自分で作ったお菓子を売ってみたい、と思ったことはありませんか?
料理の腕やセンスを生かして、地域の人に愛されるお店を開くことに憧れる方も多いでしょう。
最近では、実店舗を開店しなくても、ホームページを開設するなどしてネット販売をする方法もあります。
ただしビジネスとして食品販売をするためには、「食品衛生法に基づく営業許可」を受けることが必要です。
認可には人に関する要件(人的要件)と設備に関する要件( 施設要件)を満たさなくてはなりません。
そこでこの記事では、食品販売に必要な許可とその申請の流れ、要件について解説します。
目次
食品販売に必要な許可と申請の流れ
食品販売には所管保健所の許可が必要
まず、食品を作って売るためには、所管の保健所に営業許可証を交付してもらわなければなりません。
そのためには、大まかに次の3つのステップを踏んでいきます。
1.事前相談
2.営業許可申請
3.施設の確認検査
3の確認検査は、自分で行うものではなく保健所の担当者にしてもらうものです。ちなみにこれは、実店舗で営業する場合も実店舗を持たずネット販売を行う場合も同じです。
設備要件を満たしているかを事前に相談
食品販売を行うには、さまざまな設備要件を満たす必要があります(具体的な要件については後述)。
一般的な家庭の厨房機器では設備要件を満たすことはできません。設備要件を満たすには、さまざまな工事を行う必要があるでしょう。
その工事をする前に、所管の保健所への事前相談を行います。
設備要件を正確に把握できていないと、工事を行っても設備要件を満たしていない、などという事態になりかねません。
工事をしてもなお設備要件を満たさない場合には、さらなる施設工事が必要になります。無駄な時間もかかりますし、費用もかさんでしまいます。
こうした事態を招かないようにするため、営業許可申請を行う前に保健所に相談をするのです。保健所からOKが出てから、申請に進みます。
所管保健所に営業許可申請を行う
営業許可申請は、施設完成の10日ほど前に行います。
所管の保健所で入手した営業許可申請書のほか、以下に説明する書類なども合わせて提出することが必要です。
まず準備すべきは、「営業設備の大要」と「配置図」です。
後述しますが食品販売には「食品衛生責任者」がいないと許可が下りないので、資格を証明する書類も必要になってきます。
法人運営の場合、「登記事項証明書」も必要です。
また、調理に井戸水や貯水槽の水を使う場合、「水質検査成績書」も提出しなければなりません。
申請には、「許可申請手数料」の支払いも必要です。
何を販売するかによって手数料は異なるので、保健所のサイトなどで確認しておきましょう。
完成した施設が設備要件を満たしているかの確認
営業設備が完成したら、要件を満たしているかどうかを保健所に確認してもらうことになります。あらかじめ日程を決めておきましょう。
保健所の担当者は、営業設備が申請した通りになっているかどうかを確認します。このときは営業担当者も立ち会う必要があります。
保健所が設備要件を満たしていないと判断した場合には、該当箇所を改善したうえで、改めて確認してもらわねばなりません。
問題ないと判断されれば、営業許可証が交付されます。
ここでやっと、スタートラインに立てるというわけです。
営業許可が必要な業種
なお、食品衛生法による「営業許可が必要となる業種」には34種類あります。
(この他、各都道府県が条例で定める営業許可もあります)
大分類 | 小分類 |
製造・加工業 | 菓子製造業 あん類製造業 アイスクリーム類製造業 乳処理業 特別牛乳搾取処理業 乳製品製造業 食肉処理業 食肉製品製造業 魚肉ねり製品製造業 食品の放射線照射業 清涼飲料水製造業 乳酸菌飲料製造業 氷雪製造業 食用油脂製造業 マーガリンショートニング製造業 みそ製造業 醤油製造業 ソース類製造業 酒類製造業 豆腐製造業 納豆製造業 めん類製造業 そうざい製造業 缶詰または瓶詰食品製造業 添加物製造業 食品の冷凍・冷蔵業(冷凍食品の製造) |
販売業 | 乳類販売業 食肉販売業 魚介類販売業 魚介類せり売営業 氷雪販売業 |
調理業 | 飲食店営業 喫茶店営業 |
運搬・保管業 | 集乳業 食品の冷凍または冷蔵業 |
許可を受けるには人的要件と設備要件が必要
