創業時によく使われる、日本政策金融公庫の創業融資と制度融資。融資を受けるには、さまざまな書類を準備・提出する必要があります。
事業に関する一般的な融資では、金融機関は過去の経営実績などから返済能力を判断します。しかし創業時には実績がないため、提出する書類や面談での受け答えなどが融資の可否判断のカギを握るのです。
この記事では、創業時に利用する人の多い日本政策金融公庫の創業融資と、自治体の制度融資、それぞれについて融資に必要な提出書類とポイントを解説します。
目次
日本政策金融公庫の創業融資
まずは、日本政策金融公庫で融資を受けるための手続きの流れを見ておきましょう。
日本政策金融公庫で融資を受けるまでの流れ
公庫での手続きの流れは次のようになっています。
- 融資について公庫に相談する
- 融資申し込みの手続きをする
- 面談
- 事業所への実地調査
- 審査~融資決定の通知
- 融資実行(入金)
それぞれ簡単に説明します。
融資について相談する
融資の申し込みは、まず公庫に相談するところから始まります。公庫では電話または事前予約による相談(対面・オンライン)を行っています。
創業融資の制度の内容や必要な書類などについてあらかじめ説明を受け、不明な点も解消しておきましょう。
相談は、一般的なことを聞くだけなら電話でもよいかもしれません。しかし可能であれば最寄りの支店に出向き、より具体的な話を聞くことをおすすめします。
どこに融資を頼むか決めていない、いろんな制度を知りたいという場合は、別の相談窓口に問い合わせてみるのもおすすめです。
こちらの記事の後半で金融機関以外の窓口を紹介しています。
融資申し込みの手続き
融資の申し込みは、融資申込書とその他の必要書類(後述)を合わせて公庫に提出する形です。コロナ禍もあり、公庫では公式サイトからのインターネット申し込みを推奨しています。
事業所を置く地域あるいは自宅のある地域のいずれかを管轄する公庫の支店に、郵送あるいは来店での申し込みも可能です。ただ、相談なしでいきなり書類の提出というのは避けた方がよいでしょう。
国民生活事業(事業資金)のインターネット申し込み|日本政策金融公庫
管轄の支店は公庫の公式ページで確認できます。
国民生活事業の専門職員が常駐する支店の業務区域一覧|日本政策金融公庫
インターネットから申し込むと、1週間程度で公庫の担当者から連絡が入ります。追加で必要な書類などの依頼がある可能性もあります。
面談
公庫で申し込みが受理されると、面談通知書が送られてきます。
面談通知には、面談日時の指定と、当日に持参が必要な書類名が記載されています。
指定された日時で都合が悪ければ、連絡して変更してもらいましょう。
面談は申し込みをした支店で行われ、所要時間は1時間程度。創業計画書などの資料をもとに、質問などがなされます。面談の話の流れなどから、追加資料の提出を依頼されることもあります。
実地調査
創業の場合や融資申し込みが初めての企業の場合は、必ず実地調査が行われます。事業所や工場に、公庫の担当者が訪れます。
当日は同席を求められる場合もありますが、求められない場合もあります。
審査~結果の通知
面談や実地調査、提出書類などを踏まえて、公庫で審査が行われます。
融資が可能になれば借用証書などの書類が、不可能と判断されればその旨が記載された通知が郵送で届きます。もしくは電話で伝えられる場合もあります。
融資実行
融資が可能となったら、融資金の振り込みに必要な書類を公庫の各地域にある契約センターあてに郵送します。
書類に不備がなければ、郵送してから1週間程度で融資金が振り込まれます。
さらに数週間以内に支払明細書が郵送で送られてきて、一連の手続きは終了です。この後は返済していくことになります。
日本政策金融公庫の申込の際に必要な書類
日本政策金融公庫の融資に必要な書類を挙げていきます。まずは相談~申し込み時に必要となる書類です。
借入申込書(国民生活事業用)
融資の申し込みをするための基本的な文書です。申込人名、希望融資金額などを記載します。
創業計画書
創業に至る経緯や創業内容、創業時の資金計画を記載する文書で、創業融資申込において最も重要な書類です。
創業計画がぼんやりしたものでは融資に通りません。数字を入れて具体的にするなどいくつかのポイントを押さえる必要があります。ポイントを解説した記事もあるのでぜひ参考にしてください。
