運転資金とは、会社の事業を回していくために必要な資金のこと。「回転資金」や「ランニングコスト」とも呼ばれます。
会社経営をするには運転資金についての理解が不可欠です。しかし、これから起業するという段階では運転資金がどれくらい必要となるのか、もし資金不足となってしまったときはどうすればいいのかなど、わからないことも多いですよね。
この記事では、知っておくべき運転資金の種類や計算方法、運転資金が不足する原因、資金不足を避けるための方法について解説します。
運転資金とその種類を知っておこう
運転資金にはさまざまな種類があり、目的によって分類の仕方も異なります。
ここでは基本的な分類として固定費・変動費の分類と、目的別の分類について見ておきましょう。
固定費と変動費
運転資金は変動費と固定費の2つに分類することができます。
それぞれに具体例を挙げながら説明します。
ただし、固定費や変動費の分類は業種や事業内容などによって異なります。
同じ勘定科目が常にどちらかに分類されるとは限らないということも、頭に入れておいてください。
固定費
固定費は、売上の増減に関わらず一定額で発生する費用のことです。
とはいえ、売り上げに応じて費用が変動しないというだけで、毎月常に一定の金額というわけではありません。
また固定費は売上が0円でも必ず発生します。
固定費には次のようなものが該当します。
- 地代家賃
- リース代
- 正社員の給与
- 広告宣伝費
- 減価償却費
- 水道光熱費
- 通信費
例えば、正社員に支払う給与は基本的には固定費に分類されますが、繁忙期に残業させた場合の手当などは変動費に入ります。
広告宣伝費に関しても、固定費に入るのは定期的に発生するものであり、セール時など臨時で行い売り上げに直結するような場合は、変動費に入ります。
変動費
変動費は、売上の増減に応じて変動する費用のことです。基本的に、売上がなければ変動費は発生しません。変動費には次のようなものが挙げられます。
- 仕入原価
- アルバイトの人件費
- 広告宣伝費
- 外注費
- 運送費
- 接待費
人件費のなかでも、繁忙期に臨時で採用したアルバイトの給与などは変動費に入ります。
目的別の種類
運転資金は、目的別で分類することもできます。
ここでは運転資金の6つの目的別分類を紹介します。
経常運転資金
経常運転資金とは現状を維持しながら事業を行うための運転資金のことで、経営には常に必要となるものです。
基本的にどの事業においても、運転資金のなかで経常運転資金が一番高い割合を占めています。
日常的に発生する買掛金や手形決済代金のほか、人件費や家賃、光熱費などの経費が含まれます。
増加運転資金
売り上げが増えたとき、経常運転資金に追加して新たに必要となる運転資金が増加運転資金です。
売上が増えるとそのぶん売掛金や受取手形の額も増加しますが、売り上げ後すぐに現金化できるわけではありません。
このタイムラグを埋めるつなぎの資金として、増加運転資金を用意しておく必要があるのです。
減少運転資金
売上が減少したことで必要となる費用に充てる資金のことで、増加運転資金とは逆の場合に必要となるのが減少運転資金です。
例えば、事業規模を縮小せざるを得なくなった場合にかかる経費や買掛金となっている仕入れ代金、人件費などを支払う際、減少運転資金を使うことになります。
設備未払金決済運転資金
機械や車両などに充てる設備資金が未払いの状態で半年を過ぎてしまった場合、その支払いに充てるのが設備未払金決済運転資金です。
設備投資は、通常であれば優遇された条件で融資での資金調達ができることも多いですが、購入から半年過ぎて設備未払金決済運転資金になってしまうと、融資では優遇されません。
設備資金が不足したら、設備未払金決済運転資金になる前に資金調達しておきたいものです。
季節運転資金
季節運転資金とは、特定の季節に一時的に発生する費用を支払うための資金です。
例えば夏季・冬季の賞与や、季節ものの商品の仕入れ代金などが挙げられます。
季節運転資金は基本的に毎年同じ時期に必要となるため、予測・準備しやすいといえます。
スポット資金
イベントなどのため一時的に高額な商品を買う場合など、通常サイクル以外の仕入れに必要となるのがスポット資金です。
季節運転資金はたいてい毎年の決まった時期に必要となるものですが、スポット資金は臨時に必要となる運転資金であるという点で区別されます。
運転資金の計算方法は2種類ある