冒頭でも述べたとおり、食品販売の営業許可を受けるには、人的要件と設備要件を満たしている必要があります。
それぞれ、どのような要件なのかを見ていきましょう。
人的要件で求められる「食品衛生責任者」
食品販売を行う場合、施設に必ず食品衛生管理者を1人置いておかなければなりません。
これは店頭販売であっても、ネット販売であっても変わりません。
食品衛生管理者になるには、大きく分けて2つの方法があります。
栄養士や調理師、製菓衛生師などの資格を持っている場合は、講習を受けずに、そのまま食品衛生管理者になることができます。
そうした資格を持っていない場合には、食品衛生責任者の養成講習会を受け、資格を取得する必要があります。
余談ですが、「食品衛生責任者」と「食品衛生管理者」は、名称は似ていますが異なる資格です。
後者は、乳製品や肉製品など、特定の食品を製造する際に設置が必要です。
施設要件で求められる基準
施設要件としては、営業する施設が下記の条件を満たす必要があります。
詳しくは、施設の所在地を所管する保健所にご相談ください。
【共通基準】
まずは建物について見てみましょう。
1.営業施設の構造
項目 | 基準 |
場所 | 清潔な場所 |
建物 | 鉄骨、鉄筋コンクリート、木造造りなど十分な耐久性を有する構造 |
区画 | 使用目的に応じて、壁、板などにより区画する |
面積 | 取扱量に応じた広さ |
床 | タイル、コンクリートなどの耐水性材料で排水がよく、清掃しやすい |
内壁 | 床から1メートルまで耐水性で清掃しやすい構造 |
天井 | 清掃しやすい構造 |
明るさ | 50ルクス以上 |
換気 | ばい煙、蒸気等の排除設備(換気扇等) |
周囲の構造 | 周囲の地面は、耐水性材料で舗装し、排水がよく、清掃しやすい |
ねずみ族、昆虫等の駆除 | ねずみや昆虫などの防除設備 |
洗浄設備 | ・原材料、食品や器具等を洗うための流水式洗浄設備 ・従事者専用の流水受槽式手洗い設備と手指の消毒装置 |
更衣室 | 清潔な更衣室又は更衣箱を作業場外に設ける |
2.食品取扱設備
次に、食品を取り扱う設備などについての取り決めです。
項目 | 基準 |
器具等の整備 | 取扱量に応じた数の機械器具及び容器包装を備える |
器具等の配置 | 移動しにくい機械器具等は、作業に便利で清掃・洗浄がしやすい位置に配置する |
保管設備 | 原材料、食品や器具類等を衛生的に保管できる設備 |
器具等の材質 | 耐水性で洗浄しやすく、熱湯、蒸気や殺菌剤等で洗浄できるもの |
運搬具 | 必要に応じ、防虫、防じん、保冷のできる清潔な食品運搬具を備える |
計器類 | 冷蔵、殺菌、加熱、圧搾等の設備には、見やすい箇所に温度計や圧力計、計量器を備える |
3.給水及び汚物処理
衛生面を考慮し、給水や汚物処理についても基準が定められています。
項目 | 規定内容 |
給水設備 | 水道水または飲用に適していると認められる水を豊富に供給できるもの 貯水槽は衛生上支障のない構造 ただし、島しょ等で飲用適の水を得られない場合には、ろ過、殺菌等の設備を設ける |
便所 | 作業場に影響のない位置・構造で、従業員に応じた数を設け、使用に便利なもので、ねずみ族、昆虫などの防除設備、専用の流水受槽式手洗い設備、手指の消毒装置を設ける |
汚物処理設備 | ふたがあり、耐水性と十分な容量があり、清掃しやすく、汚液や汚臭が漏れないもの |
清掃器具の格納設備 | 作業場専用の清掃器具と格納設備 |
以上は、自動販売機以外のすべての業種に必要な施設の基準です。 次に、業種ごとに異なる「特定基準」についても見ておきましょう。
【特定基準】
それぞれ次のような基準が定められています。
飲食店営業・喫茶店営業
項目 | 規定内容 |
冷蔵設備 | 食品の保存に十分な大きさの冷蔵設備を設けること |
洗浄設備 | 洗浄槽は2槽以上とすること ただし、自動洗浄設備がある、または食品販売に付随するもので、販売所の一画に調理場を設け、簡易な調理を行う場合で衛生上支障ないと認められるときはこの限りでない |
給湯設備 | 洗浄と消毒のための給湯設備を設けること |
客席 | 客室・客席には、換気設備を設けること 明るさは10ルクス以上とすること。 ※食品の調理のみを行い、客に飲食させない場合には客室・客席は不要 なお、風俗営業等の規制および業務の適正化等に関する法律又は旅館業法の適用を受ける営業を除く |