必要書類のリストには入っていませんが、記載項目の1つである経営者の略歴については、創業計画書とは別で作成した職務経歴書を添付することをおすすめします。こちらの記事も参考にしてください。
運転免許証またはパスポートのコピー
本人確認のために、運転免許証かパスポートのコピーを提出します。
運転免許証なら両面のコピーをとってください。パスポートなら、顔写真のあるページと現住所などの記載があるページのコピーを取っておきます。
履歴事項全部証明書(法人の場合)
履歴事項全部証明書は、法人設立の登記内容が記載された登記事項証明書(商業登記簿謄本)の1つです。
現在の登記内容だけでなく、抹消した事項や変更履歴などが3年前の分までわかるものです。法務局で取得できます。
許認可が必要な事業を始める場合
飲食店や古物商、美容師など、事業を始めるのに許認可や免許などが必要な事業をはじめるのであれば、次のような書類のコピーも必要です。
- 飲食店や食品製造業などの営業許可証
- 理容師免許・美容師免許
- 古物商、ゲームセンターなどの許可証
- 警備業などの認定証
上記はあくまで一部の例です。自身の事業で必要な許認可については必ず事前に必要性の有無を調べて取得しておきましょう。
生活衛生関係の事業を始める場合
飲食店の営業、理容・美容業、クリーニング業など、生活衛生関係の事業を始める場合には次のいずれかが必要です。
- 都道府県知事の「推せん書」
- 生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」
ただし、借入申込金額が500万円以下であれば知事の推せん書は不要です。
「推せん書交付願」や「資金証明書」は公庫にも用意してあるので、公庫で手続き方法を教えてもらうこともできます。
見積書(設備資金の場合)
- 業者による設備導入・購入の見積書
借り入れるお金を設備資金として使う場合には、その設備の導入・購入に関する見積書も必要です。
不動産の担保を希望する場合
- その不動産の登記簿謄本
- その不動産の登記事項証明書
そのほか用意しておくとよい書類
- 月別収支計画書
月別収支計画書は、創業計画を立てるにあたって、月ごとの売上、仕入れ、経費などの収支計画を記載する文書です。
提出は必須ではありませんが、事業運営に役立つのはもちろん、融資審査にも創業計画を十分練っているとの好印象が得られます。
一部には様式があり、公庫の公式サイトでダウンロードできます(下記のリンク)。ただ、支店独自の様式があるケースもあるので、事前の相談時に聞いておくことをおすすめします。
公庫の面談時の必要書類
融資申し込みをしたら、次は面談が行われます。面談でも新たな提出書類を用意しなくてはなりません。
この際に必要な書類は、公庫から届く面談通知に記されています。申込人の状況などによってはこれ以外の書類が必要となる場合もあります。届いた通知を必ず確認しましょう。
創業計画書の売上、売上原価、経費の計算に用いた資料
創業計画書に記入した各数値を算出する際に用いた資料です。
例えば、飲食店の開業なら開業する業種の客単価や回転率を記載した資料などを用意します。
前職で企業に勤務していた場合
- 勤務時の源泉徴収票
創業前に企業に勤務していた場合は、その会社から受け取った源泉徴収票の提出を求められます。
紛失した場合、元の勤務先の経理担当部門に依頼すれば再発行してもらえます。
直近6カ月分以上の預金通帳のコピー
公共料金や税金の支払いなどで引き落としに使われている口座の通帳コピーが必要です。 家族名義も含みます。
出入金の履歴から、公共料金や税金の支払いに滞りがないかなどを確認されます。また、自己資金の貯蓄をコツコツとしてきたかどうかも見られます。
住宅や車などのローンがある場合
- 毎月の支払額や残高のわかる支払明細など
家族名義も含みます。
不動産を所有している場合
持ち家など、不動産を所有している場合には次のような書類も必要です。
- 固定資産税の課税明細書
- 固定資産税の領収書
課税明細書は、毎年4月~6月くらいに届きます。直近1年間分が必要です。
不動産を賃貸借契約する(している)場合
店舗や事務所を借りて事業を始める場合や、賃貸住宅に住んでいる場合には、次のような書類も必要となります。
- 不動産の賃貸借契約書(予約含む)
- 賃貸物件の説明書
店舗や事務所だけでなく、自宅の賃貸借契約書も必要です。まだ契約は済んでいない、という場合は、賃貸条件などの物件情報がわかる文書やチラシなどを入手してください。
