
日本では全国で年間1,000を超える同人誌の即売会が開催されており、矢野経済研究所の調査によれば2020年度の市場規模はおよそ720億円だといいます。
趣味を兼ねて同人作家として活動しているうちにけっこうな収入を得られるようになった、作家としての収入が本業収入を超えた、という人も少なからずいるのではないでしょうか。
そうなると湧いてくるのが、税金に関する疑問です。同人作家としての活動で、それが副業であっても、一定の額を超えれば確定申告をする必要があります。会計処理はどうすれば良いのかも気になるところですよね。
この記事では、同人作家や漫画家の方の確定申告、会計処理について解説します。
目次
そもそも確定申告とは

給与以外の収入があった場合、確定申告が必要だというなんとなくの知識はあっても、そもそも確定申告が何なのかがよくわからない人もいるかもしれません。
確定申告は所得税の調整をする手続き
確定申告は、1月1日から12月31日までの1年間の所得に対する税金の額を計算し、過不足額を調整する手続きです。同人作家や漫画家として活動し、その報酬として一定額の所得(収入ー経費)があった場合には、確定申告をする必要があります。
給与所得であれば月々の給与で源泉徴収され、年末調整でその調整がなされます。給与所得以外で収入を得た場合には、自分で確定申告をしなくてはなりません。
白色申告と青色申告
確定申告には、大きく分けて白色申告と青色申告の2種類があります。青色申告にはいくつかのメリットがありますが、一番は税制上の優遇措置があることです。
青色申告であれば、最大で65万円の特別控除を受けられます。つまり所得から最大65万円を引いた額で所得税が計算されるので、その分税金が安くなるのです。
ただし青色申告にするには条件があり、事前に届け出る必要があるほか、取引を簿記の決まりに基づき記帳をしたうえで貸借対照表なども提出しなくてはならず、手間がかかります。
また、青色申告にするには、所得が「事業によるもの(事業所得)」である必要もあります。これについては後の章で説明します。
一方で、青色申告をしない場合は白色申告をすることになります。白色申告には税制上の優遇措置はないですが、青色申告よりも簡単な帳簿付けでの申告が可能です。
作家・同人活動で確定申告が必要なケースとその種類

では、具体的にどのようなケースで確定申告が必要になるかを見ていきましょう。
副業での所得が20万円を超える
同人活動や漫画家としての活動を副業でしている場合、その活動によって得られた収入から経費を引いた所得が20万円以上あれば、確定申告が必要です。
給与以外で20万円以上の所得はない、という人なら所得税についての確定申告は不要です。ただし住民税に関する申告は必要です。これについては後述します。
本業での所得が48万円を超える
ほかに給与収入などがなく、本業で48万円より多くの所得がある場合には、確定申告が必要です。
合計の所得金額が2400万円以下の場合には基礎控除として48万円の控除がある(令和3年現在)ため、48万円以下であれば相殺されます。
ちなみに、令和元年までは基礎控除額は一律38万円でした。
また、所得の区分によって青色申告できるかどうかが決まります。
事業所得なら青色申告できる
青色申告には条件があると書きましたが、その1つが所得の区分です。同人作家や漫画家の場合、その活動による所得が「事業所得」と見なされる場合には青色申告の申請ができます。
「事業所得」とは、その名の通り小売業や製造業、サービス業などの「事業」を営んで得た所得のことをいいます。
一方、事業所得に該当しないものに関して「雑所得」という区分があります。国税庁によれば、「副業に係る所得」は雑所得であり、例として「原稿料やシェアリングエコノミ―に係る所得など」が挙げられています。
事業所得と雑所得との境目はあいまい
同人作家・漫画家としての活動が事業所得なのか雑所得なのかの判別は難しいところです。それ一本で稼いでいるなら事業所得といえるでしょうが、副業や兼業で個人事業主として活動している人もいるでしょう。
判例などによれば、事業所得と雑所得との判別のポイントは、利益を目的としているかどうか、継続・反復性があるかどうか、活動が自己の責任において計画的に実行されていたかなど。
結局のところは、同人作家・漫画家としての活動頻度や所得の額などによって税務署の判断に委ねられることになります。
収入が赤字の場合はどうするか
同人作家・漫画家として活動はしていても収入が得られず、機材などにお金をつぎ込んだ結果、収支が赤字状態だという人もいるでしょう。赤字であれば、手続き上の決まりとしては確定申告は不要です。
しかし、青色申告をしようとしている場合には、赤字でも確定申告(損失申告)をすることで給与所得との損益を相殺できたり、赤字を3年間繰り越して翌年以降の黒字と相殺できたりといったメリットがあります。
同人作家・漫画家の確定申告の準備

では、確定申告にはどのような準備をしておかなくてはいけないのでしょうか。
所得税は「所得」にかかる税金です。所得とは「収入(事業による売り上げ)-経費」で計算するため、売上と経費の額をはっきりさせておく必要があります。
売上を確定させる

イベントで同人誌を売るなどして得たお金については、必ず記録を残しておきましょう。
いつ、何をどれだけの数売っていくら売り上げたのか、日付や金額、大口なら相手先などを記録しておき、帳簿につけます。
経費を明らかにする

