個人事業主として事業を始め、経営が順調に行き出すと浮かんでくるのが「法人化」です。ちなみに、法人化は「個人から法人になる」ことから「法人成り」とも呼ばれます。
しかし、法人化すると何がどう変わるのか、どんなメリット・デメリットがあるかも気になるところ。法人化してから後悔はしたくないものです。
この記事では、法人化することのメリット・デメリットをメインに解説します。「そもそも法人化とは何か」といった基礎知識も紹介するので参考にしてください。
目次
「法人化」の基礎知識
まずは法人化についておさらいしておきましょう。
法人化(法人成り)とは?
法人化とは、個人事業を営んでいる人がその事業で会社を設立し、法人として事業を続けていくことです。「法人成り(ほうじんなり)」とも呼ばれます。
法人とは
法人とは、個人と同じように義務や権利を与えられた組織をいいます。法律上、個人とは別の人格「法人格」として扱われます。
例えば、個人事業主が事業の売上を自由に使っても問題にはなりません。しかし、法人となれば、売上は会社のものであり、事業主が自由に使うことはできません。
法人化と新規の会社設立との違い
新たに会社を作るという手続き自体、法人化でも新規の会社設立でも同じです。ただ「法人化」は、個人事業主として行ってきた事業を引き継いで会社となる場合に使われる言葉です。
ただ、法人化したからといって個人事業の資産や負債が法人に自動的に引き継がれるわけではありません。それぞれに状況に合わせた処理を行う必要があります。
1人でも法人化は可能
「法人=組織」というイメージがありますが、1人でも法人化することは可能です。
現在の会社法が制定される前は、株式会社の設立には1000万円以上の資本金や3名以上の取締役が必要でした。
しかし現在は、資本金1円以上、1名から会社設立は可能になっています(合資会社の場合のみ2名以上)。
このあと説明する法人化のメリットを受けるため、1人で会社を立ち上げる人も珍しくありません。
1円でも法人化できる?
資本金が1円以上でいいとはいえ、法人化も1円でできるかと言えば、答えは「NO」です。
株式会社を設立するなら、定款の認証を受けたり登記申請の際に登録免許税を納めるなど、法的手続きに少なくとも20万円以上は必要です。合同会社ならその半額以下ですが、それでも数万円は必須です。
インターネット上では、1円や0円などの金額で会社設立ができる、と宣伝されているケースも見られます。
しかしその場合、専門家が請け負う手数料が0円や1円で、実費は別で必要だったり、設立費用が割引になる分、以降の顧問契約が必須だったりと、何か理由があるので注意が必要です。
法人の種類とその特徴
「法人」には、いくつもの種類があります。なかでも営利目的で事業をする「営利法人」には、次の4つの種類があります。
- 株式会社
- 合同会社
- 合名会社
- 合資会社
このうち、現在新たに設立するとなれば、実質的には「株式会社」か「合同会社」の二択です。合同会社は比較的新しい会社形態で、法的手続きの費用は株式会社の半額以下です。
ただし、合同会社は社会的信用など株式会社より劣る点もあるため、コストだけでなく総合的に判断することをおすすめします。
こちらの記事をぜひ参考にしてください。
法人化は誰もがすべき?
