りて飲食サービスを提供します。
単に飲食の提供だけでなく、料理を提供する側とサービスを受ける側とのマッチングといったコミュニケーションの場としても注目されています。
ソーシャルダイニングなら、自前の店舗施設や調理設備を用意する必要がありません。
店舗を持たずに飲食店を開業するメリット
店舗なしで飲食店を開業することには、次のようなメリットがあります。
初期費用を抑えられる
店舗がないということは、通常は店舗取得に必要となる敷金礼金や仲介手数料といった費用が不要だということ。外装・内装工事の費用も最小限で済みます。
スペースを借りる料金は必要ですが、店舗と比べればかなり低く抑えられるでしょう。
イートインスペースがなければ、テーブルや椅子といった家具や、ちゃんとした(使い捨てでない)食器も不要です。
客席スペースの空調設備なども不要なので、設備購入の費用も軽減できます。
ただし、テイクアウト専門でも、食べ物を売るので保健所の営業許可等が必要です。それには、自宅用と業務用の調理スペースを区分するなどの施設要件もあるので注意してください。
ランニングコストも抑えられる
事業の規模にもよりますが、客席スペースがなくテーブルや椅子、空調設備が不要なので、掃除やメンテナンス費用、電気代なども店舗よりは安くできることが期待できます。
前述の通り調理スペースさえあればよいなら、家賃も低く抑えることができるでしょう。
人件費に関しても、最低限の人数の接客スタッフ、あるいは調理スタッフだけを確保すればよいとなれば、かなりの費用節約となります。
店舗の立地に左右されない
実店舗で飲食店の営業を行う場合には、商圏などを考慮した店舗の立地が成功の大きなカギとなります。
しかし店舗がない業態であれば、立地を考慮する必要もほとんどありません。
初期費用の話にもつながりますが、立地重視でなければ店舗物件も見つかりやすく、地代家賃も抑えられます。
客の回転率に左右されない
店舗がない業態では、売上が回転率に左右されないこともメリットと言えます。
実店舗では限られた客席数で利益を上げるため来店客の回転率をいかに高めるかが重要です。
これには客側の動きもカギとなってきますが、客席がなければ提供する側の努力が収益に反映されやすくなります。
というのも、お客さんが食事を終えて出ていくのを待つことなく、注文が入ればその都度、調理して提供できるから。
一日でさばける客数が物理的に上限のある実店舗と異なり、提供する側のキャパシティ次第で利益を拡大することが可能なのです。
デリバリーなら天候に左右されにくい
実店舗の場合、雨などの悪天候は客足が減るマイナス材料です。
しかしデリバリーならそのような影響は受けにくく、むしろ「行くのがいやだから自宅まで届けてほしい」というニーズが高まり注文が増えることも期待できます。
ただし、料理のデリバリーを代行業者に委託する場合には、雨など悪天候の日には配達員の確保が難しくなる可能性もあります。
その点も考慮する必要があるでしょう。
店舗を持たずに飲食店を開業するデメリット
気になるのは、店舗を持たないことによるデメリットです。
開業してから「こんなこともあるのか」と方針転換を迫られることのないよう把握しておきましょう。
認知度を上げにくい
実店舗を持たないサービス業態では、存在をいかに認知してもらうかがが大きな課題です。
通りがかってそのまま入店してくれるなど、客が向こうから来てくれることはないからです。
特に開業したばかりの段階では知名度がないので、認知度を上げる集客活動が重要です。
店舗という直接的な接点がない分、複数の手段を使って積極的にアピールしていく必要があります。
ネット上には競合の事業者も多いので、自前のホームページだけの集客では厳しいかもしれません。
検索エンジン対策(いわゆるSEO対策)に詳しい業者に作成を依頼したり、販売代行サービスを利用したりすることを視野に入れる必要があります。
調理から食べてもらうまでにタイムラグがある
デリバリーなどの場合、店内飲食のように提供してすぐ食べてもらえるとは限りません。
そのため料理の提供から消費までのタイムラグもデメリットとして挙げられます。
調理から一定時間が経過しても料理の味や見た目が落ちないような工夫が必要です。
