ここ数年で急速に広がりつつある「副業」。
「副業するなら個人事業主になった方がいい」という人もいますが、「会社員として働いているのに『事業主』になることができるのか」「そもそも個人事業主って何?」といった疑問もわいてくるものです。
この記事では、個人事業主とは何を指すのか、副業として個人事業主になるとはどういうことか、そしてそれにはどんなメリット・デメリットがあるのかについて解説します。
目次
「個人事業主」の定義とは
「個人事業主」という存在に法的な定義はありません。
ただ、開業届を出して自ら事業を営む人のことを個人事業主と呼ぶのが一般的です。
個人事業主の例としてよくあるのは、プロスポーツ選手やTVタレント、YouTuber、街の商店街の店主などがこれに当たります。
ただし、そういった方でも会社を設立して法人化している場合もあり、一概に職業でくくることはできません。
また、よく混同される言葉に「フリーランス」があります。
フリーランスの方には個人事業主となっている人もが多いのですが、フリーランスは「働き方」を指します。
企業や団体に所属せず働き、報酬を得る働き方が「フリーランス」。
働き方を問わず開業届を提出し、個人で事業を営むのが「個人事業主」です。
プロ野球選手には個人事業主も多いですが、同時に球団に所属しています。
フリーランスであり個人事業主である人もいますが、必ずしも「個人事業主=フリーランス」ではありません。
開業届を出す=個人事業主になる
個人として税務署に開業届を出すと、個人事業主として認められることになります。
開業届とは「個人事業を開始したことを税務署に届け出る書類」のことです。
出さないことに罰則はありませんが、事業所得を得ている人は原則として事業開始から1カ月以内に開業届を提出する必要があります。
事業所得とは、「農業、漁業、製造業、卸売業、小売業、サービス業、その他の事業から得られる所得」のこと。
ほとんどすべての業種が当てはまるように見えますが、不動産の貸付や山林の譲渡に関する所得は除かれます。
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会社員のまま個人事業主になることも可能
個人事業主というと、「独立開業」してなるもの、というイメージを持つ人も多いでしょう。
そのため、会社に属しているのに個人事業主になるのは不可能、あるいは良くないこと、と考えられがちです。
しかし会社員と個人事業主を両立させることに法的な問題はありません。
会社員が副業収入を得るために個人事業主になるケースもありますし、個人事業主として事業を運営しながら企業に就職するケースもあります。
副業で個人事業主になるメリット
まず知っておきたいのは、副業で個人事業主になることにはメリットがありますが、それはある程度の収入が確保できている場合のみだということです。
会社員が副業を始めたからと言って、即座に、あるいは収入がほとんどない段階で個人事業主になる、すなわち開業届を出す必要はありません。
開業届を提出する目安は、副業の「事業所得が年間20万円を超えた」ところです。
これは、日本の申告納税制度上、20万円以下の所得は確定申告が不要とされているためです。
20万円を超える事業所得が得られそうな場合、もしくはすでに得ている場合は、開業届を提出しましょう。
ちなみに事業所得とは「対価を得て継続的に行う事業」によって得られた所得のことでもあり、一度だけ引き受けたような単発の報酬は該当しません。
副業で個人事業主になると、大きく2つのメリットがあります。
- 青色申告を利用して節税ができる
- 仕事用の銀行口座を開設しプライベートと区別できる
それぞれについて説明していきます。
青色申告で節税できる
詳しくは後述しますが、個人事業主になる最大のメリットはこの青色申告です。
青色申告をすることでさまざまな経費計上による控除が認められるため、節税につながります。
ただ、青色申告をするにはあらかじめ「青色申告承認申請書」の提出が必要です。
開業届と一緒に提出しておくとよいでしょう。
この届出をしておかなければ青色申告にすることができず、節税のメリットを受けることはできないので注意してください。
仕事用の銀行口座を開設できる
開業届を出して個人事業主になると「屋号」という社名のようなものが付けられます。
これに合わせて「屋号付き」と言われる銀行口座の開設が可能になり、プライベートと副業の入出金を分けて管理できるようになります。
これは、法人口座とは異なるもので、お金の管理がしやすくなるだけでなく、屋号付き口座の方がクライアントからの信頼が得やすくなるというメリットもあります。
屋号付き口座では名義が「屋号 氏名」のような表記になりますが、一般的な個人口座に比べて開設のための審査も厳しく、金融機関に対し事業内容や実態の報告、ホームページのアドレスや印刷した物の提出などが必要です。
