便利屋とは、「何でも屋」や「よろず屋」とも呼ばれ、その仕事は多岐にわたり、例えば、掃除や買い物といった家事代行もあれば、電気機器の修理など専門知識が必要なものまでサービス対象となります。
便利屋は基本的に誰にでも始められ、個人で始めることもフランチャイズに加盟することも可能ですが、請け負う仕事によっては、資格や許認可を取る必要があります。
この記事では、便利屋を開業する前に知っておきたい資格や手続き、フランチャイズ加盟のメリット・デメリットについて解説します。
目次
便利屋の開業は資格も許可も不要、だが
冒頭でも触れたように、便利屋を開業する、それ自体に免許や特別な手続きなどは必要ありません。
基本的には誰でも便利屋として店を開くことができます。
ただし、「便利屋」には「なんでもやってくれる」というイメージがあります。
依頼の中には、資格や免許を必要とするものもあるでしょう。
依頼者は資格の要不要など気にせず依頼してきます。
資格や免許が必要な仕事を無免許・無許可で行うと、当然ながら法令違反です。
罰金刑などが科されるおそれもあるので注意しなくてはなりませせん。
例えば、「高齢者の髪をちょっと切ってほしい」という依頼を受けたらどうでしょう。「ちょっと髪を切る」くらいは誰にでもできることですが、理容師や美容師の免許がなければ「他人の髪を切ってお金をもらう」ことはできません(この場合、無償のサービスとしてなら可能)。
もちろん、自身や従業員が資格や免許を持たない業務は専門業者に外注すればいいのですが、その分、利益は減ってしまいます。
便利屋が持っていると役立つ資格や免許
仕事を依頼されても、免許がなくてできない、資格がなくてできない、と断っていてはなかなか仕事は増えません。
逆に、資格や免許のいる仕事と知らずに来る依頼をすべて受けてしまえば、故意でなくても法令違反となるおそれがあります。
そうならないためには、何にどんな免許・資格が必要かも知っておくべきでしょう。
便利屋として持っていると役立つ資格や免許について、主なものを挙げてみます。
自動車免許(一種・二種)
便利屋として仕事を請け負うなら、事実上「普通自動車第一種免許(一種免許)」は必須と言えます。
自身の移動手段としてはもちろん、重い工具や道具類を運ぶ必要もあります。場合によっては、不用品などの回収・運搬を行うこともあるでしょう。
大きなトラックで荷物を運ぶなら、普通でなく中型や大型などの免許が必要となります。
また、交通の便が悪い場所に住んでいるからこそ便利屋に頼む、ということもあり得ます。
公共交通機関で行ける範囲は、都会でない限りかなり狭まります。運行本数も限られるので、スピーディーに動くことができません。
また、人を乗せて運び料金をもらう場合には「普通自動車第二種免許(二種免許)」が必要です。
仕事の流れなどで移動する際に人を乗せ、運賃としてお金をもらうわけでないなら一種免許でも問題ありません。
運転代行も引き受けるなら、二種免許だけでなく自動車運転代行業の認定を受けなくてはなりません。
運転代行業の申請手続きは警察署で行います。
一般廃棄物処理業/産業廃棄物処理業
工場や企業から出る廃棄物を処理するには、「産業廃棄物処理業」の許可を取る必要があります。
ただしこの許可では、一般家庭の不用品の処分を代行することはできません。一般家庭からの依頼を受けるなら「一般廃棄物処理業」の許可が必要です。
許可申請は、廃棄物の処理業務を行う区域を管轄する市区町村または都道府県に行います。
事業所と処分場で区域が異なる場合はそれぞれの警察署での手続きが必要です。無許可で行うと法令違反となるので、必ず許可を受けてから行いましょう。
また、引き取った不用品を廃棄ではなく中古品として買い取り、リサイクル業者などに売る場合には、「古物商」の許可も必要となります。
貨物軽自動車運送事業(黒ナンバー)
軽自動車またはバイクで荷物を運搬する仕事を請け負う場合には、運輸支局に届け出て「貨物軽自動車運送事業」の許可を取る必要があります。
なお、この許可は運搬を目的とする仕事(他人からの依頼を有料で受ける)に関してのみ必要で、業務のついでに無料で運ぶ・乗せていくというようなケースは該当しません。
動物取扱責任者・第一種動物取扱業
ペットシッターやペットの散歩代行など動物を扱う仕事を受ける場合は、事業所に「動物取扱責任者」を置き、「第一種動物取扱業」の登録を受ける必要があります。
ただしこの動物取扱責任者には、厳しい資格要件が定められています。
例えば、トリマーやペットシッター士など動物の取り扱いに関する資格を持ち、かつ6カ月以上の実務経験がある人、といった具合です。
講習を受ければ誰でもなれるような性質のものとは異なります。