個人事業として順調に売り上げを伸ばせたら、法人化するのが一般的です。とはいえ、法人化をした方がいいかどうかは、個々の状況により異なります。
売上などが一定の金額を超えている場合には、節税やお金の正確な管理などの点で法人化するのがおすすめです。
ただ、品質の高さを保つため、あるいはすでに十分な顧客を確保できているので事業規模は拡大しない、資金にも困っていないので信用拡大の必要性がない、といった場合には、無理に法人化する必要はありません。
個人事業主が法人化するメリット
個人事業から法人化することには、次のようなメリットがあります。
- 社会的信用を得やすくなる
- 節税の機会が増える
- 消費税が最大2年免除される
- 責任の範囲が限定される
- 年金など社会保障が手厚くなる
- 決算期を自分で決められる
- 赤字を最大10年繰り越せる
- 優秀な人材を確保しやすくなる
- 事業承継がしやすくなる
それぞれ見ていきましょう。
社会的信用を得やすくなる
法人化のメリットのうち、対外的にもっとも大きいのは、社会的な信用が得やすくなることです。
というのも、法人化には定款の作成や認証(株式会社の場合)、登記申請など、費用や手間をかけた法的手続きが必要です。その手続きを踏むことで、公に認められた存在となります。
大企業などは特に、取引相手の信用度を重視するため、個人相手の契約は敬遠しがちです。法人化で信用度が高まれば、事業拡大のチャンスも広がります。
節税の機会が増える
法人になると、次のような場面で税金対策ができます。
- 所得税より最大税率が低い法人税に変わる
- 役員報酬を経費にできる
- 社員への退職金を経費にできる
- 社宅にかかる費用を経費にできる
- 出張手当や慶弔見舞金を経費にできる
法人には、個人の所得税に当たる法人税が課税されます。所得税が高収入なほど負担が増える累進課税で最高45%なのに対し、法人税は段階的に上がる比例課税方式で、最高でも23.2%です。
法人になると、自分の給与や家族の給与を役員報酬として経費に計上することもできます。経費にできれば、税金を計算する課税所得の額が減るため、納税額も減らせます。
社員に退職金を払うこともできるようになりますが、支払った場合は経費にできます。社宅の場合は、社員にも一部負担してもらうようにすれば経費にできます。
出張手当や慶弔見舞金も、出張旅費規定や福利厚生規定など、全社社員を対象とする規定をつくり、それに基づく形であれば経費にできます。
消費税が最大2年免除される
法人成りすると、設立から2年は原則として消費税が免除されます。設立前の個人事業での売り上げがいくらであっても同じです。
ただし、設立時の資本金が1000万円以上である場合や、設立時にインボイス登録をした(適格請求書発行事業者となった)場合は、1期目から課税対象となります。
責任の範囲が限定される
設立するのが株式会社か合同会社のどちらかなら、会社が倒産した際の負債などに対する出資者の責任は、自分が出資した額を限度とした「有限責任」です。
ただし、個人として保証人となっている場合には、その責任は有限にはならないので注意してください。
年金など社会保障が手厚くなる
法人になると、国民年金と国民健康保険から脱退し、厚生年金と、協会けんぽか組合の健康保険に入ります。
厚生年金は国民年金の上乗せとなる制度なので、将来受け取る年金が増えます。遺族年金や障害年金といった保障も手厚くなります。
決算期を自分で決められる
法人の場合、個人のように事業の年度や確定申告の時期を一律で決められていません。ルールは「1年に一度決算を行う」ということだけです。
そのため、1事業年度を個人のように1月~12月でなく、4月~3月とする(3月決算)など、事業の繁忙期などを考慮して決めることができます。
赤字を最大10年繰り越せる
法人税で青色申告をする場合、最大10年は赤字を繰り越すことができます。つまり、黒字だった年度との相殺によって、課税所得を減らすことができるのです。
ただしこれは、青色申告を行っている事業年度のみ適用されるものです。そのため、赤字であっても青色申告を行う必要があります。
優秀な人材を確保しやすくなる
従業員を雇うため求人募集をする際にも、個人より法人である方が応募者が集まりやすくなります。
法人化で社会的な信用度が上がるのは前述のとおりですが、取引先などに対してだけでなく、求職者に対しても同様の効果があります。
そのため、応募者の数が増えるだけでなく、応募者の質も上がることが期待できます。
