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「半沢直樹 第五話」の解説・今後の考察※ネタバレ注意
2020年7月19日から始まったドラマ「半沢直樹」は、電脳雑技集団による東京スパイラル買収劇をめぐった三笠副頭取と伊佐山とのバトルは、見事、倍返し成功で折り返し(原作の『ロスジェネの逆襲』分)、半沢は出向先の東京セントラル証券から、無事に東京中央銀行へ復帰となりました。
今回いよいよ後半(原作の『銀翼のイカロス』分)の幕開け、第五話です。
第五話から話は、帝国航空の再建プロジェクトを巡って半沢が国家権力と対峙するというもの。
これは国家権力に倍返しする結末が予想されるわけで、ものすごい話になってきました。
経営破たんした大手航空会社・帝国航空に対し、国土交通大臣に就任した白井亜希子が会見で、政府主導による帝国航空の再建を発表。
弁護士の乃原正太をリーダーとした「帝国航空再生タスクフォース」の設立を発表します。
この再建案は、融資を行っている各銀行に対し、帝国航空に対する各銀行の債権を一律7割放棄するよう迫る内容でした。
債権放棄を飲んだ場合、東京中央は500億円の回収を諦めなくてはなりません。
帝国航空は、経営体制の改善でまだ自力再建は可能であり、債権放棄は必要ないと踏む半沢の戦いが始まります。
前回分はこちらから
半沢直樹セカンドシーズン第五話のあらすじ
国土交通省大臣・白井の「帝国航空再生タスクフォース」の再建案は、銀行に債権放棄をさせたうえ、取締役の総入れ替えをするものでした。
これに対し半沢たちが提示した再建プロジェクトは役員の減給や大規模なリストラ、不採算路線の廃止など痛みは伴うものの、役員の総入れ替えはなく、債権放棄もありません。
帝国航空の社長、神谷をはじめ、財務部長の山久、そして東京中央から出向している財務担当役員の永田の3名は当初、半沢達の提案に拒絶反応を示しますが、半沢の熱意溢れる説得を聞き、再建案を受け入れることにします。
さらに半沢達は、帝国航空の現場を巡回、技術者、整備士、客室乗務員、パイロットたち社員が、信念をもって業務に取り組んでいる様子を目の当たりにし、必ず自力再建できることを確信します。
その一方で、半沢達のこのような動きを耳にしたメインバンク「開発投資銀行」の谷川に半沢は呼び出され、メインバンクである自分たちを差し置いて、勝手に再建プロジェクトを進めるのは道理に反している。政府に任せるべきではないか、と抗議されます。
ところが半沢は、開発投資銀行の谷川に対し、債権放棄すれば開発投資銀行も被害を被る。帝国航空は自力で再建できると逆に説得します。
ここで事態は急転直下。
何者かが正式発表前に、半沢達の再建案を全社にメールでリークしたのです。
当然、帝国航空の社内は大騒ぎになります。
リークされた内容は、なぜか「従業員のリストラ」や「待遇の見直し」などが不自然に強調され、「役員報酬の大幅カット」などは記載されていませんでした。
立場の弱い従業員だけに痛みを強いる再建案に、社員たちは一気に半沢への不信感を募らせます。
再建案を妨害するために、意図的に項目を改ざんした資料がリークされた、と推測した半沢。
リークした人物を突き止めるため、電子メールがどこから発信されたのかの解析を、東京スパイラルの瀬名に依頼しました。
瀬名は法令に触れるリスクを覚悟で、半沢のためにそのメールが、伊勢志摩の雑居ビルの一室から発信されていることを突き止めます。
半沢が現地に赴いてみると、そこは「丸岡商工」という小さな会社でした。
丸岡商工は帝国航空からポスターなど販促物を受注している様子です。
ところが、財務部長・山久に依頼して伝票を調査すると、発注された数量と実際にに納品された数量が大きく食い違っていることが判明しました。
しかも山久によると丸岡商工との取引は、永田の指定で決まったことだということでした。
さらに、丸岡商工が帝国航空から受注した金額のうち、大部分が消えていることを発見した半沢は、東京中央から出向した役員・永田の兄が国会議員であることを思い出しました。
この不当な金の流れが、永田によるものだと感づいた半沢は、丸岡商工の社長を尾行し、タクシーの中に追い込んで問い詰めます。
永田の意向で発注先に指定してもらった丸岡は、架空の受発注を繰り返し甘い汁を吸っていた見返りとして、国会議員である永田の兄に政治献金を行っていたのです。