この資格に限らず、資格要件を満たす人がいなければ、外注できる専門業者と提携するなどの手を打っておく方が早いかもしれません。
その他
法的に必要性がなくても、持っていた方が信頼されやすく、仕事の質も高められる民間資格もあります。
ホームページでのスタッフ紹介、名刺などに記載すれば、いわゆる「箔」がつくでしょう。
例えば、亡くなった人の遺品整理を行うのに効果的なのが「遺品整理士」の資格です。
また、「便利屋技能検定」という資格も存在します。
便利屋としての基本的な知識や、業務を請け負い作業する際の注意点などが学べるので、業務を行う地域のニーズを考えた上で、こういった必要な資格や免許を取っておくことをおすすめします。
便利屋を開業する3つの方法
便利屋として開業するには、主に3つの方法があります。
3つとは、「個人での開業」と「会社の設立」、「フランチャイズへの加盟」です。
それぞれについて具体的に見ていきましょう。
個人で開業する
まずは小さく始めて様子を見たい、自由に動き回りたい、という人は、個人事業主となって開業するのがよいでしょう。
人を雇わず1人で行うなら、受ける仕事の範囲なども自ずと決まり、複数の仕事の進行管理を同時に行うなどの必要もありません。
自分の裁量で好きな時間に働くなど、臨機応変な対応がしやすいメリットもあります。
ただし、個人では社会的な信用度の面で会社組織より劣るのは否めません。そのため、第三者的に見る個人の経験や能力がより重視されるでしょう。
人脈や知名度がなければ仕事の依頼もなかなか来ないかもしれません。
個人事業主として開業する場合は、「個人事業の開業・廃業等届出書」を管轄の税務署に提出します。
会社設立(後述)と異なり手続きが簡単なこともメリットでしょう。
会社を設立する
便利屋業を誰かと一緒に始める、将来的には店舗を増やす目的があるなどの場合には、会社を設立するのがよいでしょう。
とはいえ、株式会社は今や1人で立ち上げることも可能ですし、個人で始めたのちに法人化することも可能です。
会社として登記することで、社会的な信用度が高まり、金融機関からの借入がしやすくなる、節税対策がしやすくなる、といったメリットがあります
ただし、会社設立の手続きは個人の開業より手間も費用もかかります。
節税対策がしやすくなる代わりに、税金に関する申告手続きも複雑になることがデメリットと言えます。
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フランチャイズに加盟する
便利屋には、全国に店舗を展開するフランチャイズもいくつか存在しています。そのフランチャイズに加盟するというのも1つの方法です。
フランチャイズへの加盟とは、確立されたブランドや店舗運営に関するノウハウ・権利を使わせてもらう代わりに、加盟料やロイヤリティを支払う仕組みです。
ただし、フランチャイズ加盟にもメリット・デメリットがあり、向いていない人もいるかもしれません。
便利屋のフランチャイズに加盟するメリット・デメリット
開業費用を抑える目的でフランチャイズ加盟を選ぶ人もいますが、働き方などが合わない人もいます。
費用面だけでなく、メリット・デメリットを総合的に見て判断してください。
フランチャイズに加盟するメリット
フランチャイズに加盟することには、主に3つの大きなメリットがあります。
- 知名度やブランドを利用できる
- 経営や店舗運営に関する指導が受けられる
- 業務マニュアルなどで実践的なノウハウが得られる
まず、フランチャイズなら、すでに全国的になっている知名度やブランド力を活かせます。集客がしやすく、経営を早く軌道に乗せやすいでしょう。
人材を募集するにも、知名度が高い方が良い人材が集まる傾向にあります。
経営や店舗運営の指導も受けられるので、事業の経営が初めての人でもある程度の収益を上げることが期待できます。
大手ほど研修制度や業務マニュアルが整い、マーケティングから接客方法まで体系化されています。
従業員を雇う場合にも、人材教育にかける手間や時間が少なくて済みます。
フランチャイズに加盟するデメリット
フランチャイズには、デメリットもあります。
また、人によっては上記で紹介したメリットがデメリットに感じることがあるかもしれません。
フランチャイズに加盟することの主なデメリットとして、次の2点が挙げられます。
- 自分の裁量で自由な店舗運営ができない
- ロイヤリティが大きな負担となることも
加盟店として便利屋を営むには、本部のルールや指示に従う必要があります。
せっかく自分の店を開いたのに人からの指示に従わなくてはならない、となれば、役立つはずの本部からの指示がストレスとなる可能性も高いです。
また、フランチャイズへの加盟には、加盟金や月々のロイヤリティとしての支出も必須です。
