会社設立時にしなくてはならないことは多岐にわたります。法的な手続きはもちろんなのですが、それ以前に考えておくべきこと・準備しておくべきことも。
また、会社は「法人」として法律で認められる存在です。そのため、さまざまな法律に則って運営していく必要もあります。特に商取引法などは、会社組織で事業運営をするなら必須の知識です。
この記事では、起業する前の準備段階ですべきことや、会社設立で必要となる法の知識について解説します。
法的な手続きについて知りたい方はこちらの記事を参考にしてください。
目次
会社設立の前にしておくべきこと
会社の設立は、会社の基本情報である定款を作り、登記をすることで成立します。しかしその前に、まずは次のことから始めていきましょう。
会社設立の目的を明確にする
現代は、パソコンとインターネット環境さえあれば1人でも仕事ができる時代です。以前とは異なり、用意すべき資本金は1円でもよくなるなど、昔より会社設立のハードルはかなり低くなりました。
しかし、安易な起業で成功する例はまずありません。会社としてどのような事業を行い、誰に何を提供するのか、どんな会社にしたいのか?といった目的を、必ず明確にしておく必要があります。
会社設立後のビジョンがはっきりと描けない場合は、まずそこから始めましょう。
自社の商品・サービスの強みを把握する
会社設立がしやすいことは、ライバル会社も多い可能性があるということ。他社との差別化が必須です。
自社の「ウリ」は何でしょうか。他には負けない「何か」はあるでしょうか。
同じような商品・サービスがあふれる中、どのようにして勝ち残るのか考えておかなくてはなりません。
そのためにはまず、敵を知るための競合分析も必須です。
創業計画書を作成する
事業の目的や方向性、自社の強みを明らかにし、競合についても調査したら、それを創業計画書(創業時の事業計画書)としてまとめましょう。
創業計画書は、自分の頭の中だけにあるビジョンを可視化し、具体的な行動への指針とするものです。何をすべきかが明確になると同時に、何が足りないのかもわかります。
また、創業計画書は融資を受けるにも必須です。金融機関に融資を申し込めば、必ず創業計画書の提出が求められます。その中で、事業への将来性、借入金の返済能力などを見てもらって初めて融資を受けることができるのです。
創業計画書を専門家に依頼することについて
創業計画書は、事業を行う本人が作成するのが本来の形ではあります。しかし、記載内容にはお金の面など専門知識が必要なこともあり、融資に通るためにと専門業者に任せる人も多いのが現状です。
ただし、計画作成はあくまで事業主自身がすべきもの、という自覚は持ち、内容はすべて把握しておいてください。任せきりになると他人事になってしまいます。
融資の審査には、面談もあります。例えば日本政策金融金庫の面談では、自分1人で金融機関に出向き、担当者と直接会って、計画の内容を説明し、質問にも答えなければなりません。
事業に必要な資金を調達する
手続き上は、資本金1円でも会社設立は可能です。とはいえ、資金がない状態で始めるのは難しい事業がほとんどでしょう。
これまでに貯めた自己資金でまかなえればよいですが、そうでない場合には親や知り合いなどからの個人的な借り入れ、金融機関からの融資やクラウドファンディングなどが資金調達の主な方法となります。
金融機関からの融資を受けるなら、前述の創業計画書をしっかりと作り込んでおきましょう。ただし、融資を受けるにしても、必要な資金の30%程度は自己資金で捻出できることが融資の条件だったりもします。
事業に必要な資金とは
会社設立にあたって必要となる資金には、次のようなものがあります。
- 資本金(設備投資、運転費用に充てられる)
- 定款認証・設立登記にかかる法定費用
- その他(印鑑作成、証明書類の発行手数料など)
資本金は、返済する必要のないお金でなくてはなりません。
前述の通り1円でも手続き上は可能ですが、1円で事業を興すというのは現実的ではないでしょう。
融資を受ける金融機関や取引先候補となる相手から信用されるにも、資本金が多いほどよいのは確実です。
株式会社を設立する場合、会社の基本的な情報を記載し作成した「定款」を、公証人に「認証」してもらう必要があります。
定款認証には、資本金額によって異なる3万円~5万円の公証人手数料と印紙税(収入印紙)4万円が必要です。
また、その認証済みの定款やその他の書類をあわせて法務局に提出し、「(商業)登記」を申請します。商業登記には、株式会社は最低でも15万円、合同会社は最低6万円の登録免許税を納めなくてはなりません。
さらに、登記申請時に必要な申請用の定款の謄本1ページにつき250円、登記申請に必要な印鑑証明書、法人用の印鑑作成費などが必須です。
設立当初から重要!リサーチと集客・営業
会社を設立する前から継続して行っていく必要があることの1つが、市場分析や競合分析、ニーズの把握といったマーケティングリサーチと集客のための施策です。
リサーチと分析は反復・継続が大事
会社の設立前には、事業を始める場所やターゲット設定などあらゆるものの決定にマーケティングが必要となります。
統計データなども見ていく必要がありますし、頻繁に店舗など現場に足を運び、肌で時代の流れやニーズを感じる方法も効果的です。
時代の移り変わり、社会や経済の状況、世の中の流行やトレンドなどを把握して、というより先回りして、市場の変化に対応していく必要があります。
