個人として開業する場合の手続きは、税務署に開業届を出すくらいで複雑な手続きは不要です。しかし会社を設立するとなると、法律に沿って各所で手続きをしなくてはなりません。
窓口がバラバラで、書類もいろいろあり、「結局どんな書類が必要なのか、まとめて知りたい」という人も多いでしょう。
この記事では、会社設立とその前後に必要となる複数の手続きについて、全体の手続きの大まかな流れとそれぞれの必要書類を、詳しく説明していきます。
目次
会社設立とは?
「会社を立ち上げる」とは、具体的な手続きでいうと、会社として設立の登記をすることです。会社を、個人ではない「法人」という法的な存在として認めてもらうために記録を作ること、それが設立の登記です。
法人の設立登記をするには、法務局に対して申請手続きを行う必要があります。
手続きの大まかな流れ
設立の登記に先立って必要となるのが、定款の作成と認証です。会社設立には、株式会社という形態を選ぶケースが多いでしょう。株式会社の設立登記には、公証人の認証を受けた定款の提出が必要です。そのため、登記より前に公証役場で定款認証の申請を行わなくてはなりません。
定款の認証を受け、登記申請をして登記が完了すれば、それで法的に会社設立ができたことになります。
しかしその後、税務署への届出や都道府県税事務所および市町村への届出、年金など社会保険への加入手続きも行う必要があります。
つまり、会社設立をするには「公証役場」と「法務局」、「税務署」や「都道府県税事務所」、「年金事務所」といった複数の窓口での手続きが必要となるのです。
「会社」には4つの形態と2つの設立方法がある
会社形態で最も多いのが株式会社です。そのほか、会社には経営者と出資者の関係などにより「合同会社」「合資会社」「合名会社」という会社形態もあります。
「有限会社」も数多く存在していますが、法の改正により現在は新たな有限会社を設立することができません。
あわせて読みたい
株式会社の場合、さらに設立の方法として「発起設立」と「募集設立」があります。発起設立とは、設立時に発行する株式をすべて発起人が引き受ける設立方法。募集設立では、発起人が引き受けるのは発行する株の一部で、残りの株を引き受けてくれる第三者を募集して会社を設立します。
一般的に行われているのは発起設立です。発起人一人でも会社設立ができ、手続きも第三者が加わる募集設立より簡単なことがその大きな理由だと考えられます。
この記事でも、株式会社の発起人設立を基本として説明していきます。
会社設立に必要な手続き一覧
ではまず、株式会社の設立に伴い必要となる手続きを一覧で見ておきましょう。
手続きの名称 | 手続き先 |
---|---|
定款の認証申請 | 会社の本店所在地の都道府県にある公証役場 |
資本金の振り込み | 代表者が持つ金融機関の口座 |
(機関の設置) | (取締役会などについての決定) |
会社の設立登記申請 | 会社の本店所在地を管轄する法務局 |
法人設立届の提出 | ・本店所在地を管轄する納税地の税務署 ・都道府県税事務所 ・市町村役場 |
社会保険への加入手続き (健康保険、厚生年金保険) | ・本社所在地を管轄する年金事務所 |
労働保険への加入手続き (従業員を雇う場合のみ) | ・本店所在地を管轄する労働基準監督署 |
機関の設置については、社内で決めるものであり、どこかで手続きすることではありません。設立時取締役や代表取締役などを選定します。この記事では説明を割愛します。
ちなみに、株式会社以外の形態(合同会社・合資会社・合名会社)は定款認証を受ける必要がありません。
次の章から、手続き別に必要となる書類を具体的に説明していきます。作成する書類はすべてA4サイズで揃えるようにしてください。
定款認証の申請手続きの必要書類
株式会社の設立登記には、定款を作成し、それを公証役場に持ち込み、公証人による認証をしてもらう必要があります。定款認証を申請するのに必要なのは、次のような書類です。
各書類名から説明部分に飛べます。
ちなみに、定款の認証には、手数料として資本金の額により3万円~5万円の認証手数料と、登記申請用に謄本をもらうための手数料として2,000円ほど(謄本1枚につき250円)が必要です。
また、公証人保存用の原本には、4万円分の収入印紙を貼る必要もあります。定款を紙でなく電子定款とする場合には、収入印紙は不要です。
定款
定款とは、会社の基本的な情報と規則をまとめたものです。事業の目的や本店所在地、発行可能な株式の数、役員の数や選任方法などを記載します。