運転資金の計算方法には、在高(ありだか)方式と回転方式の2種類があります。
一般的なのは貸借対照表から大まかに算出する在高方式で、より正確な数字を出すには回転方式を用います。
それぞれの計算式について見ていきましょう。
在高方式
在高方式で計算できるのは、商品の販売から入金までのタイムラグを埋めるのに必要な資産の大まかな金額です。
次の計算式で運転資金を算出します。
- 運転資金=売掛金+棚卸資産-買掛金
売掛金は、商品を販売したものの未入金となっている金額を表します。
棚卸資産とは、まだ売れていない商品、要するに在庫です。
買掛金は、商品を購入したものの未払となっている代金の額をいいます。
つまり運転資金は、未だ現金化されていない資産から今後支払わなければならない費用を差し引いて算出します。
なぜこのような計算式になるかといえば、商品の販売から入金までの間にタイムラグが発生するからです。
売掛金や棚卸資産はすぐに現金化できない一方、家賃や人件費などの費用は発生し次第すぐに支払わなければなりません。
回転方式
回転方式を用いれば、ある一定期間にどれくらいの運転資金が必要なのか、より正確な金額を計算することができます。
次のような計算式を使います。
- 運転資金=平均月商 ×(売上債権回転期間+棚卸資産回転期間-買入債務回転期間)
売上債権回転期間とは、売上が発生してから売上金を回収するまでの期間をいいます。
棚卸資産回転期間とは、商品を仕入れてからすべてを販売するまでの期間を指し、買入債務回転期間とは、商品を仕入れてから仕入代金を支払うまでの期間のことです。
大まかな計算は在高方式、より正確には回転方式と、2つの計算式を状況に応じて使い分けてください。
運転資金が不足する原因は何なのか
運転資金が不足するのには、共通する原因があります。
不足を避けるためにも、その主な原因を知っておきましょう。
資金の把握・管理不足
経営において、資金の把握ができていないことは致命傷となります。
資金を把握していなければ、会社のお金の流れを管理・コントロールすることもできません。
例えば、会計上の利益と実際の入金のタイミングのずれを正しく認識できていないことは資金繰りの悪化につながります。
資金の管理不足は、資金繰り表を作成していないなど資金の流れを管理していないことから始まります。
資金の管理は会社経営の基盤です。疎かにすることなく適切な資金管理を心掛けましょう。
納めるべき税金の認識不足
税金に関する知識がないことも、資金不足を招く大きな一因です。
納めるべき税金のうち所得税・消費税のように売上に応じて増額する税金は、特に運転資金不足の原因となりやすいのです。
また消費税の中間申告が必要な場合、金額によって中間申告の回数が違うことにも注意が必要です。
例えば直前の課税期間の消費税額が「48万円超・400万円以下」の場合には年1回、「400万円超・4,800万円以下」なら年3回の中間申告が必要です。
税金の知識もしっかり押さえて資金繰り表に反映させておかなければ、予想外のタイミングでの納税により運転資金が不足してしまう恐れがあります。
支払・入金サイトのギャップ
取引代金の締め日から実際に支払い(入金)があるまでの期間のことを、支払サイト(入金サイト)といいます。
運転資金の不足は主にこの支払・入金サイトのギャップ、つまり入金と出金のタイミングのずれによって生じます。
例としては仕入代金の支払サイトが20日、売上の入金サイトが30日であった場合、売上金が入る前に仕入代金を支払わなければなりません。
その時点で資金がなければいわゆる資金ショートの状態になります。
会計上はきちんと利益が出ているのに手元資金が足りないことで起こるのが、いわゆる「黒字倒産」です。
棚卸資産回転期間が長い
前述の通り、棚卸資産回転期間とは商品を仕入れ、そのすべてを売り切るまでの期間です。
棚卸資産回転期間が長いということは、仕入れから商品が売れるまでに長い期間を要しているということ。
つまり棚卸資産回転期間の長さは、商品の売れ行きの悪さを意味します。
売上を伸ばすには、棚卸資産回転率をあげて短期間で商品をさばかなければなりません。
棚卸資産回転期間が長い場合には、販売する商品を見直すなどの対処をしましょう。
売上を伸ばすには、棚卸資産回転率をあげて短期間で商品をさばかなければなりません。
棚卸資産回転期間が長い場合には、販売する商品を見直すなどの対処をしましょう。
