現物出資とは、現金以外の資産による出資によって、資本金に充当する、あるいは株式を引き受ける仕組みのことを指します。
手持ち現金が少なくても資本金を増やせる便利な制度ですが、手続きを行う前に出資対象となる資産が、要件を満たしているかを確認する必要があります。
また、手続き上の注意点やリスクについても把握しておく必要があります。
この記事では、現物出資の対象となるもの、それぞれの注意点についてまとめました。
現物出資の対象となるものとは
現物出資の対象になるもの
会社設立には、資本金として事業の元手となる資金が必要です。主に株主などが出資した現金をいいますが、現金以外の資産で出資することも可能です。これを現物出資といいます。
現物出資として認められるのは、次のような資産です。
- 不動産(土地や建物など)
- 備品(パソコンほかOA機器など)
- 車両運搬具(社用車など)
- 設備
- 機械(工作機械など)
- 有価証券(株式など)
- 知的財産権(特許権などの無形固定資産)
ただし、現物出資を認められるのは発起人だけです。
現物出資にできるかどうかの判断基準
現物出資となり得るかどうかは、次の条件を満たすかどうかによって決まります。
- 現存し、譲渡が可能である
- 貸借対照表に資産として計上できる
そのため、役務(労働やサービス)、信用といったものや、これから作られる物などは認められません。
現物出資の額について
現物出資をする場合の額について、定めはありません。しかし、「出資」というからにはそれなりの価値があるものを出資とするのが適切でしょう。
また、現物出資をする場合、原則として裁判所が選任した検査役による調査を受ける必要があります。ただ、総額が500万円を超えない場合には調査は不要です。
そのため、現物出資は500万円以下とするケースが多くなっています。
ちなみに、現物出資のメリット・デメリットについてはこちらの記事で解説しています。
現物出資をする場合の注意点
また、それぞれを現物出資にする場合には、注意しておきたい点もあります。
何を現物出資するかに関わらず注意すべき点と、それぞれの資産についての注意点を順に見ていきましょう。
「不動産」を現物出資する場合の注意点
出資金額を自由に設定できない
不動産を現物出資対象とした場合は、不動産鑑定士による不動産鑑定評価が必要です。
通常、現物出資の資産評価額は発起人(出資者)による自己申告制となっていますが、不動産価格については発起人の裁量は認められていません。
ただし、不動産価格が500万円以下の場合はこれも不要です。
資本金が事業規模と不釣り合いになる場合がある
評価額の高い不動産を出資することにより、事業規模に見合わない巨額の資本金額になってしまうことがあります。
税制面では、資本金額が小さい方が優遇されるケースがあります。現物出資によって資本金が多額となれば、そういったメリットが享受できなくなります。
不動産流通税が課税される
会社側からすると、不動産の現物出資を受けることで、資産を新たに取得したことになります。
そのため、新しい不動産を取得したことによる不動産流通税(「不動産取得税」と「登録免許税」)が課されます。
パソコンなど「備品」を現物出資する場合の注意点
科目が多くなり処理が煩雑になる
資産計上の項目が増えると、後で財務仕分けをする際の減価償却の計算などが面倒になります。
現物出資を行う対象は、できれば10万円以上の固定資産を選んで計上しましょう。
安易な価格付けは差額支払い対象となる
備品を対象とした現物出資の評価額は自己申告制です。
対外的信用を得るべく資本金を増やしたいと考え、実態とは大きく異なる現物出資額を申告することは厳禁です。
もし、現物出資対象とした資産の時価評価額が定款に記載された評価額よりも著しく低い場合は、発起人と設立時の取締役が連帯して、不足分を会社に支払うようにと処分を受けることがあります。
例えば、時価換算50万円のOA機器類を、倍の100万円で過大評価して現物出資するとしましょう。
この場合の差額の50万円については、発起人と設立時の取締役が連帯責任として会社に支払う義務が生じます。
「車両」「機械・設備」などを現物出資する場合の注意点
現物出資時の評価額は「時価」で算出
車に限らず、すべての現物出資の対象にあてはまりますが、現物出資する場合の評価額とは、その時の時価すなわち市場実勢価格なります。
購入価額ではないので注意が必要です。
ローン残債がある車両は対象外
ローン返済が完了していない車両については、現物出資の対象とはなりません。
「有価証券(株式など)」を現物出資する場合の注意点
株価が高い局面においては、有価証券が思わぬ高額になることもあります。
そのため、多額の有価証券を現物出資することで資本金が1千万円以上になることもあり得ます。
しかし、有価証券の現物出資を行うときは、トータルの額を確認しないと、税制面での優遇がなくなることもあるので注意が必要です。
例えば資本金が1千万円以上になると、設立2年間の消費税非課税などのメリットがなくなります。
また、現物出資の際には「有価証券の市場価格を証する書面」を提出する必要があります。
市場価格は「定款認証日における最終市場価格」となりますが、定款認証日の翌日の新聞の「前日の終値」を切り取り添付しておくことで証明となります。
「知的財産権」を現物出資する場合の注意点
土地建物などの不動産、OA機器などの有形資産(動産)については、その時その時の市場価格すなわち時価が存在します。しかし、無形財産と呼ばれる知的財産権などには、このような市場価格に該当する価値基準が存在しません。
そのため、金額設定が難しいところが難点です。
また特許権や実用新案権、意匠権など多岐にわたる知的財産権および無形資産は多種多岐にわたるため、弁理士による価値評価にも限界があります。
そこで「DCF法(Discount Cash Flowの略。割引キャッシュフロー法とも呼ばれる)」などの手法を利用するなどの手段が取られています。
将来の市場価値を予想し、実現可能なキャッシュフローを予測し、割引現在価値を求めるもので、収益資産の価値を評価する方法として広く利用されています。
現物投資は所得税と消費税の対象となり得ることにも要注意
所得税が課税となるケースとは
出資者となる発起人が、現物出資により資産を手放すことは、税法上「売却」とみなされます。
つまり発起人は、資産の売却による所得税の納税義務を負うことになります。
そのため、株式取得価格よりも現物出資額が高額だった場合、売却益が出たことになり所得税を支払わなければなりません。
発起人は、納税に備えた資金計画を立てておく必要があります。
消費税が課税となるケースとは
発起人すなわち出資者が、消費税の納税義務がある個人事業主(課税売上高が1千万円以上)の場合、現物出資に対して消費税の納税義務が発生する場合があります。
個人事業主の、商品などの事業用資産を現物出資した場合です。
この場合は、当然「事業用資産の売却」とみなされるので、消費税の課税対象になります。
現物出資は注意点を把握して有効活用
現物出資は、急いで実現したい事業がある人や、当面の手持ちの現金が少ない人にとって、ぜひ活用したい制度です。
ビジネスによっては、現金での資金調達を待つ間に好機を逃してしまう可能性もあるでしょう。
現物出資は、現在ある、譲渡ができるもの、そして貸借対照表に資産として計上できるものなら可能です。総額を500万円以下に収めれば、検査役による調査を受ける必要もありません。
とはいえ、注意点も把握しておかないと、かえってコストが高くつくなどデメリットにもなりかねないので気を付けてください。