記載事項には、記載が必須な事項(絶対的記載事項)、決めるなた記載が必要な事項(相対的記載事項)などが定められています。
定款はA4サイズ、片面に横書きにし、表紙と本文、裏表紙の順にとじます。原本には、発起人全員が署名または記名押印(実印)をし、各ページにまたがるよう契印をします。
公証役場での保存用と登記の際の法務局提出用、会社での保管用の3通を公証役場に提出し、保管用の1通は後で返却してもらいます。
公証役場では、認証申請をする前に定款に関して相談することもできます。また、公証役場によっては事前にファックスやメールで内容確認をするよう求められるところもあります。事前に確認しておきましょう。
あわせて読みたい
収入印紙
定款には、印紙税法にもとづき印紙税がかかります。ただし3部ともに必要なわけではありません。公証人の保存する分の定款のみが課税対象で、金額は一律4万円です(令和4年1月現在)。4万円の収入印紙を郵便局などで購入し、公証人保存用の原本にのみ貼り付けます。
ただし、定款に間違いなどがあるかもしれないので、収入印紙は別で持参し、公証役場で確認してもらってから貼ると安心です。
紙でなく電子定款とする場合には、印紙税は必要ありません。
発起人全員分の印鑑証明書(と実印)
定款には、発起人全員の実印が押されます。その実印の証明として、印鑑証明書を一緒に提出する必要があります。
印鑑証明書は、各個人が印鑑登録をした市町村役場で発行してもらいます。発行から3カ月以内の証明書でないと認められないので注意してください。
上記の代わりに本人確認書類(と認印)
印鑑登録をしていない場合には、印鑑証明書の代わりとなる本人確認書類と認印とによる代用も可能です。
本人確認書類とは、公的機関が発行した顔写真付きのもので、自動車の運転免許証やパスポートなどが当てはまります。写真のない健康保険証などは使えません。
(代理人が申請する場合)委任状と身元確認書類
定款認証の申請は代理人でも可能です。その場合には、上記の書類に加え、発起人全員から代理人への委任状も必要となります。
また、代理人の印鑑登録証明書と実印、もしくは公的機関発行の顔写真つき身分証明書と認印が必要です。
設立登記の申請手続きの必要書類
定款が認証されたら、いよいよ法務局で会社の設立登記を申請します。登記申請には次のような書類が必要です。
- 登記申請書
- 登記免許税納付用台紙
- 登記すべき事項を記載した紙やCD-R
- 公証人の認証を受けた定款
- 発起人の同意書
- 設立時代表取締役の選定決議書
- 役員の就任承諾書
- 取締役全員の印鑑証明書
- 資本金の払い込みを証明する書類
- 印鑑届書
それぞれ詳しく説明します。
登記申請書
株式会社の設立には、「株式会社設立登記申請書」を提出します。様式は法務局の公式サイトにリンクがあります(リンク先は下記に掲載)。
登録申請書の記載内容は次の通りです。
それぞれ見ていきましょう。
商号
商号とは社名のことです。正式名称を略さず記入し、そのすぐ上には「株式会社」部分を除いたフリガナも左詰めに記入します。空白を入れても、空白なしで登録されます。
本店所在地の住所
会社の本社所在地の住所を記入します。「‐」などで簡略化せず、「〇丁目〇番地」など正式な住所を書きましょう。ビル名や部屋番号までは記載しなくても問題ありません。
例えばビル名まで記載している場合、郵便物が迷子になりにくいメリットもありますが、ビルの名称が変われば登記の変更をしなくてはならなくなります。
その場合、地域によっては取締役会での意思決定が必要となる場合もあるので注意が必要です。
登記の事由
登記の事由には、「〇〇年○○月○○日発起設立の手続き完了」と書くのが一般的です。これはつまり、この日に会社設立の準備がすべて整ったから登記する、ということです。
この日付は任意で決めるものです。後述の資本金の払込を証明する書面に記載の日付などにしておくとよいでしょう。
登記すべき事項
設立の登記に必要な事項は、会社法で定められています。ただし、申請書の欄に記入するにはスペースが足りません。
そのため、「別紙のとおり」「別添CD-Rのとおり」などとして別紙かCD-Rに入れたものを提出するのが一般的です。法務省では、オンラインでの申請を推奨しています。
記載内容については後の項で説明します。
課税標準金額
課税標準金額には、資本金の額を書きます。「金1000万円」のように書き、金額の書き足しなどができないようにします。
登録免許税の金額
会社設立に必要な登録免許税は、基本は「資本金額の1000分の7」の額です。100円未満の端数は切り捨てます。