事業承継がしやすくなる
事業承継とは、事業の経営を後継者に引き継ぐことです。
法人であれば、会社の口座や資産は経営者が変わってもそのまま会社のものです。取得済みの許認可も、法人名義のため再取得などする必要もありません。
個人の場合は、いったん廃業をし、引き継ぐ人が開業届を出し、さまざまな手続きをやり直さねばなりません。
法人化によって生じるデメリット
多くのメリットがある法人成りですが、次のようなデメリットもあることを理解した上で、どうするか決める必要があります。
- 設立に手間と費用がかかる
- 廃業にも手間と費用がかかる
- 赤字でも住民税の一部は納税必須
- 会計や税務申告の手続きが難しくなる
- 社会保険料や手続きの負担が増える
それぞれ見ていきましょう。
設立に手間と費用がかかる
個人事業を始めるときには、税務署への開業届を出すだけで、他には青色申告する場合に承認申請書を出すくらいです。
しかし法人の場合は、商号(社名)や資本金の額、役員構成などさまざまな事項を決めて定款を作成し、法務局に登記申請をする必要があります。
株式会社の場合は、定款を公証人役場で認証してもらわなくてはなりません。会社の印鑑を作成したり、印鑑証明書を取ったりする必要もあります。
また、費用も決して安くなく、株式会社なら法的手続きだけで約23万~25万円は必須です。
廃業にも手間と費用がかかる
法人を廃業するには、株主総会で承認を受ける、解散の登記や清算手続き、清算結了の登記を行うといった手順を踏む必要があります。また、解散の事実を官報などで公告する必要もあります。
解散などの登記に41,000円、公告を官報にするとして約4万円が必要です。また、この手続きは専門家の手を借りなくては難しいので、専門家への報酬も必須といえます。
登記は司法書士、確定申告には税理士などそれぞれジャンルの異なる専門家に依頼する必要があるため、数十万円と見ておかねばなりません。
赤字でも住民税の一部は納税必須
住民税には、法人の場合、所得に応じて額が決まる「法人税割」(個人の場合は「所得割」)と、所得にかかわらず課される「均等割」があります。
法人化して事業が赤字となった場合、「法人税割」の部分は納税が免除されます。しかし、「均等割」の部分は納めねばなりません。
個人事業主が事業で赤字になった場合は、均等割を含め納税が不要です。
会計や税務申告の手続きが難しくなる
個人事業主には、会計帳簿を複雑な複式簿記ではなく簡易的な単式簿記でつけることが認められています。
しかし、法人の会計では複式簿記での記帳が必須です。また、法人税の申告には専門知識がないと難しいため、多くの経営者が代行業者や税理士に依頼しています。
業者や税理士に頼めば手続きの手間は減りますが、料金・報酬の支払いが必須です。
社会保険の支払いや手続きの負担が増える
メリットの章で、法人化すると社会保険の加入義務が生じ、保障が手厚くなることを挙げました。
しかし一方で、社会保険への加入には、保険料の支払いや手続きにかかる手間が増えるデメリットもあります。
従業員を雇うなら、労災保険と雇用保険への加入も義務です。入退社のたびに加入・脱退の手続きをしたり、保険料の申告や納付に必要な
年金や健康保険の保険料は会社が半額を負担することになります。
法人化のベストタイミングはいつ?
法人化するかどうかは、メリット・デメリットを総合的に見て総合的に判断する必要があるほか、タイミングを計ることも大切です。
法人化のタイミングとして、まず大きなポイントとなるのは、売上や利益と、税金との兼ね合いです。しかし、そこまでの売上がなくても、法人化すべきタイミングというのもあります。
主なタイミングとして、次の4つが挙げられます。
- 利益が800万円を超えたとき
- 売上が1000万円を超えたとき
- 大きな額の資金調達が必要なとき
- 事業の拡大・強化を図るとき
それぞれ見ていきましょう。
年間所得が700万~800万円以上になったら
一般的に法人化の目安は、法人税率が切り替わるタイミングである「年間所得800万円」を超えたときだといわれています。
ただし年間所得700万円であっても、法人化して給与所得として報酬を受け取り法人利益を0円とすれば、法人のほうが税額を抑えられます。
所得控除や副収入の有無、法人化による役員報酬の額などによって試算条件が変わる可能性もあります。そのため、所得が700万円を超えた段階で税額をシミュレーションしてみることをおすすめします。
売上が1,000万円を超えたとき
