起業や会社設立をしたくてもなかなか踏み出せない。そんな人もおおいのではないでしょうか。成功するかどうかわからない、ということもありますし、思わぬリスクが潜んでいて、損をしてしまうのではないかと疑ってしまうこともあるでしょう。
起業も会社設立も、リスクを0にするのは正直なところ無理でしょう。しかしあらかじめリスクを想定しておき、回避するための行動を取れば、やみくもに不安がる必要はなくなるはずです。
この記事で、起業や会社設立にどんなリスクが伴うのかと、それぞれの対処法を把握しておきましょう。
起業のリスクを各局面に分けて解説
事業運営には、個人・会社にかかわらず、さまざまなリスクがつきまといます。起業をする前に、リスクとその対処法を知っておきましょう。
事業運営・戦略に関するリスク
根幹となる事業の運営については、次のようなリスクがあります。
- 商品やサービスが売れない
- 競合が多い
- 取引先や仕入れ先が見つからない
- 取引先や仕入先が倒産する、契約が切られる
- 商品やサービスへのニーズがなくなる
起業に関する最大の不安要素といえば、自社の商品・サービスが「売れるかどうか」です。品質などに自信や思い入れがあるからといって、売れるとは限りません。商品や販売地域などさまざまな条件によって、競合が多く勝ち残るのが難しい可能性もあります。
そしてその前に、材料の仕入先やメーカーなど必要な取引先を確保することが先決です。一社だけとの取引の場合、その相手との取引ができなくなった場合に事業が存続できなくなるおそれも出てきます。
また、一時は売れたとしても、新製品の出現や社会的な変化によって商品へのニーズがなくなる、低まる可能性もあります。
資金面でのリスク
資金についても、次のようなリスクがあります。
- 開業準備で資金が底をつく
- 収益が上がらない
- 売掛金が回収できず支払いができない
起業すぐの時点で起こりがちなのが、設備などへの初期投資に多額の費用をつぎ込んでしまうリスクです。事業を始めてすぐに安定した売り上げを得るのは難しく、当面の運転資金を残しておかなければ、続ければ成功する可能性があっても続けられません。
また、商品やサービスが売れても、値付けが適切でないなどして十分な収益が上がらないこともあり得ます。
さらに、取引先から売掛金が回収できず手持ちの資金もなければ、事業を回していけなくなってしまいます。
従業員のマネジメントに関するリスク
従業員を雇うなら、組織としてのマネジメントにおいて次のようなリスクがあります。
- 必要な人材を集められない
- 人材が定着しない・育たない
- 各種ハラスメントが発生する
- 労使間のトラブルが発生する
自社に足りない部分を補うため、あるいは規模を大きくするために人を雇う必要性も出てくるでしょう。しかし、業界や地域によっては深刻な人手不足であることも。
望むような人材が集まらなければ、事業にも支障が出ます。雇って教育した従業員が辞めてしまうリスクがあることも否めません。
組織となれば、さまざまな価値観の人が集まるためパワーハラスメントやセクシャルハラスメントなど、ハラスメントによる問題も発生しやすくなります。
労働条件やマネジメントの仕方によっては、従業員との関係が悪化してトラブルに発展することも。裁判沙汰になれば費用がかかるほか、看板に傷がつく可能性もあります。
セキュリティ関連のリスク
セキュリティに関しては、次のようなリスクがあります。
- 盗難被害に遭う
- 詐欺被害に遭う
- 機密情報が漏えいする
詐欺や機密情報の漏えいにはインターネットを使ったものが多く、手口も巧妙になっていくため完全に防ぐのが難しい状況です。
また、インターネットの普及とSNSなどにより、匿名での情報拡散がしやすい状況も大きなリスクを生む要因。
機密情報が漏えいすれば窃盗犯などの標的になりやすく、どこから情報が漏えいしたのかの特定も難しくなっています。
コンプライアンス関連のリスク
事業を行う上では、さまざまな法令を守っていかなくてはなりません。事業者には昔より高いコンプライアンス意識が求められています。
- 許認可や資格・免許の取得もれ
- 法改正への対応もれ
- 広告表示法などへの違反
- 従業員による不祥事の発生
飲食店などでは、業態や営業時間などによってさまざまな許認可を取る必要があります。法律は社会情勢によって改正も行われるため、最新の法令に則っていなければ違反となってしまいます。
法令違反を犯すと、罰金や懲役といった法的な罰則を科されるだけでなく、社会的にも信頼を失い、事業が存続できなくなるおそれがあります。
マネジメントにも関連して、従業員がいる場合には個人のコンプライアンス意識や倫理観の欠如によって不祥事を起こされるリスクも否定できません。
過失等による賠償責任のリスク
コンプライアンスの徹底ができていなければ、次のようなケースで賠償責任を追及されることもあります。
- 商標権や著作権の侵害
- PL法への抵触
