事業をスタートする際に悩むことはたくさんありますが、特に大きいのは「創業融資を受けるべきかどうか」「個人で起業するか会社を立ち上げるか」といった問題ではないでしょうか。
融資を受けるとすれば、いつの時点で融資を申し込むのか、そのタイミングにも迷うところです。
この記事では、融資を法人化する前または後に受けるそれぞれのメリット・デメリットを解説します。創業融資と法人化それぞれの手続きや流れについてもおさらいするので参考にしてください。
目次
創業融資の後に法人成りするメリット・デメリット
メリット・過度な負担なく法人化でき、資金繰りにゆとりができる
法人であっても個人事業主であっても、創業前あるいは創業直後は「実績」がまだ見えていない状況です。
融資担当期間が審査するのはあくまでも「事業の可能性」「経営者の信用」です。
その意味では、無理してまで法人化を急ぎ、余計なコストを発生させる必要はありません。
もし、法人化した事業者が創業融資に有利なのだとしたら、それは自己資金の確保や申告決算書の透明性(法人申告は青色申告よりより専門的になる)などの理由によるものです。
審査担当者を納得させるに足る、利益が確保できる可能性、そして事業の有望さを説明することができれば、法人・個人に関わりなく創業融資の審査に通過する可能性は十分にあります。
創業融資を受けてから事業実績を積んでいけば、また別制度による融資を申し込んだときにも、審査をクリアする勝算が高くなることでしょう。
デメリット・創業融資の審査が法人に比べて通りにくい可能性がある
創業年度の利益が、法人税を払うにも見合わない金額なのに(所得税額が800万を超えたところで法人税が下回る)、法人化を急ぐ事業者が存在します。
その理由のひとつが先に述べた「法人化すると創業融資が通りやすい」というものです。
法人化することで決算申告がより専門的となり、かつ事業継続が見込まれることによって、審査条件をクリアする根拠となりうる可能性は確かにあります。
しかし、創業前から直後の事業は、個人法人関係なく将来性が見られない場合は審査を通ることは難しいのは同じです。
いずれは法人化したいし、そのための準備も行っていることをアピールすることで、審査担当者の心証はよくなることが期待できます。
創業融資の前に法人成りするメリット・デメリット
まず会社を設立してから創業融資を受けようとする場合、
メリット・審査が通りやすく、創業時の運転資金が確保しやすい
法人としての登記手続きがすでに完了している、もしくはほぼ法人設立のめどが立っている事業者は、融資審査が通りやすくなります。
すでに資本金を計上しているため、自己資金が確保されていることや、ビジネスを継続する意思表示が、審査担当者に好感を与えるところが大きいからです。
売上が上がらない時期が続くことが予想される開業時には、「資金繰りを乗り越えられるか」という大きな不安が経営者を襲います。
この資金繰りの苦労は経営者に避けられないものですが、起業間もない事業者に与えるストレスは相当なものです。
実際、資金繰りに失敗したため、起業後わずか1年で廃業する事業者は多数います。
(創業後のどれだけの企業が生き残るか?という調査結果によると5年後には15.0%、10年後は6.3%。20年後は0.3%にも満たないといわれています)
創業融資によって、起業時の一大難問が緩和されることは、起業家にとって大きなメリットとなります。
デメリット・設立費用がかかるため、売り上げを上回れば赤字経営リスク
起業時に、想定顧客が既に存在する事業者の場合、利益の状況や取引先の信用度アップなどを鑑みて、創業と同時に法人化することは、メリットの多い選択であるといえます。
役員報酬は、損金算入が認められるので(一定条件あり)節税対策になりますし、先に述べたように創業融資審査が通過できる可能性も高くなります。
しかし、創業時の売り上げ発生の可能性が低い場合は、法人税や従業員の社会保険料などのコストがかかる法人成りという選択肢は、リスクがあると言わざるを得ません。
創業融資を受けられたとしても、資金繰りの目途が立たなくては返済プランが成り立たないからです。
創業融資の前に法人成りを実行するならば、創業後の売り上げ確保の目途が立つことが前提となります。
創業融資の種類と必要書類、手続きの流れ
「創業融資」とは、創業前もしくは創業して一期分の確定申告をした事業者が対象となる融資制度をいいます。「創業融資」という特定の融資制度があるわけではありません。
創業融資の主な種類
国内で起業時に使える融資制度には、主に次の2つがあります。
- 日本政策金融公庫の新創業融資制度
- 自治体の制度融資
日本政策金融公庫は、国が出資する金融機関です。預金などは受け付けず、小中規模の企業や個人に対する貸し付けを行っています。
日本政策金融公庫には、対象者が「女性」「35歳未満」「55歳以上」の場合、「女性、若者/シニア起業家支援資金」という制度もあります。ただ、どの融資制度が対象となるかは借りる側でなく公庫側が決めます。
自治体による制度融資とは、各地の自治体が金融機関と信用保証協会と連携して行う融資のことです。自治体によって制度の内容には差があります。
このほかにも、一般的な銀行での融資やクラウドファンディングなどの資金調達方法もありますが、ハードルの高さを考えると現実的なのはこの2つと言えるでしょう。
