創業・起業・開業時に資金が不足する際に受ける創業融資ですが、公庫などの政府系金融機関であっても融資をおこなう以上、審査があります。
そしてその審査には、基準となるポイントが4つあります。
- 自己資金
- 経験・能力
- 返済の可能性
- 資金の使いみち
この記事では、1つ目の自己資金について掘り下げて説明します。
自己資金とは
自己資金とは、文字通り自分で用意する(用意した)資金のことです。
返済不要な資金ともいえるでしょう。
夢をかなえるために学生時代にアルバイトなどをして貯めた資金、創業までに勤務収入の中からコツコツと貯めた資金、副業で得た資金をとっておいたもの等が代表的なものです。
そのようなお金のうち、今回の創業計画において使うことができるものを「自己資金」と考えることになります。
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目次
自己資金が審査基準のポイントとなる理由
ではその自己資金が審査基準のポイントになるのはなぜでしょう。
理由ごとに解説していきます。
自己資金割合
創業の際の資金計画全体における自己資金の割合は、創業融資の審査においてとても大きな意味を持ちます。
最大のポイントといっても過言ではありません。
自己資金の割合が多ければ多いほど、借入などの返済が必要な形で調達しなければならない資金の割合が小さくて済みます。
借入の額が小さければ当然、創業後の月間支出の中でその返済のための返済に充てなければならない金額も少なくなり、資金繰りが楽になります。
そのようなわけで、自己資金割合は創業資金における融資審査の重要な基準として扱われます。
ここで重視されるのはあくまで「自己資金割合」であって、「自己資金総額」ではありません。
例えば必要資金が1000万円の創業計画において自己資金が300万円準備できている場合は、ある程度評価されます。
一方、4000万円の創業計画において自己資金が300万円に過ぎないと、融資担当者としては不安を感じるレベルとなります。
計画に見合った自己資金をどれだけ準備できるかが、大きなポイントとなってきます。
自己資金蓄積経緯
自己資金がどのように蓄積されてきたか、自己資金蓄積経緯も創業融資における重要な審査基準です。
創業・起業・開業は思い付きでおこなっても、決して簡単にはうまくいきません。
綿密に計画を練り上げ、相当な準備をしても創業に失敗する事業者はごまんといます。
そのような厳しい状況の中、融資審査担当者が創業をおこなうにあたって計画的に準備してきたかどうかが一番読み取れるものが、自己資金蓄積経緯です。
創業しようとする業界に属する企業での勤務経験、ノウハウ・業務知識の蓄積も、創業融資における重要な審査基準です。
しかし創業時や創業後の事業が軌道に乗るかにおいて、とても重要な自己資金をどのように貯めてきたのかに表れる「創業者の計画性や自己管理能力、創業への意気込み」も全社に劣らずとても重要な審査基準です。
自己資金の審査基準で失敗しないためには
次に、これまで解説してきたような自己資金の審査基準で失敗しないようにするにはどのようなことに気をつけ、どのようにすればいいのでしょうか。
少しでも多くの自己資金を蓄積する
まず何といってもこれが最も単純で簡単な対策であり、現在蓄積中であれば、少しでもその額を増やすことです。
現在において創業しなければならない理由が乏しい場合、創業時期を後送りにしてその間の自己資金蓄積の上積みを図る手もあるでしょう。
今創業しなければならない理由が明確でない場合によくあるパターンとして、自己資金の蓄積が進んでいないだけでなく、ノウハウの蓄積や業界知識も十分持っていないなど、多方面にわたり準備不足であることが多くなっています。
自己資金の蓄積を少しでも積み増す間に、創業計画を更に練り上げることも可能になるでしょう。
自己資金不足を補う
自己資金の蓄積が不足していても、今創業することで先行者利益が見込める時もあります。
そのような場合には、少しでも自己資金の不足を補うことができないかを考えます。
主だった方法を解説します。
1.親や兄弟、親戚縁者からの贈与を受ける
しっかりと贈与契約を結び、お金の出入りが証明でき(親等の口座から本人の口座に振り込まれていることが通帳で分かる等)、贈与する側に不自然な点がない(贈与する側に不動産などの資産の裏打ちがない等)といった条件を満たせば、自己資金として認められる余地があります。
2.すでに支出したものについて
資金の出所と取引内容(いつ、どこで、なにを、どれくらい)を客観的に示すことができれば、自己資金として認められます。
ただしあまり日数が経過したものは、今回の創業計画の一部とみなせなくなるので注意しましょう。
3.出資の受け入れ
知人や第三者から返済の必要のない出資金を受け入れる方法です。一番スッキリするのは出資を受け株式等を交付する形です。