客用便所 | 客の使用する便所があること ただし客に飲食させない営業であれば不要 なお、客の使用する便所は調理場に影響のない位置・構造とし、使用に便利なもので、ねずみ族、昆虫等の侵入を防止する設備を設けること また、専用の流水受槽式手洗い設備があること |
菓子製造業
項目 | 規定内容 |
施設及び区画 | 製造、はっ酵、加工や包装を行う場所、製品置き場などの必要な設備を設け、作業区分に応じて区画すること また、作業場外に原料倉庫を設けること |
機械器具 | 製造量に応じた数と能力のある混合機、焼がま、平なべ、蒸し器、焙焼機、成型機その他の必要な機械器具類を設けること 必要に応じ冷蔵設備を設けること |
魚介類販売業
項目 | 規定内容 |
冷蔵設備 | 食品の保存に十分な大きさの冷蔵設備を設けること ただし生食用魚介類を販売する場合は5℃以下、冷凍魚介類を販売する場合は-15℃以下の冷蔵能力のある冷蔵設備を設けること |
機械器具 | 取扱量に応じた生食専用の機械器具類を設けること |
解凍設備 | 冷凍魚介類を解凍販売する場合は、解凍設備を設けること |
最高最低温度計 | 冷凍魚介類の冷蔵設備には、最高最低温度計を備えること |
食肉販売業
項目 | 規定内容 |
冷蔵設備 | 食品を保存するために、十分な大きさを有する冷蔵設備を設けること 包装凍結肉を販売する場合は、-15℃以下の冷蔵能力を有する冷蔵設備を設けること |
最高最低温度計 | 包装凍結肉の冷蔵設備には、最高最低温度計を備えること |
乳類販売業
項目 | 規定内容 |
冷蔵設備 | 乳類を常に10℃以下に保存できる能力を有する冷蔵設備を設けること ただし、常温保存可能品のみを販売する場合は、この限りでない |
運搬用具 | 運搬用具は、製品及び汚染空瓶用を、それぞれ別個に備えること |
空瓶置場 | 空瓶置場を設けること |
漬物製造業
- 一定の区画をした空だる置き場が設けられていること
- 作業場周囲の排水溝は暗きょであること
「暗きょ」とは、地中に埋められているなど水面が見えないことを言います。
惣菜半製品等製造業
- 洗浄槽は2槽以上とすること
- 洗浄・消毒用の給湯設備を設けること
魚介類加工業
- 沈でん槽のある排水溝が設けられていること
食料品等販売業
- 取扱量に応じた陳列ケースや取扱器具を備えること
- 冷蔵設備は常に5℃ 以下 (法に保存基準が定められているものは法に則る)に冷却できるものであること
- 運搬容器にはふたがあり、専用のものであること
- はっ酵乳やは乳酸菌飲料を扱う場合は、汚染防止の設備をした空瓶置き場が設けられていること
上記以外の業種にも、特定基準があるものがあります。必ず保健所等にご相談ください。
開業届は必要か?
開業するなら開業届を出さなければならないと認識しておきましょう。
お店を始める際、税務署に「個人事業の開廃業届出書」という届け出を提出する必要があります。これがいわゆる「開業届」です。
事業を開始した場合、1カ月以内の提出が所得税法229条により義務付けられています。実店舗かネット販売かは関係ありません。
ちなみに開業届を出さなくても、罰則はありません。
ただ、利益が上がるにつれて確定申告(白色申告・青色申告)にかかわる問題が出てきますし、開業届を出すメリットもあります。
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食品販売には、保健所による営業許可を受ける必要があります。許可には人的な要件と施設的な要件があり、満たしていなければ開業できません。
人的要件とは「食品衛生責任者」の資格がある人を置くことです。施設要件には、施設や設備が満たさなければならない共通の基準と、売る・あるいは作る品物の種類などによって異なる特定基準があります。
たとえば施設には、明るさが50ルクス以上であること、周囲が耐水性の材料で舗装されていることなど細かい条件があり、すべてを満たさなくてはなりません。
申請をする前に保健所に相談し、工事のやり直しといった事態にならないように気を付けてください。
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