ターゲットのニーズを満たさなければ売れませんし、競合他社より優れた部分がないと競争に打ち勝つことはできません。
集客施策を怠ると致命傷にも
どんなに優れた商品でも、社会に役立つ画期的なサービスでも、まず存在をたくさんの人に知ってもらうことがはじまりです。知られなければ、必要とする人にも届かないでしょう。
ターゲットとしている層の人たちに知ってもらうこと、これはぜひ事業の開始と同時に売れるようなタイミングで下準備しておきたいものです。
現代の集客は、SNSを無視することはできません。メディアや複数のSNSをそれぞれの特徴を生かして利用し、集客にも力を入れてください。
ただし、最初から集客にお金をつぎ込みすぎるのも経営破綻の原因となります。お金をかけない集客方法をメインに模索していきましょう。
あわせて読みたい
取引先などは先回り営業で確保
会社設立してすぐに仕事ができる状態にするには、最低限の取引先も確保しておく必要があります。
人脈を広げ、情報をキャッチしやすくするために、異業種交流会などに参加するのもよいでしょう。
良い人脈が築ければ、質の高いビジネスを展開していくことができます。取引する相手はしっかりと見定め、地道に会社を発展させていくのが得策です。
事業そのものや経営は得意でも、営業が苦手と言う人もいるかもしれません。適材適所で人を雇う、外部リソースを活用するなど、さまざまな選択肢から自分に合った方法を利用してください。
事業者が知っておくべき法知識とは
会社として事業を運営していくには、守るべき法律が多方面に存在していることも忘れてはなりません。法律は「知らなかった」では済まされないため、場合によっては会社が大きな損害を被ったり、処罰を受けたりしてしまいます。
会社法や商法、税金関連の法律はもちろん、行う事業に関する法律の遵守も必須です。従業員を雇うなら労働関連の法律も関わってきます。例えばCMに芸能人やアーティストのデザインを起用するなら、著作権や商標権も把握しておく必要があります。当然、自社の商品の権利も守らなくてはなりません。
関連するすべてをここで紹介するのは無理ですが、ここでは、見落とされがちな2つの法律について見ておきます。
事業者が知っておくべき「特定商取引法」
特定商取引法とは、消費者を悪徳業者などから守るための法律です。わかりにくい仕組みや行き過ぎたセールスなどで消費者から苦情を受けることのないよう、十分に気を付ける必要があります。
特定商取引法が関係してくるのは、次のような販売方法です。
- 訪問販売
- 通信販売
- 電話勧誘販売
- 連鎖販売取引
- 特定継続的役務提供
- 業務提携誘引販売取引
- 訪問販売
商品の販売方法やサービスの契約方法などにが特定商取引法に違反すると、業務停止命令などの措置を受けることもあります。
広告に掲載する文言は、消費者に誤解を与えないように留意します。通信販売以外は、契約しても一定期間は解約が認められるクーリングオフ制度の対象です。無理な契約の取り付けは、自社のためにもなりません。
誠実な商品・サービスを、適正な方法や価格で提供する。それが事業者があるべき姿であり、事業を成功に導く重要なポイントでもあることを忘れないようにしましょう。
事業者が知っておくべき「特定電子メール法」
eメールを事業に活用する場合には、「特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(特定電子メール法)」で規定されるガイドラインに要注意です。
特定電子メール法の要点である「オプトイン方式」と「送信者の表示義務」を守らなかった場合には、罰則の対象となり、懲役刑や罰金が科されるおそれもあります。
「オプトイン方式」とは、特定電子メールの送信について、事前に同意を得ること。同意を得ていないユーザーに対し、勝手にメール送信をするのは違法です。
ホームページなどでは、資料請求や会員登録の際、メール送信することに同意をもらうなどの手法で、ユーザーを集めていきます。
「送信者の表示義務」とは、eメールの送信にあたり下記の項目を記載する義務です。
- 送信者の名称・氏名
- 受信拒否ができる旨の通知
- 送信者の住所
- 苦情や問い合わせの受付先
「送信者の名称・氏名」と「受信拒否ができる旨の通知」はeメール本文に入れるのが必須です。「送信者の住所」と「苦情や問い合わせの受付先」については、リンク先のページでの記載も可能です。もちろん、内容に虚偽があってはいけません。
消費者の権利だけでなく、結果的には自社をも守ることとなる法律。自社の事業運営にどのような法律が関わるのかは、事業を始める前に必ず確認しておいてください。
まとめ
起業を成功させるのに必要なのは、資金調達でも法的な設立手続きでもなく、会社の方向性や事業の目的を明確にしておくことかもしれません。
何のためにどのような事業を行うのか、事業によって誰をどのような状態にしたいのか。会社設立時に、軸となる部分をしっかり固めておきましょう。
それによって、何をどうすべきかの道筋も見えてきます。市場分析をしてターゲット層を定め、そのターゲットの購買傾向を把握、提供すべき商品やサービスはどのようなものかを考えます。ニーズをつかめる商品やサービスでなければ、お金を払って買ってはもらえません。
事業を進める上では、各種の法律を遵守することも必須です。とはいえ守るべき法律も事業によって多岐にわたります。法律の専門家と契約してサポートしてもらうと心強いでしょう。