ただし最低金額は15万円。つまり1000分の7が15万円未満となる場合には、登録免許税の金額は15万円と記入します。
ちなみに、合同会社の設立の場合、最低金額は15万円でなく6万円です。
登記申請をする年月日
申請書の最後に、「上記の通り登記の申請をします」と記載し、その下に申請者の住所などを書きます。
ここに記入する日付は、登記事由の日付よりも必ず後になるようにしてください。なお、設立日は法務局が申請を受け付けた日になり、ここに書いた日付になるとは限りません。
申請人の住所と名前
ここでいう申請人とは、個人ではなく会社です。会社の住所を番地まで正確に書き、申請人として商号(会社名)を書きます。
代表者の住所と名前
次に、設立時代表取締役の住所と、「代表取締役 ○○○○」のように氏名を書き、実印を押します。ここでも住所は省略などせず正式なものを書いてください。
(代理人を立てる場合)代理人の住所と名前
登記申請を第三者に委任する場合、代表者の下に代理人の住所と氏名を記載します。代理人が申請を行う場合は代理人の認印でよく、代表取締役の実印は必要ありません。
連絡先の電話番号
最後に、日中につながる電話番号を記載しておきます。記入漏れなど何かあった場合には法務局から連絡が入る可能性があります。
商業・法人登記の申請書様式|法務局公式サイト
※「申請書類の記載例第1 株式会社」の「設立」のところに様式あり
設立登記申請書の記載例|法務局公式サイトより(PDF)
登記免許税納付用台紙
登録申請書に続けて、登録免許税の収入印紙を貼るページを設けます。
収入印紙は、法務局で確認作業がしやすいよう、用紙の右側に寄せて貼ってください。ここには割印をしてはいけません。
登記すべき事項を記載した紙やCD-R
設立登記申請書の中で「登記すべき事項」の欄に書いた通り、別紙あるいはCD-Rなどで登記すべき事項を書いたものを提出します。
必ず登記しなくてはならないのは、次の項目です。
項目 | 記載内容・例 |
---|---|
商号 | ○○株式会社 など社名 |
本店所在地 | ○○県○○市〇〇町〇丁目〇〇番地 |
目的 | 1. ○○の販売 2. ○○等の企画・開催 前各号に付帯する一切の事業 |
公告の方法 | 官報に掲載して行う |
資本金の額 | 金○○○○○○○円 |
発行可能株式総数 | ○○○○株 |
発行済株式の総数並びに種類及び数 | ○○〇株 |
株式の譲渡制限に関する規定 | 当会社の発行する株式はすべて譲渡制限株式とし、これを譲渡によって取得するには、株主総会の承認を要する。 |
役員に関する事項 | 資格:取締役・監査役 氏名:各役員の氏名 ・代表取締役の住所と氏名 |
取締役会設置会社に関する事項 | 取締役会設置会社 |
登記記録に関する事項 | 設立 |
登記した内容については、変更しようとすると変更登記が必要となり、手間も費用もかかります。「とりあえず」の内容ではなく、先のことも考えて決めましょう。
公証人の認証を受けた定款
上で公証人による認証を受けた定款(法務局用)を、登記用として提出します。
発起人の同意書
これは、次の内容が定款に定められていない場合に必要となるものです。
- 発起人の割当株主数と払い込むべき金額
- 株式会社発行事項または発行可能株式総数の内容
- 資本金および資本金準備金の額
発起人の同意書は、発起人決定書、発起人の決定書、発起人会議事録とも呼ばれます。
設立時代表取締役の選定決議書
代表取締役を選定した場合に必要となります。「代表取締役」は、必ずしも選定しなくてはならないものではなく、人数の制限もありません。
そのため、取締役が1人のみの会社で、その取締役が代表取締役となることもできますし、代表取締役を3人にすることも可能です。
役員の就任承諾書
次の役員について、本人による就任の承諾書が必要となります。
- 設立時代表取締役
- 設立時取締役
- 設立時監査役
就任承諾書には、就任承諾の旨と、承諾の日付、当該取締役の氏名と住所を記入し、本人の実印を押します。
代表取締役については、一人で取締役と代表取締役を兼務する場合は作成する必要はありません。
取締役全員の印鑑証明書
上項の就任承諾書に押印された実印が正式な物であることを証明するため、各個人の印鑑証明書を添付します。
取締役会を設置している「取締役会設置会社」の場合、設立時代表取締役の印鑑証明書のみでもよいのですが、その場合はその他の取締役について本人確認書類が必要となります。