- 個人情報の漏えい
商標権や著作権など、かつてはやや軽んじられていた権利も、コンプライアンス意識の高まりや知的財産を守ろうとする社会の動きによってより重視されるように。「知らなかった」では済まされなくなっています。
自社が生み出す製品についても、PL法で製造者としての責任が問われています。他者の身体に被害をもたらす要素は排除しておかなくてはなりません。
製品の購入者リストなど個人情報を得る立場なら、流出させてしまうことにより被害者から損害賠償を求められるリスクもあります。
事故や自然災害のリスク
事故や不可抗力によるリスクも、起業に関連します。
- 業務上のケガ
- 火災
- 台風や風水害、地震など
危険を伴う事業では特に、従業員や周辺住民・環境の安全を脅かさないようにしなくてはなりません。
また、災害が発生して事業所や取引先などに被害が出れば、事業が存続できなくなるリスクも。従業員が罹災して働けなくなるおそれもあります。
火災については、自身が起こした場合の損害もあり得ますし、他者が起こした火事による延焼などの被害も起こり得ます。
他者による火災であっても、「失火責任法」により火元には賠償責任を問えません。
自身の生活などに関するリスク
事業経営を行うことで、自身の生活にも次のような悪影響を及ぼすリスクがあります。
- ワークライフバランスが取れなくなる
- 家族との時間が持てない
- ストレスなど精神的にダメージを受ける
人間関係について多くの起業家が感じるのが「孤独」です。それまで同じ組織で働いていた仲間とは離れ、不満や愚痴を言い合える相手がいなくなります。相談事も、事業に直結するとなれば誰にでもできるわけではなくなります。
経営者には「勤務時間」というものが存在しません。常に事業のことが頭を離れず、仕事とプライベートの境目がなくなる人がほとんどでしょう。
そうなれば、家族がいる人は家族との時間が取れず、個人としての生活に支障をきたします。
経営やマネジメントなど、考えるべきことや心配事などはいくらでも出てきます。精神的な安定が保てないという人も少なくありません。
起業リスクに講じておくべき8つの対策
起業にともなうリスクとそれによる上記のようなダメージは、あらかじめ把握し対策しておくことで最小限に抑えられる可能性もあります。
対外的にも、何かが起きた際にリスクマネジメントをしていた場合としていなかった場合とでは、信頼度や風当たりの強さも変わってくるでしょう。
講じるべき対策には、次のようなことが挙げられます。
- 初期投資は控えめにする
- 開業資金はできるだけ多く用意する
- マーケティング・集客を重視する
- 複数の取引先を確保する
- 従業員の教育にも力を入れる
- 事業に関わるあらゆる法律の知識を得ておく
- アウトソーシングを活用する
- 各分野の専門家と手を結ぶ
それぞれ具体的に見ていきましょう。
初期投資は控えめにする
最初は設備投資を控えめにして、3~6カ月分の運転資金と生活費は確実に残しておきましょう。
店舗経営などの場合は特に、オープン時点で理想をすべて叶えた形にしたくなるものです。しかし、それによって費用がかさめば、事業が軌道に乗る前に資金が底をついてしまいます。
開業資金はできるだけ多く用意する
初期投資を控えるにしても、起業するまでになるべくたくさんの自己資金を貯めておきましょう。
開業には、金融機関から融資を受けるのが一般的です。とはいえ、借り入れが多いほど月々の返済額が大きくなり、頭を悩ませることになります。
そもそも、自己資金が少ないと金融機関からの融資も受けにくいのが現状です。目安としては、運転資金の3カ月分は少なくとも必要とされています。
マーケティングで戦略を練る
事業は、商品やサービスへのニーズを無視しては成功できません。いいものだから売れるとは限らず、自分がいいと思っても他者の見方は異なる可能性も。
時代の流れでニーズが変わったり、地域や住む人の特性などによって異なったりもするので、マーケティングでニーズを把握し、戦略を立てることが不可欠です。
複数の取引先を確保する
取引先は、1つでなく複数社と契約を結んでリスクを分散させておくのが得策です。
1社とだけ契約をした方がコストダウンになるメリットもあります。しかし、倒産や廃業、生産調整や自然災害等により生産や流通がストップしたときの方が、被害は大きいでしょう。
従業員の教育にも力を入れる
従業員が集まる・辞めない職場にするには、業務関連の教育制度を整え、向上できる環境にしておくことも重要です。働く側は、会社は自分の能力を発揮し、高められる場であってほしいと考えます。
コンプライアンス意識についても、教育を行うことで醸成されます。
事業に関わるあらゆる法律の知識を得る
必要な許認可の不備は、営業停止処分を受ける・社名が公表されるなど、事業経営にとって致命傷となり得ます。同じ業種でも、事業の実態に合わせて他店とは異なる許可が必要となる場合もあります。