売り上げの増加
売上が増加すると売掛金も増えますが、そのぶん仕入代金の額も増えるのが一般的です。
売掛金の回収が支払いのタイミングより遅れることで、運転資金が不足してしまいます。
売上が増加するのはよいことですが、適切に資金繰りを管理していないと運転資金が不足する原因にもなり得るということは覚えておかなくてはなりません。
売り上げの減少
売上が下がれば会社の資金が減ってしまうので、当然ながら運転資金も不足します。
仕入れの代金や給与は売上で得た資金から支払われるので、売上の減少が続けば運転資金をまかなうことができません。
ここでカギとなるのが、売上に関わらず必要となる固定費です。
売上をいかに伸ばすかも重要ですが、出ていく費用をできるだけ少なくすることにも注力する必要があります。
スポット・季節的な支出
スポット・季節的な支出の把握不足も運転資金不足につながります。
例えば、古くなった設備は買い替えなどする必要がありますが、それが重なると多大な費用がかかります。
経過年数などからあらかじめ予測し計画を立てて資金を準備しておけば問題ありませんが、そうでなければ急な支出で困ることになってしまいます。
業種によっては季節のイベントに合わせて大量に仕入れをする場合などもあるでしょう。
スポット・季節的な支出は事前に予測可能なので、あらかじめ資金繰りを調整することで対処しましょう。
運転資金不足を避けるにはどうすればいいか
運転資金が足りない、という事態を避けるには、上で説明したような原因となる要素を排除し、きちんとした対策をしなくてはなりません。
この章では運転資金不足を避けるための主な対策について見ておきましょう。
資金繰り表で常に現状を把握する
運転資金不足を回避するための最善の方法が、常に資金繰り表を作成してお金の流れをきちんと把握・管理することです。
資金繰り表とは、現金の出入りを時系列順に並べ、将来の手元資金を計算する表のことです。
まずは月ごとの現金の出入りを管理する「月次資金繰り表」を作成しましょう。
さらに細かくチェックするには、日単位で現金の出入りを管理できる「日繰り表」の作成が効果的です。
損益がマイナスになる日があれば資金ショートを起こす可能性があるので、支払いをずらしたり資金調達をしたりして対策を講じましょう。
固定費・変動費を見直す
多額の固定費・変動費は資金繰りを圧迫します。
固定費・変動費に無駄や過剰分がないかなどを見直し、減らせるところは減らすことも重要です。
固定費として大きな割合を占めるのは、賃料や設備のリース代です。
家賃やリース代はすぐに安くしたりなくしたりできるものではありませんが、契約期間の区切りごとに見直すことはできるでしょう。
リースであれば、例えば不必要に高いランクのものを安いものに変える、リース先を変更するなどの方法があります。
変動費では、仕入原価やアルバイトの人件費、広告費など、それぞれについて見直す必要があります。
在庫管理や従業員の労務管理を適切に行うことで無駄が明らかになり、改善策も見えてくるでしょう。
固定費・変動費の見直しは、売り上げを伸ばすことと同じくらい重要です。
疎かにせず取り組んでください。
売掛・買掛金のサイクルを調整する
前述の通り、売掛・買掛金のサイクルは資金繰りに大きく影響します。
売掛金をできるだけ早く回収し、買掛金のサイクルをできるだけ長くすれば、資金繰りに余裕ができ、運転資金の不足を回避できるのです。
売掛金の回収はつい後回しにしがちですが、資金繰りの悪化に直結します。
きちんと管理して、なるべく早期に回収しておきましょう。
ただ買掛金のサイクルについては仕入れ業者の都合もあり、サイクルを長くすればその分仕入れ業者の資金繰りが苦しくなってしまいます。
仕入れ業者との付き合いを長期的にかつ大事にするなら、両者でよく話し合って期限を決め、良好な関係を築くことも重要です。
滞留在庫を処分する
仕入れた商品が売れずに残ってしまうと滞留在庫になります。
滞留在庫が増えると売上が伸びず動かせる資金が減り、運転資金不足につながります。
滞留在庫が発生してしまうのは、適切な数量を見誤って仕入れを増やし過ぎた場合や、在庫管理がきちんとできていない場合がほとんどです。
仕入れや在庫管理の体制や方法を今一度見直し、できるだけ滞留在庫となる前にさばくようにしましょう。
滞留在庫を処分できればキャッシュフローも改善し、運転資金を順調に確保することができます。