設備の見積書(設備資金の借入で未提出の場合)
融資で借りるお金を設備資金として使う場合には、業者の見積書で金額などが確認されます。
申し込み時点で提出できなかった場合は、面談の際に提出します。
公庫の融資決定~実行の際に必要な書類
融資が下りることが決まると、融資金の借用証書などが送られてきます。状況などによりさらに必要となる書類がある場合もありますが、基本的には次のような書類が必要です。
借用証書(公庫から送付)
収入印紙を貼ったうえ、借入人、連帯保証人(条件となっている場合)の署名・実印押印が必要です。
印鑑証明書(借入人、連帯保証人分)
融資実行日から直近3カ月以内発行のものが必要になります。
預金口座振替利用届(複写式)
公庫の返済に、口座引き落としを利用する場合の書類です。
該当箇所に記入と銀行印押印の上、引落に利用する金融機関に提出し、金融機関の確認印が押された2枚目を公庫に提出します。
融資金振込先口座の通帳コピー(表紙、第2面)
このほか、不動産担保提供が条件となっている場合は該当不動産に担保設定登記が完了することが必要です。
登記は一般的に司法書士に依頼することが多いですが、自分でおこなうことも不可能ではありません。
知り合いの司法書士がいなければ、公庫に紹介してもらうことも可能です。
地方自治体の制度融資
制度融資は、地方自治体と信用保証協会、民間の金融機関とが連携して行う融資の総称です。類似の制度が全国にありますが、その手続きも必要書類も全国的に統一されたものではありません。
そのため、実際に申し込む際には各自治体の公式サイトなどで確認してください。
この記事では、まずは埼玉県を例にして大まかな手続きの流れを見ていきます。
制度融資の手続きの流れ【埼玉県の例】
埼玉県の中小企業制度融資の場合、最初の窓口は「申込受付機関」です。
中小企業の事業主による申し込みの場合、 申込受付機関は事業所のある地域の商工会議所または商工会です。
1)申込受付機関に融資を申し込む
まず、融資申込書に必要事項を記載し、事業所のある地域の商工会議所または商工会に提出します。
地方自治体によっては、金融機関を制度融資の窓口としているところも多いです。
自分の地域ではどこが窓口になっているのかを必ず確認してください。
2)申込受付機関が書類の確認を行う
申込受付機関は、提出された融資申込書の記載内容を確認し、必要とあれば現地確認も行います。
その時点で問題がなければ、受付機関が融資申込書に受付印を押し、申し込んだ事業主に戻します。
3)融資申込書を金融機関に持参する
事業主は、受付印を押された融資申込書および必要な提出書類を金融機関に提出します。
4)金融機関から保証協会に保証を依頼
融資申込書や提出書類にもとづき、金融機関が審査を行います。
融資可能と判断された場合は、埼玉県の信用保証協会に補償の依頼を行います。
5)信用保証協会による保証の承諾
信用協会でも独自に審査を行います。
保証に値すると判断された場合には、金融機関に対して信用保証書を交付します。
6)金融機関による融資の実行
融資を行うのは金融機関ですが、条件などは埼玉県が定めたものです。
以上は埼玉県の例でしたが、例えば大阪府の場合は、申し込みの流れに2つの種類があります。
制度融資の手続きの流れ 【大阪府の例】
大阪府の中小企業者向け融資制度には、次の2つの方式があります。
- 行政が窓口になる「あっせん方式」
- 金融機関が窓口になる「金融機関経由方式」
それぞれの流れをざっと紹介します。
1)行政が窓口になる「あっせん方式」
- 1.府や市区町村に相談する
- 2.信用保証協会に申し込みする
- 3.市町村が信用保証協会に書類を送る
- 4.信用保証協会が審査をする
- 5.取扱金融機関と信用保証協会が協議する
- 6.信用保証の可否を取扱金融機関に通知する
- 7.取扱金融機関が融資を実行する
あっせん方式では、事業主は府や市区町村などに相談・申し込みをするか、信用保証協会に申し込みをします。
2)金融機関が窓口となる「金融機関経由方式」
- 1.取扱金融機関に相談する
- 2.認定を要する制度では大阪府に申請する
- 3.大阪府から認定が下りる
- 4.取扱金融機関に融資申込をする
- 5.取扱金融機関が審査する
- 6.取扱金融機関が信用保証協会に保証依頼する
- 7.信用保証協会が審査する
- 8.取扱金融機関と信用保証協会が協議する
- 9.信用保証の可否を取扱金融機関に通知する