お客さんの反応が見えない
デリバリーサービスでは、食べている様子が見えません。そのため、商品やサービスに対するリアクションがわからないのもデメリットの1つです。
食べ残しなどの状況から改善点を見つけることもできません。お客さんの笑顔がやりがいとなる人も多く、やりがいを見出せない恐れもあります。
味だけで勝負しなくてはいけない
店舗を持たない場合、特にデリバリーでは、ほぼ味だけの勝負となります。接客や店内の居心地といった加点要素がありません。
競合と比べても味が良いものを作ることはもちろん、それをいかに売り込み、お客を確保できるかがカギとなります。
ドリンクが売れにくく原価率を下げにくい
原価率が比較的低く、飲食店の売り上げの多くを占めるのがドリンク類です。しかし店内飲食でないとドリンクが売れにくいというのも、店舗がないことのデメリットです。
利益率を上げるにも原価率が下げにくく、苦労するかもしれません。
配達を代行に頼む手数料の負担が大きい
デリバリーの場合、配達人員を確保しなければなりません。
複数人の配達要員を雇うには、採用に費用や手間がかかり、人件費も高くなるため配達代行サービスを利用するのが一般的です。
しかし配達代行サービスを利用する場合にも手数料がかかります。
例えば、「出前館」では商品代金の25%の手数料を支払う必要があります。
「Uber Eats」は手数料が公開されていませんが、売上代金の35%程度の手数料がかかるといわれています。
この他、初回登録時に登録手数料などが必要です(時期により無料キャンペーンあり)。
便利なサービスではありますが、手数料が予想以上に負担になるというのも注意すべきポイントです。
店舗を持たない飲食店の開業方法
では実際に店舗のない業態で開業するにはどんな手続きなどが必要となるのか、必要な設備や開業の手続きについてそれぞれ見ていきましょう。
ゴーストキッチン・クラウドキッチン
必要な手続きなど
店舗がない飲食サービスでも、他の事業と同じく税務署への開業届を提出します。開業届は、開業日から1カ月以内に提出することと定められています。
また、飲食業の営業許可を取るために、保健所に申請書を提出します。
営業許可は提供する料理や商品やその形態によって種類が異なるので注意が必要です。
例えば、料理と一緒に酒類をデリバリーによって提供する場合には、酒類小売業免許の取得も必要です。
自分が展開したい事業に必要な許可が何かを確認し、取得漏れがないようにしてください。
区別などが微妙でわからない場合は、保健所に問い合わせましょう。
営業許可を取るには食品衛生責任者の設置も必須です。
調理師や栄養士、食品衛生管理者などの資格がない場合は講習を受けることになります。
施設などの準備
ゴーストキッチンでは、自社独自の調理場所を確保する必要があります。
そのため、物件の確保や内装工事の手配、厨房機器の調達なども必須です。
物件は、客を迎える店舗のように立地を重視する必要はないとはいえ、家賃や交通状況などが経営に大きく影響します。
クラウドキッチンの場合は、自社用の物件や厨房機器の調達は必要ないもののレンタルキッチンなどの調理場所を確保する必要があります。
自社用のスペースでないため、営業したい時に設備が使用できないなどのトラブルが起きる可能性があります。
レンタル契約の内容などをあらかじめ確認して、慎重に選ぶことが重要です。
キッチンカー(フードトラック)
必要な手続きなど
キッチンカーで開業する場合にも、開業届と飲食店の営業許可は必須です。
キッチンカーは場所を選ばず営業できる点がメリットですが、市や県をまたいで営業する場合には各地の保健所で営業許可を取らなくてはいけません。
施設などの準備
準備としては、まずキッチンカーを用意します。
自身が保有する車両を改造する、もしくは専用のキッチンカーを購入するのが一般的ですが、費用を抑えるためにレンタルを利用する人も増えています。
車両の種類や大きさなどもいろいろあるので、調理内容や売るもの、出店場所などを考慮して選びましょう。
改造するなら、営業許可に必要な設備の要件を前もって調べ、適応させてください。
車を確保したら、什器等を整えます。自動車保険や損害賠償保険などへの加入も忘れないようにしておきましょう。