こういった審査をクリアした、という点で、信頼性の担保ができるわけです。
副業で個人事業主になるデメリット
副業で個人事業主になることには、デメリットも存在します。
メリットと合わせてしっかり確認しておきましょう。
- 本業の退職後に失業手当が受け取れない
- 青色申告のために複雑な記帳が必要となる
- 扶養に入っている人は外れる可能性がある
それぞれ見ていきましょう。
本業退職後に失業手当が出ないおそれ
失業保険とは、会社を退職した場合、または勤務している会社が倒産した場合などに、元々の給与収入や雇用保険の被保険者期間などに応じて一定の金額が給付される手当です。
「仕事に就きたいという意思と能力があるにもかかわらず仕事の機会がない場合」に支給されます。
個人事業主とは「個人で事業を営む人」ですから、本業を退職しても仕事はあると見なされ、原則として失業保険の給付対象外となります。
短時間アルバイト並みの収入である場合、その分を差し引いた額の手当が受け取れる可能性もあります。ただし収入があるなら、通常の退職時と同じ失業手当を受け取ることはできません。
どうしても失業保険を受給したければ、退職より前のタイミングで「廃業届」を出して個人事業主を辞める必要があります。
もちろんこの場合、事業を続けることはできません。
個人事業主であることを隠して失業手当を受給することは不正受給となり、処分を受けることになってしまいます。
青色申告のために複雑な記帳が必要になる
メリットの章でも述べた通り、個人事業主となって青色申告をすれば節税できます。
具体的には、所得税の確定申告を青色申告で行うことで、65万円あるいは55万円、もしくは10万円の所得控除が受けられ、結果的に納める税金が安くなります。
ただし、65万円や55万円の青色申告特別控除を利用するには、収支を「複式簿記」で記帳する必要があります。
複式簿記では、1つの取引を複数の科目で記帳するので手間がかかります。
また、65万円の控除を受けるには、主要簿と呼ばれる「仕訳帳」や「総勘定元帳」を作成する必要があります。
仕訳帳はすべての取引を日付順に記録するもの、総勘定元帳とは、すべての取引を勘定科目ごとに分けて記録するものです。
本業が会計や経理関係であるという人を除いて、ほとんどの個人事業主が知識を持たず苦労する点でもあります。
扶養に入っている人は外れるおそれあり
会社員ではなく、収入をいわゆる「扶養内」に収めるためアルバイトやパートをしつつ、副業を行っている、という場合には注意が必要です。
配偶者の扶養に入っていられるのは年収103万円未満の場合です。
副業を始めた場合は、副業での所得とアルバイトの収入の合計が103万円未満である必要があります。
扶養に入り続けていたい方はこの金額を超えないように注意しましょう。
開業すると副業が会社にバレる?
副業を認める会社が増えてきたとはいえ、依然として副業を認めていない会社もありますし、OKではあるもののプライベートなことなので知られたくない、という人もいるでしょう。
そこで気になるのが、「個人事業主を始めると副業が会社にバレるのではないか」ということです。
副業が会社にバレるきっかけとは
会社や同僚に黙っていたにもかかわらず副業が会社にバレる可能性があるのは、青色申告をすることにより全体の所得が増え、住民税の額が高くなるためです。
住民税の額は前年の所得により決まります。
会社経由で届く住民税の決定通知書には、給与所得のほか「その他の所得計」という欄があり、そこに以前にはなかった多額の所得があれば「副業でもしているんじゃないか」と疑われるおそれもある、ということです。
明確に「副業している」とわかるわけではありません。
とはいえ、最近では個人情報保護の意識が高まりプライバシーへの配慮が重視されていることから、実際にそこから副業を疑われ、例えば上司から呼び出される、という可能性はゼロではないものの低いと考えられます。
また、個人情報保護のため該当部分にシールを貼るといった動きも出てきており、自治体の方でシールを貼っていれば会社も見ることはできません。
住民税を普通徴収にすればバレない
上記の流れで副業がバレる可能性があるのは、住民税が給与から天引きされる「特別徴収」となっているからです。
そのため、住民税を個人で納入する「普通徴収」にすれば、バレる心配はなくなります。
確定申告の際には、給与以外の所得について、特別徴収にするか普通徴収にするかを選択することができます。
ただし、就業規則で副業が禁止されている場合は、従業員として最優先で守らなくてはなりません。
場合によっては、懲戒などの処分をされるおそれもあります。
副業の個人事業主と確定申告
前述の通り、副業の事業所得が20万円を超えた場合には確定申告が必要になります。
