起業するならまず、どんな事業をするかを決めなくてはなりません。
起業する多くの人が、これまで培った経験や知識を生かせる分野で起業をしています。とはいえ、まったく同じ業種・職種での起業でなくても、成功している人はたくさんいます。
この記事では、起業がしやすい業種・職種にはどんなものがあるかを紹介し、業種選びの注意点や、失敗しないためのポイントも解説します。
目次
起業する人が多い業種
起業のしやすさを示す指標の1つに、起業する人の多さが挙げられます。
中小企業庁の「小規模企業白書(2022年版)」によると、起業する人が多い業種の上位5業種は以下のとおりです。
- 宿泊業、飲食サービス業
- 生活関連サービス業、娯楽業
- 電気・ガス・熱供給・水道業
- 不動産業、物品賃貸業
- 情報通信業
「生活関連サービス業」には、日常生活にかかるさまざまなサービス業が当てはまります。例えば次のような業種です。
・クリーニング店 ・コインランドリー
・銭湯、スーパー銭湯
・美容院
・エステティックサロン
・ネイルサロン
・結婚相談所
・家事・運転の代行サービス
・金券ショップ
「物品賃貸業」には、次のような業種があります。
・産業用機械などのリース業
・パソコンなど事務用機器のリース業
・レンタカー業者
・レンタルCD・ビデオ業者
これらは既存の業種ですが、これまでになかった物のレンタルを始めるというのも1つの方法です。
「情報通信業」には、放送局や出版社、新聞社のほか次のような業種があります。
・電話会社
・情報システム開発
・プログラム開発
・情報提供サービス
・マーケティングリサーチ
・ネットショップの運営
・ウェブコンテンツの提供
・ASP(アプリケーションサービスプロバイダ)
電話会社などの新規参入はハードルが高いですが、インターネット関連であれば1人での開業、自宅での開業も可能なため、開業しやすい主な例だと言えます。
ただ、上記の5業種のうち上位3つまでは、廃業率でもトップ5に入っています。開業のしやすさは「成功のしやすさ」にはつながらないことがわかります。
少ない資金で始められる業種
初期費用が少なくて済む業種も、起業しやすい業種と言えます。一般的に、起業時にもっとも費用がかかるのは、オフィスや店舗の物件取得費用(賃貸契約料や工事費用)です。
そのため、自宅で開業できる仕事、特に1人で開業できる仕事であれば、資金を抑えることができ、起業のハードルも低めです。例えば次のような業種が挙げられます。
- インターネットビジネス
- 家事など各種代行・便利業
- 各種修理業・ハウスクリーニング
- 各種出張サービス
- 美容系サロン経営
- 習いごとの教室
- 学習塾、語学教室
- 飲食業の一部
- ネットショップの運営
- 介護・福祉業の一部
- 軽貨物運送業
それぞれ具体的にどんな仕事があるか見ていきましょう。
インターネットビジネス
文字通りインターネットを使って事業を行うのがインターネットビジネス(ネットビジネス)です。
ネットを通じたやり取りなので、自宅での開業が可能なほか、設備もパソコンとネット環境があれば始められます。
・webデザイナー
・webライター
・アフィリエイター
・動画制作・編集者
・イラスト・写真販売
・アプリ開発
・SNSの運用・代行
・webコンサルタント
この中でも特に始めやすいのが、webライターやアフィリエイター、SNS運用代行です。女性が1人で始めるのにも向いている仕事。パソコンさえあれば、自宅ですぐにでも始められます。
しかし、収益を得られるまでに時間がかかったり、単価が低かったりするので要注意。
webデザイナーには、今やコーディングができることも求められるのが一般的。複合的なスキルを身につけることで、単価アップを狙うのがおすすめです。
家事など各種代行・便利業
家事の代行や便利業などは、資格が不要なほか、自宅を事務所にでき、大規模な設備も不要です。例えば次のような仕事があります。
・家事代行
・ベビーシッター
・買い物代行
・便利業
・運転代行
・ペットシッター
特に掃除を含む家事の代行は、少子高齢化や共働き世帯の増加によって、昔よりニーズが高まっています。
ただし、代行業でも運転代行業やペットシッターなどの場合は、資格が必要です。ベビーシッターには必須の資格はないものの、民間資格があるのとないのとでは信頼度が異なります。いずれも、命を預かる仕事であり責任も重いです。
各種修理業・ハウスクリーニング
