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日本の社会保険制度について
従業員を雇うにあたって、事業主が正しく理解しておかなくてはならないことのひとつが、社会保険制度についてです。
社会保険制度は、大きく社会保険と労働保険の2つに分けられます。
社会保険には、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つがあり、労働保険には、労災保険と雇用保険の2つがあります。
ここでは、それぞれどのような保険制度で、事業主がどのような手続きをしなくてはいけないのか、詳しく解説していきます。
従業員の生活全般を支える社会保険とは
社会保険には、健康保険・厚生年金保険・介護保険の3つがあり、これらは従業員の生活全般を支えています。
健康保険
健康保険は、従業員やその家族が、業務と関係なく病気やけがをしたとき、出産したとき、亡くなったときなどに、安定した生活を送れるように、医療給付や手当てを支給してくれる制度です。
健康保険に加入すると保険証が発行され、この保険証を提示することで、病院での窓口負担が治療費の3割で済むようになっています。
厚生年金保険
厚生年金保険は、日本の公的年金制度のひとつで、厚生年金保険の適用を受ける事業所に勤務するすべての人が対象です。
国民年金の基礎年金に、厚生年金が上乗せされた形で受け取ることができます。
受けとれる年金には、次のようなものがあります。
- 老齢年金:働けなくなってからの老後の生活を支えるための年金
- 障害年金:病気やケガによって障害が残った場合の生活を支える年金
- 遺族年金:本人が亡くなった場合に遺族の生活を支えるための年金
介護保険
40歳になったらすべての人が加入しなくてはいけないのが、介護保険です。
介護保険は、介護が必要となった場合に、医療や福祉のサービスを受けることができる制度です。
ただし、サービスを受けられる対象となるのは、次の要件を満たしている人とされています。
- 要介護認定を受けた65歳以上の人
- 40歳以上64歳以下で特定疾病による要介護認定を受けた人
社会保険の適用事業所
法律上、常時従業員のいる法人事業所や、常時5人以上の従業員が働いている事務所・工場・商店などの個人事業所は、社会保険に加入しなければいけないことになっています。
このような事業所を「適用事業所」といいます。
適用事業所で働く労働者は、健康保険や厚生年金保険の加入者となります。
パートやアルバイトであっても、1日または1週間の労働時間、それに1か月の所定労働日数が通常の労働者の4分の3以上ある場合には、加入させなくてはいけません。
適用事業所であるにもかかわらず、健康保険や厚生年金保険に加入させなかった場合には、罰則もあり、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金が科せられます。
事業主が行うべき社会保険の手続き
適用事業所に該当する場合に、事業主が最初に行わなくてはいけない手続きは、5日以内に新規適用届を日本年金機構へ提出することです。その後も、適用事業所における社会保険の手続きは多岐にわたります。
事業所に関する主な手続き
- 事業所関係変更届
事業所の連絡先電話番号の変更や事業主の変更、事業主の氏名変更など、事業所に関する事項や事業主に関して変更があった場合には、5日以内に届け出ます。
- 適用事業所名称/所在地変更届
事業所の所在地や名称が変わった場合には、5日以内に届け出ます。
- 適用事業所全喪届
事業を廃止する場合や休止した場合には、5日以内に届け出ます。
従業員に関する手続き
- 被保険者資格取得届
常時働く従業員を雇い入れたら、5日以内に届け出ます。
- 被保険者資格喪失届
従業員が退職・死亡した場合は、5日以内に届け出ます。
- 健康保険被扶養者(異動)届
従業員が家族を被扶養者にするときには5日以内に、被扶養者に異動があったときはその都度、届け出をします。
- 産前産後休業取得者申出書
これは、従業員が産前産後休業を取得した場合に、その期間の健康保険・厚生年金保険の保険料が徴収されないようにするための手続きです。
この手続きは、被保険者が産前産後休業を取得している間に、事業主が行わなければなりません。
- 養育期間標準報酬月額特例申出書
子どもが3歳までの間は時短勤務で働き、それにより標準報酬月額が下がってしまった場合に、時短勤務の間もこれまでと同額とみなすための手続きです。
養育期間中の報酬低下が将来の年金額に影響しないようにするために、被保険者から申し出を受けたらすみやかに手続きします。
なお、従業員の住所・氏名変更等は、マイナンバーとリンクしていれば届け出の必要はありません。
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労働者を保護する労働保険とは
労働保険には、労災保険と雇用保険の2つがあり、これらは労働者を保護するためにあります。
- 労災保険
労災保険は、業務中にケガをしたり、業務が原因で病気になったり、死亡したというような業務災害の場合や、通勤途中に事故に遭うなどの通勤災害の場合に、労働者が確実に補償を受けられるように、国が給付を行う公的制度です。