本人確認書類とは、住民票記載事項証明書(住民票の写し)や運転免許証のコピー(両面のコピーと、本人による「原本と相違ない」旨の記載と記名が必要)、マイナンバーカード表面のコピーなどです。
資本金の払い込みを証する書類
資本金の払い込みを証する書類とは、文字どおり「資金の払い込みがあったことを証明する」という旨を会社が証明する書面です。
決まった様式はないので、A4サイズの用紙に「証明書」「払込証明書」などと表題を付け、金額を記入し、証明する年月日と証明する人の署名(会社名と代表取締役の氏名)を記入します。
さらに、払い込みの事実が確認できるよう、通帳の表紙と裏表紙、該当の入金がわかる記帳ページ、口座番号や名義人の記載が表紙になければ表紙裏など該当のページをコピーします。
入金欄のページは、取引が複数記載されている場合には該当部分に赤字マーカーを引くなどして明確にしておきましょう。
印鑑届書
個人の印鑑登録のように、会社の実印を公的なものとして届け出るための書類が印鑑届書です。
個人の場合は市町村役場で印鑑登録をしますが、法人の場合は法務局で行います。書面での登記申請には、印鑑届書もあわせて提出する必要があります。
印鑑届書|法務省公式サイト記載の様式(PDF)
※法務局による記入例はこちら
あわせて読みたい
設立登記に必要なすべての書類を揃えたら、印鑑届書以外の書類を、紹介した順に上からまとめ、左側をホチキス止めにします。印鑑届書は別にして提出しましょう。
設立登記後に必要となる手続きと書類
登記を行い、公的に会社としての存在を認められたら、次は会社に課されている義務を果たす必要があります。
会社設立後に行う必要があるのは、大まかに分けて次の4つです。
それぞれ見ていきましょう。
事務所地(納税地)を管轄する税務署への届出
会社を設立したら、事業で得た所得について法人税(国税)を納める義務が発生します。その手続きのため、税務署に次のような書類を提出します。
ただし、法人設立届出書以外のものについては、必要でない場合もあります。それぞれ説明します。
法人設立届出書と定款の写し
法人設立届出書には、決まった様式があります。ダウンロードして作成します(ダウンロード先は下記リンク)。
記載事項は、住所や代表者名、事業の目的や事業の開始日など。定款や登記事項証明書を見ながら書けば難しいものではありません。
2部作成・提出をし、1部は受領印を押したものを返却してもらい、控えとします。
添付書類として、定款の写しは必ず用意します。以前は登記簿謄本や設立時貸借対照表も添付する必要がありましたが、国税に関しては、現在は不要となっています。
提出の期限は、設立登記の日から2カ月以内です。
[手続名]内国普通法人等の設立の届出|国税庁公式サイト
※法人設立届出書の様式ダウンロードリンクあり
青色申告の承認申請書
法人税の確定申告を青色申告にて行うには、青色申告の承認を受けなければなりません。その際に提出するのがこの「青色申告の承認申請書」です。
青色申告にすることで、税制面での優遇があります。設立日から3カ月もしくは最初の事業年度終了日のいずれか早い日の前日までが提出の期限です。
[手続名]青色申告書の承認の申請|国税庁公式サイト
※青色申告の承認申請書様式のダウンロードリンクあり
給与支払事務所等の開設届出書
従業員を雇い、給料を支払う場合には、源泉徴収(いわゆる天引き)を行う必要があります。そのため、この届出書も提出する必要があります。設立の1カ月以内に提出します。
[手続名]給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出|国税庁公式サイト
※給与支払事務所等の開設届出書の様式ダウンロードリンクあり
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉所得税とは、会社が支払う報酬や給与などから所得税分の金額を徴収し、本人に代わって納める税金です。これは、原則として会社が源泉徴収した日の翌月10日までに納付すべきとされています。
ただし、給与の支給対象者が10人未満の場合には、その納付を毎月でなく年2回(7月と翌年1月)にまとめて納付できる特例があります。その特例を受けるには、この申請書の提出が必須です。締切は儲けられていませんが、提出した翌月の支払い分から特例が適用されるため、1回目の給与の支払い前に提出しておくとよいでしょう。
[手続名]源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請|国税庁公式サイト
※様式のダウンロードリンクあり
棚卸資産の評価方法の届出書