修理業やハウスクリーニングの仕事も、自分が客先に出向いて行う事業なので、比較的少ない資金で起業できます。次のような仕事があります。
・エアコン修理・クリーニング
・スマートフォン修理
・ハウスクリーニング
・スーツケース修理
・靴・カサの修理
・ジュエリーの修理
・家具の修理
ただし、修理業には、専門知識や技術だけでなく、仕上がりのスピードや美しさも求められます。
ジュエリーなども、修理に出すほど大切な物。保管などの取り扱いも注意が必要です。
ハウスクリーニングも、家事代行や便利業よりも難易度は高く、「ハウスクリーニング技能士」という国家資格があるほどです。
各種出張サービス
代行や修理業のほか、自宅を事務所として各地に出向いて行うサービス業も開業しやすい業種の1つです。例えば次のような仕事があります。
・出張カメラマン
・出張シェフ・料理人
・出張リラクゼーション
・鍵開け・交換
・出張占い
・マジック
・ジャグリング
通常、飲食店の開業には営業許可や資格が必要ですが、調理・盛り付けを客先でしか行わない場合には必要ありません(自宅で仕込みなどする場合は許可が必要)。そのため、腕さえあればすぐにでも始めることができます。
美容師の出張サービスについては、特別な事情が認められた場合以外は違法となるので注意が必要です。
一部の美容系サロン経営
美容系サロンの中でも、資格や高額・大がかりな設備や美容機器を必要としない次のようなサロンであれば、開業も比較的しやすいです。
・ネイルサロン
・リフレクソロジー
・まつ毛パーマ・マツエクサロン
・ヘッドスパサロン(ウェット・ドライ)
例えばネイルサロンや水を使わないヘッドマッサージ、リラックスを目的としたリフレクソロジーなどは、資格がなくても行えます。
美容師資格を持っているなら、マツエクサロンや水をつかったウェットヘッドスパなどで起業することも可能です。
習いごと教室の運営
コロナ禍で一気にオンライン化が進んだ習いごと関連の教室、いわゆるカルチャースクールも、資格が不要なものがたくさんあります。大がかりな設備も不要なら、自宅でも開業できます。
・音楽系(楽器、ソルフェージュなど)
・書道(毛筆、硬筆、ペン字など)
・語学(英語、フランス語など)
・ハンドメイド系(編み物、洋裁、カゴ編みなど)
・花(生け花、フラワーアレンジメントなど)
・料理(家庭料理、各国料理など)
・製菓・製パン
・カメラ
・絵画・イラスト
・各種マナー(テーブルマナー、接遇など)
「習いごと」と一口に言っても、その種類は多種多様。これまでにない、珍しい趣味や特技で教室を開くことももちろん可能です。
学習塾・語学教室
学習塾や語学教室も、資格が必要なく、教えるだけのスペースがあれば始められます。オンラインで授業を行うことも可能です。
・児童~学生向け受験対策
・TOEICなど試験対策
・語学教室(大人/キッズ向け、英語、フランス語など)
ただ、学習塾の場合は、テストの点数アップや試験の合格など、成果が如実に表れるため責任もあります。
大手予備校などがライバルとなりますし、授業のカリキュラムなどを一から作成するのも簡単ではないでしょう。
飲食業の一部
飲食業の中でも、広い店舗を構える必要のない次のような業態なら、好条件の広い物件でなくても起業が可能。比較的安く開業できる可能性が高いです。
・キッチンカー
・ケータリング
・デリバリー専門店
・テイクアウト専門店
また、自宅の一画を改修してカフェやクッキー、パンなどの小さなお店を開くこともできます。
ただし、飲食業を始めるには、保健所の営業許可を取る必要があります。自宅用と業務用の設備をきっちり分けるなどの条件があり、工事内容によっては高額な資金が必要です。
介護・福祉業の一部
介護系の事業を立ち上げるには、有資格者が3人以上必要などの条件があるケースがほとんどです。
しかし、要介護者の在宅介護について相談を受けたり、ケアプランを作成したりする「居宅介護支援事業所」であれば、有資格者(主任ケアマネージャーに限る)1人で立ち上げることが可能です。
ただし、事業の立ち上げは法人にしか認められません。法人を設立するのに、定款の作成や登記申請といった手続きが必要で、手続きには6万円以上がかかります。
軽貨物運送業
運輸業の中でも、軽貨物で比較的小さな荷物の運送を行う「貨物軽自動車運送事業(軽貨物運送業)」なら、起業も比較的しやすいと言えます。
開業には普通自動車免許と軽貨物の車両、駐車スペースが確保できていればよく、「届け出」は必要ですが「許可」ではないため、厳しい規制もありません。