自宅・週末カフェ・ソーシャルダイニング
必要な手続きなど
自宅・週末カフェやソーシャルダイニングを始めるにも、規模の大小にかかわらず開業届と飲食店の営業許可が必要です。
また、建物全体で収容できる人数が30人を超える場合は、消防署への防火管理者選任届の提出も義務付けられています。
さらに、マンションなど集合住宅では、住宅専用物件であるところがほとんどです。
カフェを営むこと自体が禁止である可能性が高いので注意が必要です。知らずに開業しても契約違反となります。
また、手続き上は問題がなくても、騒音や駐車スペース、客のマナーなどで近隣住民とのトラブルが生じる恐れが。
事前の周知や断りなどの調整も必須です。
設備などの準備
「おうちカフェ」というと手軽に家にお客を招くイメージもありますが、事業として利益を得るなら、自宅のキッチンで調理したものをカフェで出すことはできません。
営業許可を取る必要があり、それには、住居としてのスペースと営業用のスペースとを分ける必要があります。
つまり、キッチン設備も自宅用とは別に、カフェ営業用の設備を整える必要があるのです。
もともとカフェを開く予定で建てた家でない限り、キッチンの改装は必須でしょう。接客専用のダイニングルームを設けるためのリフォーム工事なども必要です。
ソーシャルダイニングの場合には、利用する場所をその都度、もしくは定期的に契約するなどして確保する必要があります。
調理器具や食器など、借りられない物で必要な物は自前で準備しておかなくてはいけません。
店舗なしの飲食店が集客のために行うべき施策
店舗なしの飲食店で、最も苦労するのが集客です。
ビジネスを少しでも早く軌道に乗せるためには、効果的な集客方法を検討することが重要です。
SNSはターゲットに合わせた活用を
スマートフォンが主要なコミュニケーションツールである現代、最も有効な手段がSNSの活用です。
FacebookやTwitter、Instagram、LINEなどが広く知られていますが、それぞれサービスの特徴や利用者層が異なります。
ターゲットとする客層に応じて使い分けをしなければ、思ったような集客は得られません。
例えば、サラリーマンやシニア世代がターゲットなら、これらの層に多く利用されているFacebookで頻繁に情報発信や宣伝広告を行うのが有効と考えられます。
若い世代や女性がターゲットならInstagramで「映える」画像を利用した情報発信が効果的でしょう。
「見てもらえる」チラシの配布
チラシを作り、デリバリーの配達時に渡す・近隣のお店に置いてもらう・ポスティングする、なども集客方法の1つですが、その内容にも工夫が必要です。
割引サービスやプレゼントなどのクーポン付きにする、「おいしそう」「SNSに投稿したい」と思わせる画像を使ったメニュー紹介や魅力的なメニュー説明を掲載するなど、捨てる前に「ちゃんと見てもらえる」チラシを作りましょう。
デリバリーの委託は業者を吟味
店舗なしの飲食店を営む多くの事業者が利用しているのが、デリバリーの代行サービス。この委託業者の選択も、経費の面だけでなく集客において重要な要素です。
デリバリー代行業者は数多く存在しますが、選ぶときの基準となるのは(客としての)登録者数やデリバリーにかかる手数料、最低注文金額の設定の有無などです。
特に手数料については、商品代金に応じて金額が変わる、基本料金プラス配送距離に応じた加算金を払う、など業者によって条件が異なります。
ターゲットや地域、料理の値段など自社の状況に適したサービスを選びましょう。
まとめ
店舗を持たない飲食店は、初期費用などの節約ができるメリットがあるとともに、集客が難しい、デリバリーの委託には手数料がかさむ、といったデメリットもあります。
開業するには、一般的な飲食店と同じく営業許可の取得も必須ですし、業態によっては複数の許可を取らなくてはなりません。
営業許可など、各種の必要な許可を取っておかなければ食品衛生法や消防法など法令違反となり、営業取消などの処分を受けることになります。
事業にどんな手続きが必要なのか、どんな設備を整えておくべきなのかを事前に必ず確認してください。
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