売上1000万円超というのは、消費税の課税対象となる基準です。
個人事業主でも、売上が1,000万円を超えると課税事業者になり、2年後には消費税を納めなくてはなりません。
しかし、次の①②どちらかの条件を満たし、消費税の課税がされる前に法人化すれば、会社設立後の最長2年が免税となります。
【条件①】
・資本金1,000万円未満
・設立から6カ月間の売上が1,000万円未満
・人件費が1,000万円未満
【条件②】
・設立1期目が7カ月以下
ただし、設立時にインボイス登録をする場合は、この基準にかかわらず課税されるので、このタイミングは当てはまりません。
大きな額の資金調達が必要なとき
銀行からの融資を受けるには、信頼度の高い法人の方が有利です。法人口座と個人口座で明確にお金の管理を分けてあれば、経営の信頼性が増します。法人口座を開設するにも、銀行の審査に通ることが必須です。
また、補助金を受けるにも、法人である方が有利になることがあります。投資家からの出資を受けるにも、個人より資金が集まりやすいでしょう。
このように、資金調達を依頼する先からの信頼度だけでなく、選択肢が増えることも、法人化のメリットです。
事業の拡大・強化を図るとき
売上や利益の額にかかわらず、事業を拡大する、大企業との契約を狙うといった場合には、法人化する必要性も生じます。
大企業の多くは、個人事業主とは契約しません。法人としての商業登記という公の手続きを経て、情報が公開されているからこそのメリットです。
また、事業拡大のため優秀な人材を確保しようとするときにも、個人で求人募集するより、企業として求人募集した方が、優秀な人材の応募が見込めます。
タイミングについては、こちらの記事も参考にしてください。
個人事業主から法人化する流れ
個人事業からの法人成りは、会社を設立するだけでなく、個人事業の廃業や資産の引き継ぎなどの手続きをする必要があります。
大まかな流れを順に見ていきましょう。
法人設立の商業登記
会社を作る手続きのメインは、設立の登記をすることです。まずは商号や事業内容、本店所在地や資本金額といった基本事項を決め、定款を作成します。株式会社の場合は、定款に公証人の認証が必要です。
認証を受けた定款や登記申請書など、必要書類を揃え、法務局に設立の商業登記を申請します。
登記が完了したら、税務署や県税事務所への届出や、法人口座の開設なども行います。
登記など会社設立の細かな流れについては、こちらの記事でわかりやすく説明しています。
個人事業の廃業手続き
法人化したら、個人事業の方は廃業手続きを行います。開業時と同様、廃業から1カ月以内に税務署に廃業届を提出します。
法人の登記をしたからといって自動的には移行されないことに要注意です。
確定申告を青色申告で行っていた場合には、青色申告の取りやめ届出書も提出する必要があります。給与支払事務所となっている場合には、その廃止届出書も出さねばなりません。
資産や債務の引き継ぎ
パソコンや自動車など、個人事業で保有していた資産や債務は、法人化したら法人に移行するのが一般的です。これも自動的に移ることはないため、自分で手続きをする必要があります。
資産の引き継ぎには、譲渡(法人への売却)または賃貸(法人への貸し出し)の形をとるのが一般的です。
債務については、一般的に2つの方法が取られています。1つは、事業主個人と会社が共に債務を引き受ける「重畳的債務引受」。もう1つは、会社が単独で債務を引き受け、事業主個人が連帯保証人となる「面積的債務引受」という方法です。
各種契約・許認可などの名義変更
個人から法人化すると、次のような各種の契約などに名義変更が必要となります。
- 事務所や工場などの賃貸借契約
- 設備機器などのリース契約
- 自動車など各種保険の契約
- 光熱費やインターネット回線の契約
- 事業に関する取引先との各種契約
法人口座を開設したら、契約に伴う料金の支払いに使っている口座を、個人口座から変更する手続きなども必要です。
法人化は専門家への相談がおすすめ
法人化(法人成り)には、節税や信頼性アップといったメリットがありますが、法人化することで支出が増えたり、事務処理が煩雑になったりするデメリットもあります。
また、節税を最大化するためには法人化のタイミングを見極めることも大切です。
法人化しない方がよいケースもあるため、慎重に見極めなくてはいけません。
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