大手の運送会社は慢性的な人手不足となっています。運送業は今後も需要はなくならないため、将来性の面でも問題はありません。
フランチャイズという選択肢
上の章で紹介した業種のうち、インターネットビジネス以外には、「フランチャイズに加盟する」という選択肢もあります。
フランチャイズは、本部が持つブランドの認知度や経営ノウハウを自分の店で活用する代わりに、加盟料やロイヤリティなどを支払うものです。
フランチャイズには、
次のようなメリット・デメリットがあります。
フランチャイズに加盟するメリット
フランチャイズ加盟のメリットは、大きく次の2つあります。
- 認知度があり集客しやすい
- ノウハウが確立されている
起業して苦労することの1つが集客です。フランチャイズはすでに認知度があるので信頼性が高く、経営を早く軌道に乗せられる可能性があります。
飲食であれば食材や材料の仕入先、ディスプレイや接客方法にもノウハウがあります。塾であれば、カリキュラムも決まっているため、起業のハードルがグンと下がります。
フランチャイズに加盟するデメリット
- 加盟金やロイヤリティの支払いが必須
- 本部の指示に従う必要がある
ブランドの認知度を利用する代わりに、ロイヤリティを支払う必要があります。例えば売上のない月でも支払いが必要なブランドの場合、経営が圧迫される可能性があります。
ただ、自由を求めての起業には、本部からの指示が足かせとなることも。オリジナリティを出すのは難しいでしょう。
将来的な発展を目指すなら成長産業
今後の成長が期待される「成長産業」での起業は、簡単ではないものの、国や自治体から開発費の助成や補助金、融資などの支援を受けられる可能性があります。
ただ、何を「成長産業」と位置付けるかは、自治体によっても異なります。多いのは次のような業種です。
成長分野 | 具体例 |
---|---|
医療・健康(ウェルネス) | 医療現場のDX化、ウェアラブル医療機器、アンチエイジング、フィットネス・ビューティー産業、ウェルネスツーリズム、ウェルネス不動産 など |
環境・エネルギー | 電気・ガス・水道・カーボンリサイクル燃料、洋上風力などの再生可能エネルギー など |
航空・宇宙 | ロケット開発、探査、輸送、地球観測 など |
次世代モビリティ | 次世代自動車、航空機、船舶の開発 など |
情報通信 | 生成AIの活用、ICT・IoTの市場拡大、サイバーセキュリティ検証 など |
専門技術 | DX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)技術・製品の開発 など |
これまで培った経験や知識を生かし、こういった新たな分野への挑戦をすること。リスクは大きいですが、得られるものも大きいでしょう。これがまさに、起業の本来あるべき姿かもしれません。
補助金などの有無や内容、対象分野については、各自治体に確認してください。
起業に失敗しない業種選びのポイント
業種・職種を選ぶ際は、成功の可否を大きく左右する次のポイントにも注目してみてください。
- 需要の安定性
- 利益率の高さ
- 市場規模の大きさ・競合の数
それぞれ見ていきましょう。
需要の安定性
安定した利益を確保するには、当然ながら需要が安定している必要があります。
需要が安定している業種とは、需要が景気や流行などに左右されない業種です。例えば、医療・介護系や、なくては生活できないインフラ系など。逆に、娯楽業や飲食業は、景気に大きく左右されます。
安定しない業種であれば、景気が後退した場合にどうするかなども考えておくとよいでしょう。コロナ禍のような事態になったとき、いかに臨機応変かつスピーディーに動けるかカギとなります。
利益率の高さ
利益率とは、売上に対する利益の割合です。収益から経費を引いた額が利益となります。
利益率が高ければ、集客が少なくてもある程度の利益が得られます。
仕入れなどの経費が必要ない、インターネットビジネスやコンサル系、各種の教室などは、利益率が高い業種と言えます。
利益率が低い場合は、店舗なら回転数を上げる努力、受注数を増やす努力などが必須です。
市場規模の大きさ・競合の数
起業しようとする市場が競争の激しいレッドオーシャンか、競合が少ないブルーオーシャンかによっても、成功できるかどうかは大きく変わります。
市場規模が大きいほど参入しやすいですが、競合が多いのであれば、より他との差別化に尽力しなくてはなりません。