これを暴かれ遂に観念した丸岡は、永田の指示によりリークメールを送信したことを白状します。
最後に、半沢の再建案を社内に説明する「社内説明会」のシーンで、このタクシーでの丸岡商工社長の白状シーンの動画が流され、永田の悪事が白日の下にされされました。
「帝国航空にとってもっとも不要なコストは……お前だ!永田ぁ!!」
半沢から糾弾され、永田は逃げるように会場から立ち去ります。
こうして帝国航空内は再び一丸となり、東京中央の再建プロジェクトの元、縦割りの弊害や現場システムの見直しを進める方向に進もうとするのでした。
企業の再生とは~会社更生法の適用の解説~
帝国航空のモデルは「日本航空(JAL)」であると言われています。
ここではJALのケースとドラマ中の帝国航空を見比べながら、現実とドラマのどこがどのように違うのかを見ていこうと思います。
会社更生法の適用
ドラマ中でははっきりと出てきませんでしたが、帝国航空は会社更生法の適用を受けていないとみるべきでしょう。
反対にJALの場合は、2010年1月に会社更生法の適用を申請しています。
会社更生法とは、再建するために行う倒産の手続です。
会社更生法の第1条には、会社更生の目的があり、「窮境にある株式会社が更生計画の策定・遂行により、取引先などの利害関係者との利害を調整し、株式会社の事業の維持更生を図ること」としています。
会社更生法は、企業が倒産することによって社会的に大きな悪影響が出ることへの防止を重要視しています。
その対象は株式会社ですが、会社の規模が大きければ大きいほど社会的な影響はおおきく、経済全体へも無視できない影響を及ぼす恐れがありますので、それを防止する目的の法律です。
会社更生手続きで、再建手続きを進めていく主要な役割を負うのは裁判所によって選ばれた「更生管財人」です。
JALの時の更生管財人は「㈱企業再生支援機構」と、弁護士の片山英二氏が選任されました。
これ以降、更生管財人の関与の元に、再生計画や再生を実施する実際の経営者が委託されていきます。
しかし、ドラマ中では更生管財人という言葉は出てきませんでしたので、「私的整理」という前提だと理解できます。
なので、 白井国土交通大臣の権力に傘を着た「再生タスクフォース」が銀行に対して、強い態度で債権放棄を要求していたわけです。
JALの時、債権放棄はあったのか
JALの時は、銀行の反発を招きながらも交渉の末、全銀行合わせて5,200億円余りの債権放棄がなされました。
次章で述べますが、債権放棄をするということは銀行も大変な痛手を被ります。
経営上、一番避けたいことの一つになりますので、大臣が言っているからと言って、二つ返事で「はいわかりました、良いですよ」というわけにはいきません。
JAL再生の時の債権放棄は、東京地方裁判所による会社更生法適用の決定というお題目の元、これも裁判所に指名された更生管財人の企業再生機構が指名した、新しいCEO京セラ名誉会長の稲森和夫氏のもとで行われました。
経済界でカリスマ経営者と言われる稲森和夫氏の意向と、裁判所の決定があってのことであれば、銀行も稟議が書きやすいので債権放棄のハードルはグッと低くなります。
しかしドラマ中では、裁判所の決定や更生管財人など出てこず、国土交通大臣率いる再生タスクフォースが直接、債権放棄をガツガツ強引に要求していました。
半沢ら銀行が反発して債権放棄を拒否するのも、無理はなさそうです。
債権放棄は簡単ではない
ドラマ中、白井国土交通大臣が、半沢達に債権放棄を要求してくるシーンがあります。
大臣という国家権力が言うのであれば、応じてもよさそうなものですが、そうはいきません。
これはドラマ中でも現実でも同じことなのです。
なぜかというと、以下のような理由が挙げられます。
1.株主に対する責任
銀行は株式会社です。出資している株主がいます。
債権放棄など損失を被る行為は、株主が得られる利益と相反します。
株主が反対するのは必然であり、説明責任が果たせないのならば、株主総会で苦境に立たされるであろうことが、容易に予想できます。
2.他の債権者との公平性
銀行が融資しているのは、債権放棄の対象になっている会社だけではありません。
他の企業にも、数多く融資しているわけです。
東京中央にしてみればほかの債務者は債権放棄しないのに、なぜ帝国航空だけ借金を棒引きにするのか、ほかの融資先に説明するのが困難です。
「国土交通大臣の要請なので…」では説明になりません。
3.預金者への配慮