決算書類を作成する際の棚卸資産(いわゆる在庫)の評価方法を選びたい場合に必要となるのが、この届出書です。
棚卸資産の評価には大きく分けて「原価法」と「低価法」があり、原価法にはさらに「個別法」や「総平均法」、「移動平均法」など6つの種類があります。事業内容などを考慮して、自社に合ったものを選択する必要があります。
届出をしなければ、最終仕入原価法で算出した取得価額に基づく原価法が採用されます。事務処理が簡単な方法ではありますが、評価が期末までできない、価格の変動が大きいものは実際の支払額との相違が生じるなどのデメリットもあります。
届出の期限は、設立第一期の確定申告期限と同じです。
[手続名]所得税の棚卸資産の評価方法の届出手続
※「所得税の棚卸資産の評価方法」「減価償却資産の償却方法の届出書」様式ダウンロードリンクあり
減価償却資産の償却方法の届出書
減価償却資産の償却方法を定額法以外にしたい場合には、この届出書の提出が必要です。減価償却の方法には、毎年同じ額を償却する「定額法」と、金額が徐々に減る「定率法」の2つがあります。
届出をしなければ、法的償却方法である定額法が採用されます。
これは上記棚卸資産の届出書と同じ様式なので、両方を届け出る場合でも1枚で事足ります(様式は上記リンクから)。
注意:個人事業からの会社設立は個人の廃業届も必須
個人事業主が会社を設立して法人化した場合には、税務署に対して個人事業の廃業届を提出する必要があります。
個人と法人とは別個のものであり、自動的に切り替えられたりはしないので注意してください。廃業届の期限は1カ月以内です。
[手続名]個人事業の廃業届出等手続|国税庁公式サイト
※廃業届の様式ダウンロードリンクあり(開業届と同じ様式)
都道府県税事務所・市区町村役場への届出
会社を設立した旨は、税務署だけでなく都道府県税事務所や市区町村役場にも届け出る必要があります。この届出に関しては、書類の様式や提出期限が自治体によって異なります。都道府県税事務所に書類を出せば、市区町村での手続きは不要なところもあります。
提出期限は、東京都では設立から15日以内、その他1カ月以内や2カ月以内などさまざまです。必ず自社の納税地の正確な情報を自治体公式サイトなどで確認してください。
必要とされるのは、次のような書類です。
- 法人設立届出書
- 設立の登記事項証明書(履歴事項全部証明書)の写し
- 定款の写し
法人設立届出書の名称は、自治体により「法人等の設立等報告書」「法人設立届・法人の事務所等の設置届」などのように異なっています。自治体の公式サイトから、様式をダウンロードして作成します。
社会保険に関する必要書類
社会保険とは、健康保険と厚生年金保険の総称です。会社を設立したら、協会けんぽなどの健康保険と厚生年金保険に加入する義務が発生します。手続きは一本化されているので、年金事務所にて両方を同時に行えます。
必要となるのは、次のような書類です。
- 健康保険・厚生年金保険新規適用届
- 会社の登記簿謄本(登記事項証明書)
- 健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届
(役員・従業員に関わらず対象となる人全員分) - 健康保険被扶養者届
(被保険者となる人に扶養家族がいる場合) - 戸籍謄本または住民票※
(被扶養者届を提出する場合)
※印は扶養家族の続柄確認のため必要とされていますが、次の両方を満たす場合には提出しなくてもよいことになっています。
- 被保険者と被扶養者の両方のマイナンバーを記入する
- 事業主が戸籍謄本か住民票を確認し、届出書の該当欄にチェックする
個人事業所については常時5人以上の従業員がいる場合のみ社会保険の加入対象となりますが、法人は事業主1人だけでも加入が必須です。
手続きは、設立日から5日以内に行う必要があります。窓口への持参のほか、郵送やオンラインでも可能です。
労働保険に関する必要書類
従業員を1人でも雇う場合には、労災保険への加入が必須です。労災保険は、従業員が勤務中または通勤中に病気やケガを負った場合に備える保険です。正社員でもパートやアルバイトなどでも同様に加入させなくてはなりません。保険料は雇用主が全額を負担します。
また、週20時間以上働く従業員を雇用する場合は、雇用保険への加入も義務づけられています。雇用保険の保険料は、雇用主と従業員とで折半します。
加入手続きは、労働基準監督署かハローワークで行います。
労働保険の加入に必要な書類
労働保険への加入手続きには、次のような書類が必要です。
- 労働保険保険関係成立届