どのような許認可が必要なのかは、あらかじめ関係する公的機関に確認してください。法令については、大まかにでも内容を把握しておきましょう。
アウトソーシングを活用する
主にいわゆるバックオフィスの業務では、自社で専門に人材を雇ったり片手間に行ったりせず、アウトソーシングを活用して効率よく行うことも、リスクマネジメントに役立ちます。
たとえば自社の経理担当者が1人だけで作業がブラックボックス化してしまえば、当人次第で不正を行うことも可能な状態に。
経理や給与計算、人事代行、営業など、多くの分野でアウトソーシングが可能になっています。複数の業者から見積もりを取るなどして比較検討するのがおすすめです。
各分野の専門家と手を結ぶ
法律については弁護士、登記は司法書士、税務・会計は税理士、雇用・労務関連は社会保険労務士など、各分野の専門家に業務を委託することで、数多くのリスクを避けることができます。
調べたり手続きしたりすることは、事業主本人にも可能です。しかし事業が軌道に乗るまでに本業以外で時間や手間を割くことは避けたいですし、実質的に困難でしょう。
専門家への依頼には費用がかかるとはいえ、得られるメリットも大きいはずです。
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たとえば会社を設立するための手続きには費用がかかります。専門家に頼むより自分でやった方が安いと思いがちですが、実のところ費用負担には大きな差がなかったりもします。
こちらの記事で解説しているので、ぜひ目を通してみてください。
個人事業主から会社を設立するメリット・デメリット
ここまでは「事業を立ち上げること」で生じるリスクについて解説してきました。すでに個人事業主として働いている人が会社を立ち上げる場合には、どのようなメリット・デメリットがあるのかも見ておきましょう。
法人成りのメリットとは
個人事業主が会社設立をすることを「法人成り」と呼びます。法人成りには、主に次のようなメリットがあります。
- 所得が多くても税率は上がらない
- 社会的な信用度が上がる
- 赤字が最長10年繰り越せ、黒字と相殺できる
- 役員報酬や退職金を経費にできる
法人になると、事業で得た所得には法人税が課されます。個人の所得税が累進課税方式で高所得ほど税率が高くなるのに対し、法人税は比例税で税率は一定です。中小企業には、所得による軽減税率も定められています。
目に見えないもののメリットとして大きいのは、会社は登記という法律上の手続きを踏むことから信用度が高まるということ。取引先を確保するにも、社会的な信用の度合いが大きくものをいいます。
事業で経営が赤字となってしまった際、個人事業主でも青色申告をすれば最長3年は繰り越しができます。しかし法人になれば最長10年の繰り越しが可能となり、より相殺しやすくなることも大きなメリットです。
また、個人事業主とは異なり、会社と経営者とは別人格。そのため、役員としての自分への給与や賞与を経費にできるメリットもあります。
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法人成りのタイミングについては、こちらの記事を参考にしてください。
法人成りのデメリットとは
法人成りには、主に次のようなデメリットもあります。
- 設立に手間と費用がかかる
- 事業が赤字でも負担すべき税金がある
- 税務・会計の事務作業が煩雑になる
- 事業を廃止するにも手間と費用がかかる
株式会社を設立する場合、まずは会社の基本情報となる定款を作成し、それを公証役場で認証してもらう必要があります。そのうえで法務局に会社設立の登記を行います。
定款の認証と設立登記には、それぞれに数万円以上の費用がかかり、会社を立ち上げるという手続きだけでも25万円ほどは見ておかなくてはなりません。
また、法人が納める法人住民税の均等割り部分は、事業が赤字であっても納めねばなりません。そして法人には決算が必要なため、決算書作成のために複雑な帳簿付けなども行う必要が生じます。
廃業するにも、登記関連の手続きが必要となり、費用も数万円単位でかかります。
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会社設立のデメリットについて詳しくは、こちらの記事で説明しています。
まとめ
起業に成功して注目を浴びる人もいれば、挫折する人も数多く存在します。資金繰りで失敗してしまう人のほか、予想外のリスクに足を取られることも。
起業に伴うリスクには、事業の軸となる商品・サービスが思うように売れなかったり、無意識に法令違反を犯してしまったりとさまざま。リスクマネジメントをするには、あらかじめリスクを想定して対策を取っておく必要があります。
初期費用を使い果たさないためには設備投資を最小限に抑える、関連法令を侵すリスクは自身で知識を学ぶほか専門家のサポートを受けるなど、リスクに応じた対策をとって備えましょう。