フランチャイズによっては売上がない月にもロイヤリティを支払わなくてはならず、経営を圧迫しかねません。
ロイヤリティの金額は、加盟するフランチャイズによってさまざまです。利益の30%といった売上歩合方式や、毎月3万円~5万円程度を支払う定額方式が一般的です。
こういったメリット・デメリットを踏まえて、自分が描く理想の働き方、便利屋としての在り方も考えた上で検討しましょう。
サラリーマンの副業では難しい、その理由
便利屋を副業にすることを考える人もいるかもしれません。
しかし、便利屋は副業には向きません。その理由は大きく2つあります。
「便利」に動けない
便利屋は、文字通りお客にとって「便利」な存在であるべきもの。「便利」であるためには、スピードが重要です。
仮にサラリーマンとして一般企業に勤める人なら、平日の昼間にかかってきた電話にすぐに対応することができません(本業をサボって、というのは論外なので省きます)。
自分の開いた時間に、というのがそもそも便利屋としては不十分であり、お客が同業他社に持っていかれたとしても不思議ではないでしょう。
集客が難しい
副業としてできる範囲にするため、営業時間をかなり限定するという手もあるでしょう。しかしそうなると、依頼してくれる客は限られます。
また、そういった仕事の仕方では、大々的に宣伝して集客することも難しいものです。「平日夜または土日祝日のみ営業」の便利屋と聞いて、利用したいと思う人はどれくらいいるでしょうか。
ただでさえ個人では社会的な信用を得にくい上、知名度を上げるのも難しいという難点もあります。
十分な稼ぎが得られない可能性が高いほか、睡眠時間を削るなどして本業にも支障をきたしかねません。
便利屋の開業に必要な手続き
では、便利屋を個人事業主として開業する場合の手続きの流れを見ておきましょう。
仕事に使う車を用意する
便利屋にとって車は必須、というのは先にも触れたとおりです。
車種も、請け負う仕事に合ったものを選ぶ必要があります。
必要な道具や資材などを積むスペースは常に埋まるものとして、頼まれた荷物など用のスペースも考慮しなくてはなりません。
送迎など人を運ぶなら、道具を運ぶのとは別の車でゆったりした空間を用意すべきです。
車は、自己保有かリース契約などで常に使用できる状態をキープしたいところ。レンタカーでは最適な車が常に空いているとは限らず、なければ探すなどの時間的ロスが生まれます。
連絡先となる電話番号を用意する
便利屋の開業は店舗を持たなくても可能です。しかし電話番号はプライベート用とは分けておきましょう。
便利屋にくる依頼の中には、緊急性を伴うものも少なくないはずです。
電話にすぐ出られるようにするのはもちろん、番号を分けておくことで生活の公私の区別やプライバシーの保護、経費の区別にも役立ちます。
ネット予約も選択肢として持っておきたいところですが、依頼を見落すリスクもあります。
年配の人などには、電話の方が利用しやすいはずです。
リスクに備えて各種保険に加入する
便利屋の仕事は、さまざまな場所に出入りする可能性があります。
他人やその持ち物、住宅などに損害を与えるリスクがあるなら、賠償責任保険への加入も検討しましょう。
便利屋の仕事では、車に人を乗せたり、他人の所有物を運んだり、他人の敷地内で作業を行ったりといろんなケースが考えられます。
事故など何らかの理由で人にケガを負わせたり他人の物に損害を与えたりしてしまった場合には、損害賠償を請求されることもあり得ます。
ただ、家事代行や掃除代行といった仕事だけなら、人や物に損害を与えるリスクは低いでしょう。
もちろん、自身が移動中に交通事故に遭う可能性なども考慮して、自動車保険(任意保険)への加入も必要です。
従業員を雇用するなら労働保険にも加入
従業員が1人でもいる場合は、労働保険(雇用保険と労災保険)の対象となります。義務なので必ず手続きをしてください。
保険料は、雇用保険は決まった率を、労災保険は全額を事業主が負担します。
5人以上の従業員を雇う場合には、社会保険(厚生年金と健康保険)への加入も必要です。
社会保険料は、事業主と従業員とで保険料を折半します。
ちなみに、自身の社会保険についても、サラリーマンからの転身で便利屋を開業する場合には、退職と同時に会社の社会保険から外れることとなるため、「国民健康保険」と「国民年金保険」への切り替えをしてください。
手続きは市区町村の役場で行います。
開業届を税務署に提出する
個人で始める場合には、「個人事業の開業・廃業等届出書」を税務署に提出します。
また、所得税の申告を青色申告にして特別控除を受けるために、開業届と同時に「青色申告承認申請書」も出すのが一般的です。