- 10.取扱金融機関が融資を実行する
知事などによる認定が必要な場合は、大阪府など認定機関への申請という手続きが増えることになります。
制度融資の必要書類【東京都の場合】
前述の通り、制度融資は地域によって制度内容も必要書類も異なります。ここでは東京都の例を挙げますが、実際の申し込みには地域の自治体あるいは保証協会に確認してください。
信用保証委託申込書/信用保証委託契約書
いずれも信用保証協会に保証を委託する場合に必要となるものです。
様式があるので、申込人の住所・氏名や事業内容、借入金額や売上金額などを記入します。
東京都では委託申込書の様式に「保証人等明細」と「申込人概要」も入っています。自治体によっては別々の書類として必要書類に分けて書かれていることがあります。
信用保証委託契約書については、場合によっては申込時でなく融資の実行時に提出が求められます。
個人情報の取り扱いに関する同意書
融資の一連の手続きには個人情報を提供しなくてはなりません。個人情報を適切に扱ってもらうために必要となる同意書です。
同意しなければ融資元が個人情報を取得できず、融資もできないことになります。
創業計画書
創業計画書は、融資の審査において最重要となる書類といってもよいでしょう。どの地方自治体の制度融資でも必ず提出を求められます。
都や県に制度融資を申し込むのと同時に市区町村による制度融資にも申し込むといった場合には、同じ創業計画書で代用できる可能性があります。
創業計画書の書き方については、こちらの記事を参考にしてください。
印鑑証明書(申し込み人/連帯保証人)
融資を申し込むのが個人の場合は、申込人の印鑑証明書を提出します。
法人として申し込む場合には、申込人と連帯保証人の印鑑証明が必要です。つまり法人の印鑑証明書と事業主個人の印鑑証明書の2点を提出することになります。
事業に必要な許認可書
飲食業や運送業、クリーニング業、美容師・理容師など、事業に許認可が必要な業種の場合はその許認可書が必要です。
自己資金などの額がわかる書類
自己資金や出資金、その他からの借入金などがある場合は、その額が客観的にわかる書類を提出する必要があります。
預金なら残高がわかる預金通帳、有価証券なら取引通知書、敷金や保証金なら賃貸借契約書や預り証、資本金・出資金なら株式払込金保管証明書などを用意します。
商業登記簿謄本(法人の場合)
法人で申し込む場合、公庫への融資申し込みと同じように履歴事項全部証明書を提出します。
確定申告書(決算書)の写し
個人の場合は、所得税の確定申告書の写しを提出します。法人の場合は、確定申告書または決算書を準備します。
いずれも原則として直近2期分のものが必要ですが、創業から間もない状態で確定申告時期を迎えていない場合には不要です。
事業税などの納税が確認できる書類
制度融資は地方自治体が事業主を支援する性質のものなので、融資するにあたり税金などに滞納がないことも重要なポイントです。
事業税もしくは、個人なら所得税、法人なら法人税の証明が必要です。納税証明書は税務署で発行してもらえます。
ただしこちらも、確定申告の時期を迎えていない場合は不要です。
見積書または契約書の写し(設備資金の場合のみ)
融資金の使い道が設備資金である場合には、その設備の見積書や契約書が必要です。
創業支援特例を利用する場合
東京都の制度融資(創業融資)では、商工会議所などで一定期間の創業支援を受けた人に対して金利の優遇をする特例が設けられています。
その制度を利用する場合には、創業支援を受けたことやその内容を証明する「創業支援内容証明申請書」や市区町村長の証明書の写しなどの書類が必要となります。
上記以外にも、自治体や個別の状況などによって提出を求められる書類もあります。
まとめ
日本政策金融公庫の創業融資でも自治体の制度融資でも、融資の申し込みにはさまざまな書類が必要です。どれも融資の可否判断に必要となるものなので、不足なく準備しておかなくてはなりません。
ここでは主な必要書類を紹介しましたが、ケースによって必要書類はさらに増える可能性もあります。
しかし融資に通れば、必要な資金が調達できるだけでなく、創業計画や将来性が認められたのと同様ともいえます。面倒でもしっかりと準備をしていきましょう。
必要書類のうち、創業計画書などは単に空欄を埋めるような書き方では不十分です。審査に通るポイントなどもあるので、専門家である税理士などの力もぜひ活用してください。