経営者がすべきことは多々ありますが、資金調達を含めた経営手腕こそ、経営者としての腕の見せ所です。
資金調達の方法も様々ですが、身近な手法としては融資が挙げられます。
金融機関による融資は、古くから日本の多くの会社を支えている方法と言っても過言ではありません。
しかし近年は、民間の金融機関の代表的存在である銀行だけではなく、政府も融資を行っているのをご存知でしょうか。
どちらも審査を経て融資を行ってくれる点は共通しているのですが、細かい部分を見ると、それぞれ少々異なる特徴を持っていることが分かります。
そこで今回は、銀行と政府系融資である日本政策金融公庫(以下、日本公庫)の融資の違いをご紹介します。
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目次
1.一括繰上返済への対応
一括繰り上げ返済は、融資を受けている側からすると利息の圧縮になる貴重な手段です。
資金に余裕がある時には、積極的に繰り上げ返済を行いたいと考えている経営者も多いのではないでしょうか。
そんな一括繰り上げ返済の対応は、銀行と公庫融資では少々異なります。
公庫融資は繰り上げ返済に積極的
日本公庫による公庫融資は、繰り上げ返済に積極的に応じてくれます。
日本公庫と銀行は共に融資を行う機関ではありますが、目的が大きく異なり、利益を追求する銀行に対し、日本公庫は会社の成長支援を促進する狙いもあります。
そのため、貸し倒れリスクは考えますが、融資で利益をあげたいという気持ちは銀行よりも低いと考えられています。
繰り上げ返済は、貸し手側からすると元本が削り利息利益も減少してしまいますが、公庫融資であれば柔軟かつ前向きに対応してくれることでしょう。
銀行は繰り上げ返済を嫌がる
自らの組織の利益よりも会社の成長支援促進が狙いの公庫融資に対し、銀行は自社の利益を重視しています。
貸したお金に金利分の利息を加算して返済してもらうと、利息分が利益となるため、繰り上げ返済を行われると銀行側の利益が減少します。
銀行とすれば、繰り上げ返済で自社の利益を圧縮されるよりも、当初の計画通りに、かつ貸し倒れしないよう返済してもらいたいと考えています。
そのため、繰り上げ返済に関しては消極的で、渋々受け入れるケースも珍しくありません。
銀行には倒産リスクがある
利益よりも成長促進を重視している日本公庫に対し、利益を重視するスタンスが銀行です。
しかし、銀行は民間業者なので、業績が悪化することで倒産リスクが高まります。
一方、日本公庫は政府が出資しているため倒産リスクはありません。
だからこそ営利よりも、成長促進を軸に考えることができます。
銀行側はあくまでも自分たちで集めたお金を融資しますので、融資を受けたいと思っている経営者同様、「経営」という概念を持っています。
利益が減少する繰り上げ返済に、消極的な姿勢を取るのも致し方ない部分です。
2.創業する企業に対しての姿勢
これから創業する企業に対してのスタンスもまた、日本公庫と銀行では大きく異なります。
この点も、根底にあるのは営利を追求する銀行と、成長促進をと考えている日本公庫の違いです。
公庫融資は創業支援に積極的
公庫融資は創業支援に対して積極的な融資を行う傾向にあります。
日本公庫としては、新しい会社が登場することで市場が活性化し、新しい雇用が生まれることなどを期待しています。
また、融資額の回収はもちろんですが、会社が成長して収める税金が増えることになると、行政側としては税収アップになります。
成長次第では、融資額が何倍もの税収となって還元される可能性もあります。
さらに積極的に様々な会社が登場し、市場競争を促進してもらいたいとの狙いもあります。
そこで日本公庫は創業企業に対して積極的に支援する傾向にあります。
銀行は創業・企業には厳しい目を向けがち
銀行はこれから創業する会社への融資は比較的厳しいです。
創業したばかりの企業は、取引実績が少ないことが多く見られます。
銀行は営利を追求する民間企業であり、貸し倒れは自社の損失を意味します。
そのため、公庫のように期待値から融資を行う可能性は低いです。
創業企業は返済能力が未知数です。
確かに銀行としても会社が成長し、より大きな取引を行うようになれば嬉しいと考える側面があります。
しかし、成長する可能性だけではなく、事業に失敗する可能性があるのも事実です。