- 労働保険概算保険料申告書
- 会社の登記簿謄本
- 従業員名簿
- 賃金台帳
- 出勤簿
設立と同時に従業員を1人でも雇う場合は、労働保険の保険関係成立届とともに、その年度分の労働保険料を概算保険料として申告・納付しなくてはなりません。概算保険料は、年度末までに払う賃金の総額(見込み額)に保険料率をかけて計算します。保険料率は、事業の種類や年度により異なります。
保険関係成立届と概算保険料申告書については、様式は労働基準監督署に出向いて受け取る必要があります。
労働保険の届出をした後、受理印が押された事業主用の控えを受け取ります。それに次の書類を添えて、雇用保険の手続きを行う流れです。
雇用保険の加入に必要な書類
- 雇用保険適用事業所設置届
- 雇用保険被保険者資格取得届
「雇用保険適用事業所設置届」は、会社が雇用保険の適用条件を満たし、保険の適用事業所となったことを届け出るものです。
雇用保険適用事業所設置届|ハローワークインターネットサービス
「雇用保険被保険者資格取得届」は、従業員が雇用保険の対象となった場合に、ひとりひとりに対し加入の手続きをする書類です。
雇用保険被保険者資格取得届|ハローワークインターネットサービス
労働保険に未加入の場合、発覚した時点から遡って過去の分も保険料を支払い、追徴金が課されることとなります。雇用調整助成金など、雇用関連の助成金も受けられなくなるので必ず手続きをしましょう。
会社設立に必要な書類についての注意点
最後に、会社設立の手続きで提出する書類について、注意点を見ておきましょう。間違えたり不備があったりすると二度手間になってしまいます。
添付書類は「原本」が原則
申請に必要となる添付書類は、写しなどとされていないものは原本を提出するのが原則です。ただし、会社に保管する必要ガあるものがあれば、原本を提出した後に返してもらうこともできます。
その場合は、原本が手元に必要な書面をコピーし、そのコピーに「原本に相違ありません」と記入した上で、原本とコピーの両方を提出します。
原本の返却を郵送で希望する場合には、返信用の封筒と切手も用意してください。
登録免許税の収入印紙には割印をしない
一般的に収入印紙が必要となる場面では、再利用されるのを防ぐため、収入印紙を貼付してから割印や署名をする必要があります。定款認証の際には、収入印紙に割印をします。
しかし、会社設立の登録免許税の納付については、割印はしないようにしてください。割印は、法務局で納付の事実を確認した後にされる決まりとなっています。申請者が割印をすると、その印紙は無効となってしまいます。
申請に代理人を立てる時には委任状が必要
会社設立登記の申請は、代表取締役などが自分で行うのが原則です。しかし、何らかの事情で本人による申請ができない場合には、代理人を立てることもできます。
代理人が申請する場合には、申請書の申請者を書く欄に代理人の住所・氏名も記入し、印鑑を押します。また、委任状も別途用意してください。
ちなみに、会社設立登記を第三者に委託する場合、有料で依頼を受けることができるのは弁護士あるいは司法書士のみです。
登記申請書が2枚以上になるなら「契印」を
収入印紙貼付用の台紙も含め、申請書が2枚以上にわたる場合には、まとめてホチキス止めにしたあと、ページがまたがる部分に印鑑を押します。これを契印と呼びます。
契印は登記申請書に押印したもの(法人の実印あるいは代理人の印鑑)と同じでなくてはなりません。
訂正する方法にも注意する
文字を間違えて記入してしまった場合、改めて書き直さずに訂正して提出することも可能です。
しかしその場合、訂正のために修正液やペンなどで元の字を塗りつぶし、見えないようにするのはNGです。正式とされる方法で修正しなくてはなりません。
一般的な方法は、間違えた箇所を二重線で消し、申請書に使った印鑑を押して、その近くに正しい文字を記入するという方法。「〇字削除 〇字加入」などと書いてもよいでしょう。
会社設立の必要書類は事前準備から万全に
会社を設立するには、定款の作成から税金、保険に関するものまで、窓口の異なる複数の手続きが必要です。それぞれに異なる申請書や添付書類が必要なので、1つ1つ確実に用意していきましょう。
中には事業内容や自社の状況によって要不要が異なる書類などもあるので、不明なことがあれば専門家に相談してみるのが得策です。
当サイトを運営するBricks&UKは、税理士や司法書士、社会保険労務士といった専門家を揃えた総合事務所です。会社設立を安くできるキャンペーンなども行っていますので、ぜひお気軽にご相談ください。