経費については、作品の製作にかかった経費、例えば手書きであればペンや紙などの購入費やイベントの参加費などを記録します。
帳簿につけるだけでなく、領収書やレシートなどは絶対に捨てずに保管してください。
漫画家・同人活動で経費にできるものとは
具体的にどんなものが経費となるのかも気になるところです。例を挙げて見ておきましょう。次のようなものは経費として計上できます。
・ペンやインク、紙などの画材
・作画につかうパソコンやタブレット端末、ソフトウェア
・ストーリー作りの参考にした書籍(漫画本含む)
・作画の参考にした写真集・画集、フィギュア
・取材のための交通・宿泊費、食事代
・同人誌の印刷代・送料
・販売する小物などの材料費・制作費
・携帯電話・スマートフォンの料金
・イベントの申し込み費
・イベント会場への交通費
・家賃や光熱費(事業で使う分を割合で計算)
・打ち合わせや打ち上げなどの飲食代
ただし、どれも「同人作家や漫画家としての活動に要した費用」であることを証明できなくてはいけません。プライベートとの区別をつけて領収書などを必ず保管しておきましょう。
確定申告は、決まった様式の申告書と添付書類を住所地の所轄の税務署に提出します。
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確定申告に伴う注意点
同人作家・漫画家の確定申告については注意点もあります。
パソコンやタブレットは減価償却資産

作画にパソコンやペンタブレット端末を使う人も多いでしょう。購入額が大きいので経費として一気に多額の計上ができるかと思いきや、そうではありません。
パソコンやタブレットに限らずですが、10万円以上のものは「減価償却資産」と見なされます。一度に全額ではなく、耐用年数(使用可能期間)中に分割して計上しなくてはいけません。パソコンであれば法定耐用年数が4年とされているため、4年で分割します。
ただし、青色申告ではこの減価償却についての特例もあります。
取得価額が30万円未満の減価償却資産については、合計が300万円に達するまではその年の必要経費として計上できます(中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額の必要経費算入の特例)。
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売れ残った分は経費にできない
同人誌や小物などの販売は、常に売り切れるとは限りません。200部の同人誌を販売したものの100部しか売れなかった、100部は売れ残ってしまった、という場合、その100部にかかった印刷代については経費から差し引いて計算する必要があります。
売り上げを計上する際には、売れ残りの数も明らかにしておかなくてはなりません。
住民税の申告は所得が少額でも必須
上の章で、副業なら20万円以下、本業なら48万円以下なら確定申告の必要はないと説明しました。しかしこれは所得税についての確定申告の話です。
所得の額にかかわらず、住民税についての申告は必要となるので気を付けましょう。
所得税の確定申告をする場合には、データが県や市などにも伝えられて住民税の額が決まり、改めて住民税の申告をする必要はありません。
そのため所得税の確定申告をしない場合には住民税についての申告を行う必要があることを知らない人も多いので、注意が必要です。
確定申告の気になる疑問
確定申告は、自ら「所得がある」と申し出るもの。「黙っていればわからないのでは?」と思う人もいるかもしれません。
しかし、自分が収入を得ているということは、その相手となる取引先が必ずいるということ。取引先が税務署に提出した書類や税務調査などで発覚することもあります。
税務署もあらゆる方法で税金逃れをする人を見つけようとしているので、どんな方法でバレてしまうかはわかりません。
確定申告をしないとどうなるのか

確定申告をすべき人がしなかった場合に考えられるデメリットには、次のようなものがあります。
・所得・課税証明や納税証明ができない
・住宅ローン控除が受けられない
・延滞税が課せられる
・加算税が課せられる
たとえば作家としての事業を大きくしようと融資を受ける場合や住宅ローンなどを受ける場合、審査の際に納税証明書が必要となることが多いです。また、児童手当などの受け取りに所得の額を証明する書類が必要となることもあります。
確定申告をせず、納税が期限に間に合わなかった場合には、本来納めるべき税金に加えて延滞税が課せられます。
本来の納税額より少ない額を申告した場合には、過少申告加算税が課せられます。
申告自体をしなかった場合には、本来納めるべき税金に加えて無申告加算税が課せられます。
二重帳簿を作成するなど意図的に納税額を低くしようとした場合には、重加算税が課せられる恐れもあります。
このほか、まれではありますが多額の脱税により刑事罰を科せられることもあります。
確定申告をすると会社にバレるのか

副業として同人活動をしていて、会社にバレたくないから確定申告したくない、と思っている人もいるかもしれません。
同人活動に限らず、確定申告で副業が会社にバレるのかと聞かれれば、「疑われる恐れ」はあります。それは、住民税が天引きされている場合は納税額の決定通知書が会社に届くからです。
住民税の決定通知書には、給与以外の所得の区分や所得の合計額を記載する欄があります。ある年になって突然に住民税の額が上がり、総所得の金額が増えたり給与以外の所得区分に印がついたりしたことで「副収入として何らかの収入があること」がわかり、所得区分によって「副業をしているのかもしれない」と疑われる可能性はあります。
ただ、具体的に何で収入を得ているかはそれだけではわかりませんし、そもそも会社がそこまで細かくチェックしているかどうかもわかりません。
対策としては、副業での所得にかかる分の住民税を普通徴収にすることが挙げられます。確定申告の際に記入する書類に、給与以外の所得を普通徴収にするか特別徴収にするかを選ぶ欄があります。
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まとめ

同人作家や漫画家は、副業でも本業でも一定以上の収益が出ていると確定申告が必要です。また、同人作家だから、漫画家だから何か特別な会計が必要となるわけではありません。
作家としての活動に必要な費用は経費として計上し、作品などが売れた分は売上として計上します。売れ残った分は経費にできませんのでそこも区別して管理しておいてください。
確定申告をする必要がある場合には、面倒でも忘れずに行いましょう。間違って低く申告したとしても加算税が課されるかもしれないので、正しく計算することも必要です。
経理的な知識に不安があれば、フリーの会計ソフトなどを利用して管理し、難しいと感じたら税務署や税理士に相談することをおすすめします。