もしも、期待値を込めて融資した企業が結局は事業に失敗し、貸し倒れを招くことになれば自社の損失となります。
銀行は基本的にこのようなリスクは冒しませんので、創業する企業への融資に対しては慎重です。
公庫と銀行は視点が違う
創業企業への融資は、公庫融資は期待値を加味しますが、銀行は期待値よりも返済能力未知数との判断から慎重な姿勢を取ります。
もちろん銀行としても返済能力が確認できるのであれば、創業企業への融資も行います。
決して創業企業に対しての融資を、絶対に行わないと決めていることはありません。
しかし、銀行から融資を受ける場合、未知数とされている返済能力を覆すだけの具体的な計画が必要です。
事業計画書が緻密で、かつエビデンス・実績・経歴等を加味した説得力のあるものであれば、創業企業であっても銀行からの融資を受けられる可能性があります。
このように、銀行と公庫融資は、それぞれ視点が違います。
可能性を見てくれる公庫融資か、リスクを見る銀行かの違いになりますので、優劣の問題ではありません。
3.過去の返済実績を考慮してくれる
過去の取引に対しての評価もまた、日本公庫と銀行では異なります。
この点もまた、それぞれの特徴の違いからのものとなっています。
公庫融資は赤字でも返済実績次第でOK
公庫融資は、赤字であっても返済実績次第では融資に前向きです。
この点も公庫融資が営利よりも可能性を考えている点にあります。
慢性的な赤字が出ているとしても、返済に関しては遅延・延滞なく行われている場合、むしろ好印象を与える可能性もあります。
もちろん赤字・負債は無いに越したことはありません。
しかし、仮にあるとしても公庫融資は「負債がある」と判断するのではなく、「負債とどのように付き合っているのか」をチェックします。
返済実績があれば、「借りたお金を返す人間」だと評価してくれます。
そのため、返済中の借金があるからといって、必ずしも融資を断られるとは言いきれません。
銀行は赤字に厳しい
銀行の場合、融資を希望する企業の赤字に厳しいです。
ましてや既に負債・借金を抱えている場合、融資を受けるハードルが高くなります。
例え、それまで延滞・遅滞がないとしても、融資をしてよいか判断する際によい評価は受けにくくなります。
この点も、銀行が極力リスクを取らない方針による判断です。
融資はあくまでも返済するものです。
赤字があり、返済中の借入がある企業へ新たに融資を行えば、その分返済負担も増えます。
銀行は「融資した企業も返済負担が増えた場合に貸し倒れしないか」の点を懸念しています。
「新たにお金を借りるよりも、まずは抱えている負債を返済して欲しい」が銀行の本音です。
そのため、負債を抱えている場合、銀行からは厳しい視線を向けられることになるでしょう。
銀行は極力リスクを取らない方針
銀行はリスクを取ってまで融資を行いません。
公庫融資が創業企業に対して期待値を持つのは、ある意味ではリスク度外視と考えることもできます。
返済中の負債がある場合、融資を返済できるのかという疑問を抱くことでしょう。
もしもですが、銀行への返済が滞ってしまった場合、銀行側もまた、負債を生んでしまう可能性があります。
銀行にとって既に負債を抱えている相手は「リスクのある相手」です。
延滞や遅滞がないのも、銀行とすれば「当然の話」です。
完済していれば話は別ですが、返済中の場合、銀行から融資を受けられる可能性は極めて低いでしょう。
4.セールスの姿勢
融資を受けた後の姿勢もまた、それぞれ異なります。
この点も営利を追求する銀行と、あくまでも行政が管轄し、会社の成長等、経済的な好影響を期待する公庫融資との違いが表れている部分です。
公庫融資は基本的にセールスを行わない
公庫融資は、基本的に融資のみを行っています。
そのため、融資を受けた後は、特に連絡を取り合うことはありません。
返済が滞らない限り、指定日に引き落とされての繰り返しのみが行われます。
公庫融資以外に「他にも融資を受けないか」といったセールスも、基本的にはありません。
それなりの規模の会社ともなれば担当者がつき、定期的な訪問を行う場合がありますが、このような扱いを受ける会社は全体的にみれば少数です。
銀行はセールスを積極的に仕掛ける
銀行から融資を受けた場合、その後に様々なセールスが待っています。
銀行は審査を通過した相手はパートナーです。