運転資金の調達ができる主な制度を紹介
どんなに対策をしていても、事業経営をする限り運転資金の不足は起こり得ます。
そんなときは、融資などで資金を調達することも検討しましょう。
融資はすなわち負債なので安易には利用すべきでないものの、必要に応じた融資を活用で経営を安定させることができます。
一時的に資金繰りが困難になったときには、次のような制度を活用してください。
日本政策金融公庫による融資制度
政府が出資する機関である日本政策金融公庫。
いくつもの融資制度を行っていますが、そのうち運転資金の調達に活用できるものに「セーフティネット貸付」や「企業再建資金」などが挙げられます。
セーフティネット貸付(経営環境変化対応資金)は、限度額4,800万円の融資を長期固定金利で受けられる制度です。
社会的・経済的環境の変化などにより、一時的に業況の悪化をきたしている個人・企業を対象とした制度であり、コロナ禍で利用できる融資として注目されています。
企業再建資金は再建を図るうえで必要となる設備資金・運転資金について融資を受けられる制度であり、運転資金としての融資限度額は4,800万円です。
日本政策金融公庫は起業時に利用する人も多く、中小企業に対しても前向きに融資を検討してくれる機関です。
積極的に活用を検討してみてください。
自治体による制度融資
制度融資とは金融機関・信用保証協会・地方自治体の三者が協力して行う、中小企業支援のための融資です。
本来は中小企業が民間金融機関からの融資を受けるのはなかなか難しいのですが、制度融資を利用することで融資のハードルを下げることができます。
自治体が利息の一部を負担したり、保証協会への手数料を負担したりと、融資のサポートをしてくれます。
そのため金融機関のリスクを減らすことができ、融資を受けられる可能性が高まるのです。
制度融資は創業して間もない人でも利用できることもあり、比較的活用しやすい融資制度と言えるでしょう。
ビジネスローン
ビジネスローンとは金融商品の一種であり、資金使途がビジネスに定められているローンのことです。
ビジネスローンの特徴は、融資制度に比べれば審査が早いということ。
融資の場合には申請から入金まで1カ月程度の期間がかかることも多いですが、ビジネスローンであれば即日で資金調達できる可能性もあります。
審査も融資より基準がゆるい傾向にあるので、すぐに資金調達したいという人には利用価値が高いでしょう。
ただしビジネスローンは融資と比べて金利が高く、10%以上の金利になることも多いです。
また限度額も500~1,000万円程度なので、高額の資金調達が必要な場合には向きません。
ファクタリング
「ファクタリング」とは、ファクタリング会社が企業の所有する売掛金債権を買い取り、債権者に代わって債権回収を行うしくみのことで、売掛金の回収ができず資金繰りに困った場合に利用する手段です。
本来は支払期限まで現金化できない売掛金債権を、売却することで支払期限より前に現金を手に入れることができます。
その現金を運転資金に充てられるのです。
ファクタリングは融資よりも審査がゆるく保証人も必要ないため、急な資金調達にも対応することができます。
ただし10~20%ほどの手数料がかかるうえ、売掛金債権本来の価値よりも安く買い取られてしまうというデメリットも忘れてはいけません。
利用はなるべく控えめにしておかないと、「売り上げは高いのに利益が少ない」というような状況に陥ってしまうので注意してください。
資金調達の方法については、こちらの記事も参考にしてください。
まとめ
資金不足に陥らないためには、まず運転資金の分類や在高方式・回転方式それぞれの計算方法をおさえ、収支を定期的に管理するようにしましょう。
運転資金が不足する一番の原因は、お金の流れをきちんと把握・管理できていないことです。
資金繰り表を作成してきちんと現状を把握し、資金不足が生じそうになったら固定費や変動費の中から削減できるものはないか確認するなど、適切な対策を取りましょう。
運転資金を確保するためには、場合によっては融資などによる資金調達の必要もあります。
また、事業経営や融資制度に詳しい専門家の力を借りることもおすすめです。
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資金繰りをはじめとした経営に関するお悩みがあればぜひ一度お問い合わせください。