そもそも始める前に必ず商圏分析を行い、勝算がある場所での起業を考える必要があります。
起業の成功率を上げる必須ポイント
最後に、業種にかかわらず成功に必要となるポイントを挙げていきます。
情熱を注げる仕事を選ぶ
起業をするなら、自分が長く情熱を注いでいける仕事を選ぶことが大切です。
起業自体はできても、継続して利益を上げることは簡単ではありません。経営がすぐに軌道に乗るケースは稀で、数カ月は寝る間を惜しんで働いたり、生活を切り詰めたりする必要も。
どんなに優れたアイデアやビジネスモデルでも、途中で情熱が冷めたり、あきらめてしまっては元も子もありません。
経験やスキルが活かせる仕事を選ぶ
起業する人に最も多いのが、これまでの経験分野で起業するケースです。知識やスキル、ノウハウがあり、業界の雰囲気・傾向・競合の事情などわかっていれば、成功に何が必要かも判断しやすくなります。
同じ業種でなくても、経験やスキルが活かせる業種であれば、新たな可能性が開ける可能性があります。
自分の持つスキルが別の何かに活かせないかを考えてみてください。
未経験なら必要な経験・スキルを積む
まったく関係のない分野での起業なら、見切り発車で起業することなく、知識や経験を短期間でも積むことをおすすめします。
アルバイトなどの形態を問わず、現場を見ることが重要です。
起業する人の多くが、これまでの経験やスキルを活かして起業をしているため、まったくの未経験ではスタートから不利な状態です。
業界問わず、独自の不文律というのも存在します。何も知らなければ苦労は必至ですし、何よりハイリスクです。
ビジネスモデルを確立する
ビジネスモデルとは、「お客様に何をどのように提供して利益を生み出すのか」という、ビジネスの仕組みです。
事業として続けていくためには、どのようなビジネスモデルなのかも重要なポイントです。
既存のモデルに倣うのもよいですが、新たなビジネスモデルを構築できれば、競合との差別化になります。
ただし、ビジネスモデルは途中で変えることも可能です。うまくいかなかった場合、ビジネスモデルの変更で販路が広がることも。柔軟に考えることも大切です。
具体的な事業計画書を作成する
事業計画書は、できるだけ具体的に書き、売上予測も実現可能な額で作るなどする必要があります。現実的で綿密な計画であれば、成功の可能性も高まります。
開業資金のために融資を受けるにも、事業計画書の提出が必須です。テンプレートの空欄を適当に埋めたものや、実現不可能と思われるような大きすぎる売上予測などでは、融資に通りません。
事業計画書の内容は、事業の成功可否にそれだけ影響するということです。
できる限りの資金を貯めておく
日本政策金融公庫が行う新規開業者への調査では、約6割の人が開業時の資金繰り・資金調達に苦労したと答えています。
融資を受けるにも自己資金は必要で、「少なくとも必要総額の30%」というのが金融機関側の見解です。
繰り返しますが、起業して経営を軌道に乗せるまでには時間がかかります。その間に資金が尽きてしまわないよう、できる限り貯蓄しましょう。
副業などから小さく始める
成功しやすい起業方法の1つが、小規模で始めることです。まずは小さな店舗を借りて、うまくいけば広げていく、など。
小規模で始めれば、初期費用が少なくて済むのはもちろん、ランニングコストも抑えられます。
現在会社員なのであれば、給与で定期的な収入を確保したまま、副業として始めるのも賢い方法です。
経営の基礎知識を身につける
本業についてはプロでも、経営に関する知識なくして事業を続けることは困難です。
専門家にサポートや代行を依頼するにしても、経営者が何も知らないでいるのはハンドルを他人に握らせているのと同じ。大きなリスクがあります。
事業を始めてからでは時間がなくなるので、事前に学んでおくことをおすすめします。
専門家のサポートを受ける
経営以外にも、事業には会計・税務、従業員を雇うなら労務など、さまざまな分野が関わってきます。これらも、基礎知識程度は学ぶ必要がありますが、あとは専門家に任せるのが得策です。
起業前の事業計画の作成段階でも、専門家の手を借りることで融資の獲得につながるケースは少なくありません。
会計などの知識を1から学ぶのは容易ではなく、時間もない人がほとんどでしょう。しかし、経営の専門知識は成功に必須です。法的な手続きは「知らなかった」では済まされませんし、節税のチャンスも逃しかねません。
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