銀行の審査はとても厳しいですが、厳しい審査を潜り抜けた相手は銀行にとって「顧客」となりますので、以降、様々な提案が行われます。
例えば金融商品の販売や、返済状況が良ければ融資残高の増加の提案も受けるでしょう。
銀行としては営利を追求しますので、貸し倒れリスクの低い信頼できる相手だと分かれば、様々な金融商品を提案してくることでしょう。
もちろん提案を受けるかは自由ですが、銀行との付き合いを考え、ある程度妥協してサービスを受けている企業も多いです。
公庫は利益を求めている訳ではないからこそ
セールスの有無に関しても、公的な組織である公庫と利益を追求した民間企業である銀行とは違いがあります。
利益のために様々な活動を行っている点は、他の会社と変わりません。
そのため、銀行は信頼できる相手に対してはセールスを行い、利益機会の創造をと考えます。
一方、公庫は利益のために融資を行っている団体ではありません。
経済の発展を重視するため、自社の利益のためのセールスは行っていません。
5.不動産投資への姿勢
不動産投資に対する考え方もまた、公庫融資と銀行では大きく異なります。
これまでの解説で、公庫融資に対して銀行よりも融資に寛容な印象を受けたのではないでしょうか。
しかし、不動産投資に関しては全く逆の特徴を持っています。
公庫融資は不動産投資に消極的
公庫融資は不動産投資に対して消極的なので、不動産投資のための融資の申し込みは審査を通過する可能性が低いです。
不動産投資も様々ですが、自己資金での不動産投資ではなく、融資を受けての不動産投資の場合、購入物件を担保に入れることで大きな融資を得ることが可能です。
もしも返済が滞った場合、金融機関はお金ではなく物件を差し押さえればよいため、融資を受けやすいです。
しかし、公庫融資は購入物件を担保に入れることができません。
つまり、不動産投資との相性が悪いと言えます。
銀行は不動産投資も選択肢の一つとして考慮する
銀行の場合、不動産投資に対して比較的寛容です。
選択肢の一つとして十分に考慮してくれることでしょう。
その理由は担保です。
先にもお伝えしたように、銀行の場合、不動産投資先物件を担保に設定できます。
そのため、仮に貸し倒れが起きたとしても不動産そのものは手に入りますので、リスクが軽減されます。
また、不動産投資は安定した収益性も定評があります。
他の事業の場合、どのように転ぶか分からない部分があります。
緻密な事業計画も、必ずしも計画通りに運ぶとは限りません。
その点不動産投資の場合、借り手が見つかれば収益は安定します。
他の事業よりもシンプルでありながら、安定性があり、かつ担保として設定できるので、銀行側とすれば、リスクの低い融資と判断されて比較的審査に通りやすい傾向があります。
銀行はデータもあるからこそ
銀行は取引実績に伴う様々なデータを持っています。
業種による市場規模や収益性など、融資のための調査、あるいはこれまでの取引実績等により、信憑性の高いデータを持っています。
不動産投資に関しては投資物件を担保に設定できる点はもちろんですが、他のビジネスよりも成功への敷居が低いです。
入居者を確保すれば、貸し倒れとなる可能性が低いことからも、他の事業よりも銀行としてはリスクの低い融資先と考えているようです。
基本的に投資目的の融資ではない
公庫融資は不動産投資に限らず、投資目的の融資を行っていません。
銀行の場合、「返せるか・返せないか」が問われます。
一方、公庫融資の場合、返済はもちろんですが、社会性・公共性もある程度加味されます。
新規事業者に優しいのも、雇用促進など地域貢献も加味しているからこそです。
不動産投資は公庫融資の理念とは少々異なる特性のものなので、融資に対して厳しい姿勢を取るのも頷ける話です。
まとめ~銀行と公庫融資の違いを理解して自社に合った融資を受けよう~
銀行と公庫融資は、共に融資を行っているものの、特性の異なるものであることが分かっていただけたのではないでしょうか。
行政による公的事業である公庫融資に対し、あくまでも民間の営利追求企業である銀行とでは、目的が異なるのも当然です。
そのため、融資の際の審査のポイントが異なるのもまた当然です。
公庫融資と銀行のどちらが優れているかではなく、自社にマッチしているのはどちらなのか、どちらの方がメリットなのかという視点で公庫融資と銀行を比較してみると良いでしょう。