そもそも銀行が企業に融資するお金は、預金者が預金してくれたお金が原資になっています。
低い金利で預金をあずかり、それより高い金利で企業に貸し出すことによって利益を得ているわけです。
企業に貸したお金が丸々返ってこないということは、預金者が自分の預けたお金が返ってこないのではないか、という不安につながります。
銀行はこの点について、絶対に大丈夫であることを預金者に証明しなくてはなりませんが、困難なことになるでしょう。
4.税務上のリスク
債権放棄してから、「実は債権放棄しなくても再生できた」などといわれたら、貸したお金を差し出したことになってしまいます。
何の見返りもなく、お金を差し出す行為は税法上「寄付」にあたります。
寄付金は国や地方自治体、国立大学法人などに寄付する場合を除き、税法上損金として認められません。
つまり損をしたのに税金がかかるという、理不尽な事態になります。
このように債権放棄には、このまま潰れてしまうよりも、きちんと再生した方が銀行も他の企業、ステークホルダーが得をするということが証明されていることが必須条件となります。
(この条件のことを「経済的合理性」といいます。)
「大臣が言ったから」ではなく、経済的合理性が証明されない限り、債権放棄に応じるべきではありません。
帝国航空再建にあたって「再生タスクフォースの債権放棄案には、経済的合理性がない」ことを証明するために、半沢達は国家権力と闘うことになります。
メインバンク「開発投資銀行」の存在
ドラマでは、帝国銀行のメインバンクが「開発投資銀行」ということになっていました。
「開発投資銀行」のモデルは1行しかありません。ズバリ「日本政策投資銀行」です。
実は、日本政策投資銀行も株式会社です。
ただし株主は「財務大臣」でその持ち株比率は100%。つまり、事実上政府が運営する銀行だということです。
このような銀行のことを「政府系金融機関」と言います。
日本政策投資銀行の役割を見てみると、「長期の事業資金を必要とする者に対する資金供給の円滑化及び金融機能の高度化に寄与することを目的とする」とあります。
つまり国家としての立場で長期的な目で見て、資金供給が必要と認められたところに、投資もしくは融資を行う銀行であるということです。
この考え方で融資をしようとすると、民間の金融機関では融資できない場合があります。
たとえば、世の中のために有用な発明をしたが、製造して普及するのに時間と資金が必要である場合などです。
民間の銀行では話は聞いてくれますが、リスクが大きいため稟議が通らないことが多いでしょう。
こういう場合に日本政策投資銀行の出番です。
つまり、民間企業が手を出しにくい融資の面倒を見ますよ、ということなのです。
ドラマの話に戻りましょう。
開発投資銀行がメインバンクということは、帝国航空に対して最も多く融資をしていた会社だということになります。
裏返せば、他の金融機関は手を出せなかった「リスクが大きい会社だった」ということになりますね。
半沢は、開発投資銀行の谷川に「メインバンクであるわたしたちを差し置いて、勝手に再建プロジェクトを進めるのは道理に反している。政府に任せるべきではないか」と抗議されたわけですが、最初から政府によって無理をして、なんとか支えられてきた会社だったわけです。
帝国航空の案件での半沢の役割は、東京中央の立場を強調しつつ、最終的には政府に「忖度」して、メインバンクである開発投資銀行の案を飲むことだったと解釈できますが、政府主導の再生タスクフォースの案に「経済的合理性」がないことを見抜いた半沢は、逆に開発投資銀行を説き伏せる方向で動きます。
まとめ
第五話は、半沢達が政府と対立する構図が明確になっていく回でした。
普通なら民間の銀行が政府と対立するなんてあまり考えられませんが、最終的には悪徳政治家をやっつけるという話に展開していきそうです。
このところ、映画やドラマ、アニメもこうした分かりやすい「勧善懲悪」のお話というのがあまりなく、逆にYoutubeなどで、日常のイラッと来るヤツを懲らしめる「スカッと系」動画が大流行しているようです。
半沢直樹の大人気の秘密は、普通のサラリーマンが嫌な上司を懲らしめたり、挙句の果てに国家権力の巨悪を暴いていく「勧善懲悪」にあるのでしょう。
最近は少なくなったこうした勧善懲悪のストーリーですが、半沢直樹の人気ぶりからは、人間はやっぱりこういう話が好きなのだなということがよくわかりますね。
それでは次回、第六話の解説でまたお会いしましょう。