確定申告を青色申告にすることで、節税のメリットがあります。
ここで改めて、その「確定申告」について見ておきましょう。
確定申告には、「青色申告」と「白色申告」があり、納税者がどちらかを選びます(ただし青色申告を行うには、あらかじめ「青色申告承認申請書」を提出する必要あり)。
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「青色申告」のメリット
青色申告には、大きく3つのメリットがあります。
- 最大65万円の特別控除
- 赤字の3年間繰り越し
- 30万円未満の固定資産を一括経費計上
それぞれに具体的に説明します。
最大65万円の特別控除がある
所得税の確定申告を「e-Tax」(国税電子申告・納税システム)で行う、など一定の条件をクリアすると、最大65万円の特別控除を受けられます。
控除とは「差し引く」という意味。収入から一定の額を差し引き、残りの額に課税がされるということです。
仮に事業所得が100万円だった場合、100万円に税率がかかるのではなく、65万円を控除した35万円に税率がかかることになり、納める税金を少なくすることができます。
特別控除は最大で65万円。
条件によって55万円もしくは10万円の控除もあります。
赤字を3年間繰り越せる
事業経営では、毎年ちゃんと利益が出るとは限りません。
その点、青色申告では事業所得に赤字が出た場合、3年まで繰り越すことができます。
仮に次のような業績だったとしましょう。
1年目:赤字100万円
2年目:赤字50万円
3年目:黒字200万円
赤字を繰り越せない場合は、3年目は200万円に対する税金を支払うことになります。
しかし赤字が3年間繰り越せれば、1・2年目の累計の赤字と3年目の黒字を相殺した50万円に対する税金を納めれば済むということです。
ただしこれは、赤字でも毎年確定申告(損失申告)をしていなければ適用されません。
30万円未満の固定資産を一括経費計上できる
通常、10万円を超える固定資産(パソコンやスマホなど)は、一括で経費として計上することができません。
「減価償却」といって、数年に分けて経費計上をする必要があります。
減価償却は手間もかかりますし、節税効果が相対的に薄まります。
しかし青色申告ならこの上限額が30万円(未満)まで引き上げられ、さらに一括計上を選べます。
一括計上ができれば利益から差し引く経費の額が大きくなるので、納める税金を少なくできます。
注意!雑所得は優遇所得の対象外になる
上記のメリット、すなわち優遇が受けられるのは「事業所得」だけである点に注意が必要です。「雑所得」にはこういった優遇措置は適用されません。
ここで「どういうものが雑所得にあたるのか」という疑問も生じますが、実ははっきりした線引きがありません。
申告自体をどちらにするのかは納税者の判断ですが、最終的に判断するのは税務署です。
納税者としてできることは、税務署で所得の内容について聞かれた際に事業所得だと認められるような材料を用意しておくことでしょう。
事業所得かどうかの判断ポイントとなるのは、収入額や仕事の継続性・反復性、リソースをどの程度費やしているかなど。
いわゆる片手間でやっている事業は雑所得とみなされる可能性が高いです。
青色申告のデメリット
青色申告には節税という面でメリットが大きいですが、手間がかかるのがデメリットです。
すでに文中で説明していますが、青色申告のメリットを受けるには次の2点が必須です。
- 青色申告承認申請書を事前に提出する
- 複式簿記で記帳を行う(55万円・65万円の控除)
青色申告は、したいと思ったタイミングで自由にできるわけではなく、あらかじめ申請しておく必要があります。
しかも期限が決まっており、青色申告をしようとする年の3月15日まで、もしくは新規開業の日から2カ月以内に行わないと青色申告はできません。
簿記の知識がない人にとって、複式簿記は複雑で難解です。
「簿記」という資格があるくらいですから致し方ないでしょう。
確定申告用のソフトを使えば比較的簡単にできますが、使用には料金がかかります。
記帳が簡単な「白色申告」
青色申告でない、もう1つの申告方法が「白色申告」です。
白色申告の最大のメリットは、記帳が簡単なこと。
白色申告なら、1つの取引に対して1つの科目で収支を記録する「単式簿記」で済むため、複式簿記より大いに手間が省けます。
簿記の知識がない人にも、比較的理解しやすい方法です。
デメリットとしては、青色申告によるメリットが受けらえれない、つまり特別控除を受けることができないこと、赤字を繰り越せないことが挙げられます。
以前は、白色申告であれば帳簿の作成や保存の義務がなく、青色申告との手間の差が大きかったのですが、2013年12月からは白色申告でも帳簿と書類の保存が義務付けられ、その点でのメリットはなくなっています。
個人事業主になるのは簡単!