創業融資に必要な手続き
融資を受けるには、まず融資の申し込みをします。そのうえで、金融機関による審査に通らなくてはなりません。借主に返済能力があり、貸したお金を回収できるかどうかが審査の大きなポイントです。
審査には、「創業計画書(事業計画書)」などの書類の提出が求められます。創業計画書とは、事業を始める目的や事業内容、売り上げ見込みや必要な資金額などをまとめたものです。
また、書類審査だけでなく融資担当者との面談があり、借りる側は一人で融資担当者からの質問などを受けます。また、店舗や工場などの現地確認も行われます。
創業融資の申込に必要となる書類一覧
融資を申し込むためにはどのような書類が必要となるのか、ここでざっと見ておきましょう。
融資申請の必要書類:日本政策金融公庫の場合
融資を申し込むには、次のような書類を用意する必要があります。
- 創業計画書
- 設備資金の見積書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保の設定を希望する場合)
- 都道府県知事の「推せん書」または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」(クリーニング業など)
その他、状況によって別の書類が必要とされる場合もあります。
融資可能かどうかが決まるまでには、1カ月前後かかるのが一般的です。
融資申請の必要書類:自治体制度融資の場合
制度融資で用意すべき書類は自治体によって異なりますが、基本的には次のような書類が求められます。
- 信用保証委託申込書
- 信用保証委託計画書創業計画書
- 印鑑証明書
- 個人情報の取り扱いに関する同意書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保の設定を希望する場合)
制度融資の場合、融資審査結果の通知は面談後およそ1~2カ月後が目安となります。3者が関わるため、やや時間がかかります。
起業と会社設立(法人化)の流れ
起業には、個人事業主となる方法と、会社を立ち上げて法人となる方法の2つがあります。最初からどちらかに決めるのではなく、個人事業主として始め、事業が軌道に乗るなどしてから法人化するのも一般的です。
個人事業主で始める場合は「開業届」のみ
個人事業主として起業する場合の手続きは、とても簡単です。
基本的には、開業したら1カ月以内に管轄税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出するというだけで手続きは終わりです。
確定申告を青色申告で行う場合には、青色申告を予定している年の3月15日までに「所得税の青色申告承認申請書」と現金主義の所得計算による旨の届出書」をあわせて提出します。
審査や面談などはなく、ほとんどのケースはそのまま受理されます。
会社設立(法人化)に必要な手続きは多い
会社を作るには、まず「定款」を作成するところから始まり、設立の登記、設立届の提出など複数の手続きが必要です。
具体的には次のような流れです。株式会社の例を紹介します。
- 定款を作成する
- 定款を公証人に認証してもらう
- 法務局に登記申請をする
- 税務署や自治体に会社設立届を提出する
定款とは、会社の基本的な情報やルールを明文化したものです。法律で、記載すべき事項などが定められています。
株式会社の設立には、作成した定款を公証人に認証してもらわなければなりません。それには公証役場での手続きが必要で、手数料や印紙代などがかかります。
会社設立の手続きが終わったら、社会保険の手続きも必要です。従業員を雇用する場合にはさらに、労働保険への加入や従業員1人ひとりの社会保険加入手続きなど、しなくてはならないことが増えます。
また、個人とは別に用意しておきたい法人の銀行口座の開設や、手続きや各種契約の締結などを行う際に使う印鑑の作成もしておかなくてはなりません。
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創業融資と法人設立のタイミングは慎重に
同時に創業融資実行と法人化を行うケースにおいて、実行タイミングパターン別のメリットデメリットをまとめました。
「まだまだ準備を始めたばかり」
「具体的な手続きに入る前の段階」
という方も、創業融資や法人化に必要な手続きや進行スケジュールを知っておくことで、今後の事業プランニングをより具体的にイメージできるようになります。
ここで、先に説明した法人化と創業融資のタイミングについて、もう一度まとめておきます。
- 個人事業主に比べて法人化手続きは複雑
- 創業融資と法人化のタイミングは必ずしも合わせる必要はない
このふたつを念頭に置き、自身の事業プランと照らし合わせて、最適なタイミングで実行することが肝要です。
まとめ
一昔前の情報入手が難しかった時代には、起業を決心した、あるいは創業したばかりの時期に、パーフェクトな融資や経営の知識を備えていたという経営者は少数派でした。
しかし、現在はインターネットを利用したり、支援窓口のサポートを受けたり、さまざまな知識を事前にリサーチすることが可能な時代です。
後悔することのないように充分な情報収集、そして検証を重ねておくことが重要です。
できる限りの万全な準備をしたという安心感&満足感は、起業した後にも大きな支えとなってくれることでしょう。