個人であっても、なぜ出資してくれるのかが明確で、金額もハッキリしていて経緯も明確であれば、自己資金に準ずるものとして検討できなくはありません。
ただし、この場合出資してくれる相手は事業に理解のある協力者でなければなりません。
出資を受けたといっても、創業融資を受けた後にすぐ出資を引き揚げられては一時的に借りたと区別がつかないからです。
あくまで事業協力者からの出資でないと、自己資金とみなせなくなる可能性がある点に注意して下さい。
また、あまり多額の出資を受けると、事業開始後の業務運営において出資者が業務運営に口をはさみ、意思決定がスムーズにいかなくなる可能性がある点にも注意が必要です。
4.退職金、保険満期金
事業開始までにもらえる金額が明確であれば、自己資金としてみなすことができます。
客観的に説明できるように、資料を揃えましょう。
5.現物出資
自動車などそれまで自家用として利用していたものを事業用に転用する場合、その後の事業用使用割合に応じ資産として(自己資金で取得したものとして)認めることが可能です。
事業開始後も自家用にのみ使用しないのであれば、事業に出資したものとはみなせないので注意が必要です。
資産計上、減価償却費の算定など高度な専門知識が必要な部分もありますので、税理士などの専門家に相談する方が無難です。
計画をコンパクトにする
自己資金自体はこれ以上どうにもならない場合、自己資金割合を算出する分母(資金計画全体)を小さくすることで自己資金割合を高くすることができます。
【例:自己資金300万円、当初資金計画2000万円の場合】
自己資金割合は300/2000で15%、特段高いとはいえず、やや低い印象です。
一方資金計画を1200万円に圧縮すると、自己資金割合は300/1200で25%と、かなり印象が変わります。
事務所家賃を抑える、什器等リースで済ませるものはリースする等、まず必要最小限の従業員で開始するといった具体案が挙げられます。
自己資金の蓄積状況に応じた、現実的な資金計画を立てることは、融資審査担当者からの印象を良くします。
現実的なステップを踏んできたことは、これからの円滑な事業運営の期待につながるからです。
自己資金が足らないときは、計画全体を見直すことも視野にすすめましょう。
客観的に認められる資料を揃える
過去どれほど苦労してお金を貯めてきたとしても、第三者である金融機関が客観的に認められる資料がなければ自己資金としてみられません。
金融機関は申込人の親族ではありません。
いくら口頭で熱っぽく語られても第三者である以上、客観的資料がなければ認められないのは当然のことといえます。
申込む側としては、少しでも客観的な資料を見せることができるように前もって心掛けるしかありません。
給与収入からの貯えであれば特定の口座に毎月一回入金したり、積立預金に自動積み立てをしたりすることで客観的に把握できる資料となります。
資産の売却にともなう入金などは、その資産にかかる売買契約書があれば客観的にも説明がつきます。
自己資金を蓄積することはもちろん大事ですが、その自己資金がどうみられるかにも注意し、客観的な資料をできるだけ揃えることが大事です。
見せ金は絶対しない
自己資金を審査基準に置くにあたり最もしてはならないことがあります。
それは「見せ金」です。
「見せ金」とは、一時的に人から借りたお金を自己資金に見せかけることです。
一時的に通帳に入れておいて、適当に言い訳を考えておけば大丈夫と思っている方がおられるかもしれません。
創業融資の審査において、担当者は常にこの点に留意するよう教育・指導を受けています。
最重要ポイントと考えているといっても過言ではありません。
詳しい記述は避けますが、ある政府系金融機関では全国で起きた事例をこと細やかに分析し、特徴や手口を全国の支店で共有し勉強会などをおこなって共有しています。
ある支店で判明した事例は、瞬く間に全国の支店で共有される仕組みとなっています。
見せ金が判明した時のデメリットは、単に自己資金を見直す程度にとどまりません。
そもそも「融資」は相互の信頼関係が前提となっておこなうものです。
相手をだまそうという意志が感じられれば、信頼関係を維持できなくなると考えて当然です。
見せ金は命取りになります、行わない方が無難です。
まとめ
いかがでしたでしょうか。
創業融資において、自己資金は審査基準の中でもとりわけ重要です。
このポイントを押さえることで、創業融資を受けることができる確率がグンと上がります。
自分で創業計画を立てることに自信がなければ、事業の専門家である税理士事務所などに相談するといいでしょう。
その他3つのポイントはこちらの記事で解説
創業融資の審査に通るために押さえておきたいポイント、その他の3つはこれです。
- 経験・能力
- 返済の可能性
- 資金の使いみち
それぞれについて解説していますので、ぜひ目を通しておいてください。