「個人事業主になる」のは実質的には大きなことですが、手続きとしては簡単です。
会社で副業が容認されているかどうかを確認し、OKなら開業届(と青色申告承認申請書)を出すだけです。
まずは会社の就業規則を確認
社会的に副業容認の流れが起きているとはいえ、副業禁止という会社もまだまだあります。まずは就業規則で確認しましょう。
副業の禁止が就業規則で定められている場合には、副業をすること自体が規程違反となるため、会社によっては懲戒処分などを科されるおそれがあります。
副業が認められている場合は社内で副業に関する届出書を出す必要があるケースが多いので、提出を忘れることのないよう気を付けてください。
開業届を税務署に出す
開業届は、自宅住所を管轄する税務署に提出します。
別の地域に事務所や店舗を設ける場合でも、届け出る先は自宅住所の管轄税務署です。
開業届は正確には「個人事業の開業・廃業等届出書」という名称です。
記載項目に沿って記入していくだけで、難しいことはありません。審査も特になく受理されます。
青色申告にするなら「青色申告承認申請書」を
開業届と同時に、青色申告承認申請書も出しておくのがおすすめです。
白色申告する場合には不要なものですが、青色申告の10万円特別控除と白色申告では手間に大差がないため、青色申告にしておいた方が節税のメリットが大きくなる可能性があります。
開業後2カ月を過ぎてしまうと、青色申告にしたくても切り替えはできず、白色申告することとなります。
「とりあえず出さずにおこう」という場合もその期限は覚えておきましょう。
都道府県に事業開始届を出す
開業届は税務署に出しますが、同じように「個人事業を開始した」という旨を都道府県にも出す必要があります。
都道府県によって名称が異なります。例えば大阪府の場合は「事業開始・変更・廃止届」、愛知県は「 開業(廃業)事務所等設置(移転・廃止)報告書」です。
場合によってはその他の書類も必要
開業届や青色申告の申請書以外にも、場合によって税務署に提出が必要な書類があります。
主なものとして、家族に事業を手伝ってもらい給与を払う場合の届出書と、源泉所得税の納期を年2回にする特例を受ける場合の申請書を紹介します。
青色事業専従者給与に関する届出書
個人事業主として事業を行う際によくあるのが、「家族に手伝ってもらい、給与を支払う」というパターンです。
通常は、家計を同一にする家族に対する給与は経費として認められません。
しかしこの書類で事前に届け出ることで経費計上が可能になり、大きな節税効果が期待できます。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
従業員を雇用する場合は、給与から所得税の源泉徴収をする必要があります。
源泉徴収とは、会社が従業員の年間の所得税を給与から差し引いて納税するしくみです。
通常は毎月計算して納付するという作業が発生しますが、従業員が10名以下の場合は、この申請書を提出すれば源泉所得税の納付を年2回(半年に1度)にまとめられるようになります。
このように従業員がいる場合には、法人化という選択肢も出てくるでしょう。
法人化するタイミングやメリット・デメリットについては、こちらの記事で解説しています。
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まとめ
副業が軌道に乗ってきたときに気になるのが「個人事業主」というワード。
副業のまま個人事業主になる、というと違和感があるかもしれませんが、法的な問題もなく可能です。
副業で行っている事業に本格的に取り組むのであれば、開業届を出して個人事業主となることを視野に入れましょう。
青色申告を利用すれば、節税などのメリットを受けることもできます。
青色申告では複雑な手続きも必要です。
自分でできなければ費用はかかりますが会計ソフトを使ったり税理士に相談したりするのが得策です。
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