実は、業務に起因して労働者が病気やケガをした場合、事業主は療養費を負担したり、休業補償を行わなくてはならないということは、労働基準法に定められています。
しかし、事業主によっては迅速に補償できないというケースもあり得るのです。
そのため、労働者を守るために国がすみやかに補償できるよう、労災保険があります。
- 雇用保険
雇用保険は、労働者が失業したときに、次の就職先が決まるまでの間、安定した生活をしながら仕事を探すことができるよう、失業給付や教育訓練給付といった給付金が支給される制度です。
また、育児や介護で仕事を休まなくてはいけなくなった場合にも、雇用を継続できるよう、育児休業給付や介護休業給付が、雇用保険制度により支給されます。
労働保険の適用事業所
労災保険は、労働者をひとりでも雇用するのであれば、事業所の規模にかかわらず適用事業所となり、保険料も全額事業主が負担することになっています。
労働者には、パートやアルバイトも含まれます。
雇用保険については、資格取得要件がありますので、要件を満たした労働者を雇い入れる場合に適用事業所となります。
雇用保険の資格取得要件は、次の2点です。
- 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
- 31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険についても事業規模は関係なく、事業主は、資格取得要件を満たす労働者を雇い入れるのであれば、雇用保険法によって雇用保険制度への加入が義務付けられています。
なお、雇用保険の保険料については、労働者と事業主の双方で負担することになっています。
また、適用事業所なのに労働保険に加入させなかった場合にも罰則があり、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられます。
事業主が行うべき労働保険の手続き
まず、初めて労働者を雇い入れる場合には、10日以内に労働保険関係成立届を管轄の労働基準監督署もしくはハローワークに提出する必要があります。
そして、その年度分の労働保険料を、概算保険料として申告し納付します。
さらに、雇用保険の適用事業所は、雇用保険適用事業所設置届及び雇用保険被保険者資格取得届を、管轄のハローワークに提出しなくてはいけません。
その後も、事業主にはさまざまな手続きが発生します。
事業所に関する主な手続き
- 労働保険名称、所在地等変更届
事業所の所在地や名称、事業主の住所、名称、氏名、事業の種類に変更があった場合は、変更の翌日から10日以内に労働基準監督署へ提出します。
- 雇用保険事業主事業所各種変更届
事業所の所在地や名称、事業主の住所、名称、氏名、事業の種類に変更があった場合、変更の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ届け出をします。
- 労働保険確定保険料申告書(納付書)
事業を廃止・休止したとき、雇用する労働者がいなくなった場合は、事業を廃止した日の翌日から50日以内に申告書(納付書)を、労働局、労働基準監督署または金融機関へ提出・納付します。
- 雇用保険適用事業所廃止届
事業を廃止・休止したとき、雇用する労働者がいなくなった場合、廃止した日の翌日から起算して10日以内に、管轄のハローワークへ届け出ます。
労働者に関する主な手続き
- 雇用保険被保険者資格取得届
新たに労働者を雇い入れたら、翌月10日までに管轄のハローワークへ届け出をします。
- 雇用保険被保険者資格喪失届、離職証明書
被保険者が離職した場合、いずれの書類も離職の翌日から10日以内に管轄のハローワークへ提出します。
- 雇用保険被保険者転勤届
被保険者が、同一の事業主の他の事業所に転勤した場合、その翌日から10日以内に、転勤後の事業所を管轄するハローワークへ届け出をします。
- 雇用保険被保険者氏名変更届
被保険者が氏名変更した場合は、すみやかに管轄のハローワークへ届け出ます。
保険料の納付に関する主な手続き
- 労働保険継続事業一括申請書
支店や営業所などでそれぞれに行っている労働保険料の申告・納付に関係する事務を、1か所でまとめて処理したい場合には、指定の事業所(本店等)の所在地を管轄する労働基準監督署へ提出します。
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まとめ
今回は、従業員を雇い入れるにあたって、事業主が正しく理解しておかなければならない、社会保険(健康保険・厚生年金・介護保険)と労働保険(労災保険・雇用保険)について、詳しく解説しました。
社会保険は、従業員の生活全般を支えるための社会保険制度で、労働保険は労働者を保護するための社会保険制度です。
そのため、適用事業所であれば必ず従業員を加入させなければならず、加入させていない場合には罰則規定もあります。
また、保険に関する手続きは多岐にわたりますので、社会保険や労働保険について正しく理解し、手続き漏れのないようにしたいですね。