会社を設立する場合は、定款を作り認証を受け、登記をしなくてはなりません。詳しくはこちらの記事を参考にしてください。
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便利屋の開業を成功させるには
便利屋の仕事について、ネット上などでは「誰にでも簡単にできる」「電話1本で開業できる」といったうたい文句も目にしますが、始めるのは簡単でも、稼ぐのは簡単ではありません。
商圏分析やターゲット想定など、他のビジネス同様に開業までの事前準備をしたうえで、開業後にも努力をし続ける必要があります。
ここでは、成功に不可欠なポイントを紹介しておきます。
事業計画書を作る
事業計画書は、経営を円滑に進めるために作成を強くおすすめします。
事業計画書には、事業内容のほか事業の戦略、売上見込みや資金繰りなどを記入します。
活動の方向性の見直しや従業員との目標共有、第三者からの事業への理解を深める手段として使います。
事業計画を立てることで、事業を俯瞰的・客観的に見ることができます。
足りない点や矛盾点、正すべき点などが見えやすいので、より多くの収益を上げるヒントも見つかります。
融資への申し込みにも、金融機関への事業計画書の提出が必須です。
事業計画書の必要性などについてはこちらの記事で解説しています。
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集客を積極的に行う
ビジネスの成功に欠かせないのが「集客」です。
しかし開業したばかりの段階では知名度がなく、待っていても仕事はなかなかきません。
自社(個人も含む)のホームページを作って、どんな依頼を受けるのか積極的にアピールしましょう。
その際に、自己紹介や顔写真などのプロフィールを載せておくことで信頼性を高められます。
また最近はSNSによる情報発信が主流であり、集客に欠かせないツールです。
「Twitter」や「Facebook」「Instagram」など種類がありますが、画像で伝えるのか文字で伝えるのか、ターゲット層の利用の多いSNSは何かなどを考慮した上で積極的に活用しましょう。
便利に動ける体制を整えておく
便利屋がお客様にとってその名の通り「便利」であるためには、スピード感を持って動ける体制を整えておくことが必要です。
依頼が来てから必要なものを揃えるのでは遅いので、想定される依頼内容を大まかな種類に分けるなどして用意しておきます。
自分ひとりでは対応できないケースも想定し、こういう場合は○○にヘルプを依頼する、この場合はこの業者に連絡する、といった外部との連携も整えておきましょう。
また、同じ種類の依頼でも、家庭や依頼者個人によって要望は異なるもの。臨機応変に動けるのがベストとはいえ、どんな依頼は断るかなどの線引きをしておくと、後々になって困らずにすむでしょう。
便利なだけでなく質の良い仕事をする
便利屋に限ったことではありませんが、質の高いサービスを心がけることも大切です。
「何でも屋」として許認可が必要ない仕事であるからこそ、正しい判断やモラルが求められるのです。
また、依頼する側が求めるのはプロのクオリティです。
例えば、ふすまの張替え1つとっても仕事が早く、見た目に美しく仕上げるのが当たり前と見なされます。
今や、質の低い仕事を行えば、直接クレームがくる以外にも、SNSなどに投稿されて情報として拡散されるおそれもあります。
そうなれば信頼性がなくなり、集客も難しくなるでしょう。
中には、違法あるいは社会的に見て不適切と考えられる依頼が来る可能性もあります。
そういった依頼を1度引き受けてしまえば、今後の仕事はそういった類のものばかりになる恐れもあるので「1度だけなら」ではなく、はっきりと断るのが自身のためです。
まとめ
開業時に資格や免許がいらない「便利屋」は、気軽に始められるビジネスの1つです。とはいえ、「便利屋」でいるからにはさまざまな作業をプロ並みにこなせなくてはなりません。
送迎をメインとする仕事や、電気工事、廃棄物の処理など資格や免許が必要な作業を行うには、当然ながらその資格や免許を取らなくてはなりません。
何を請け負うのか、あらかじめ想定した上で必要となりそうな資格や免許を取得しておきましょう。
なお、当サイトの運営会社「税理士法人Bricks&UK」では、起業や事業経営に関するさまざまなサポートを行っています。
便利屋を始めるにあたって、会社設立の手続きや、融資を受けるなら創業計画書の作成支援など、さまざまな場面で支援が可能です。
ぜひ一度ご相談ください。
創業時の融資相談もBricks&UKにおまかせください!
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