
「創業融資×法人設立」を行う最良のタイミング
事業をスタートするときのプラニングは、起業家により千差万別です。
その中でも、
- 創業融資審査を受けるか否か
- 法人化(法人成り)するタイミング
などは、創業時の大きな懸案ではないでしょうか。
それぞれの事業者の状況によって選択肢は分かれます。
とはいえ、具体的に何をしていいかわからず、決められないという創業予定者の方も少なくないでしょう。
「とりあえずお試しでネットショップを始めてみる」
「自宅オフィスでおひとり様起業」
という、スモールビジネスからスタートするという方も、最近では決して珍しくありません。
しかし、実際に創業融資や法人化に必要な工程、想定されるスケジュールを知っておくことでイメージがつかめ、自分の事業にとって、適する選択肢を見極めることができるようになります。
この記事では
- 創業融資と法人化に必要な手続き
- 創業融資と法人化のスケジュール
- 「創業融資×法人設立」を行う場合の最良のタイミング
などについて、メリット及びデメリットを含めて解説いたします。
融資制度を利用した事業拡大、法人化する目標を持つ、など事業の可能性を広げる参考になれば幸いです。
創業融資申請~審査完了までの流れ
2種類に大別される創業融資
国内の起業家が申請可能な創業融資制度は、運営する機関によってふたつに大別されます。
- 日本政策金融公庫の新創業融資制度
- 自治体制度融資(金融機関+信用保証協会と三位一体の制度。自治体によって制度内容に差がある)
創業融資に必要な手続きとは?条件はある?
創業前、もしくは創業後に一基申告した事業者が対象となっています。
どちらの融資制度も「創業計画書」を作成・提出し、面談含めた審査が実施されます。
新創業融資制度の場合は「女性」「35歳未満」「55歳以上」の条件に当てはまる場合、特別枠である「女性、若者/シニア起業家支援資金」があります。
同様の制度が自治体制度融資にあるかは、お住まいもしくは事業を行うエリアによって変わってきます。
該当する方自治体窓口で確認してみることをおすすめします。
創業融資の審査結果はいつ決まる?
融資審査結果の通知は、面談後おおよそ1~2月後が目安となります。
融資申請~審査完了までのスケジュール「日本政策金融公庫の場合」
用意する書類は下記の通りです。
- 創業計画書
- 設備資金見積書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保設定希望の場合)
- 都道府県知事の「推せん書」または、生活衛生同業組合の「振興事業に係る資金証明書」(クリーニングほか審査)
融資実行か否かの返答は、1か月前後とされています。
融資申請~審査完了までのスケジュール「自治体制度融資の場合」
用意する書類は自治体によって違いがありますが、基本的には下記書類の提出が求められます。
- 信用保証委託申込書
- 信用保証委託計画書創業計画書
- 印鑑証明書
- 個人情報の取り扱いに関する同意書
- 履歴事項全部証明書または登記簿謄本(法人の場合)
- 不動産の登記簿謄本または登記事項証明書(担保設定希望の場合)
法人設立手続きスタートから設立までの流れ
個人事業主で始める場合は「開業届」のみ
法人化する場合と比較すると、個人事業主として起業する場合の手続きは、非常にシンプルです。
基本的には、開業から一月以内に管轄税務署に「開業届(個人事業の開業・廃業等届出書)」を提出するのみです。
青色申告を行う場合は、青色申告を予定している年の3月15日までに青色申告承認のための用紙(「所得税の青色申告承認申請書、現金主義の所得計算による旨の届出書」)をあわせて提出します。
提出後の審査プロセスにおいては面談などはなく、そのまま受理されることがほとんどです。
ただし、2016年から申告にはマイナンバーの記入が義務付けられることになりました。
マイナンバー通知カードは、2020年5月25日をもって廃止されています。
もしまだ未手続の場合は、遅くとも申告までには必ず実施する必要があります。
こんなにある!法人化に必要な手続き
法人化の手続きは、定款作成から会社登記、税務署への設立届まで多岐にわたります。
規模にかかわらず、必要な手続きは下記の通りです。
- 公証役場へ定款認証申請
- 法務局へ登記申請
- 税務署へ会社設立届の提出
そのほか、従業員を雇用する場合には、年金事務所や労働基準監督署での手続きも必要です。
また、さまざまな手続きを行う前に法人口座の開設や、手続き書類に押印する法人印鑑の作成、定款にかならず記載しなければならない会社商号(会社名)や役員報酬、資本金額の決定など多くの準備が必要となります。
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法人化の基本スケジュール
登記前:公証役場へ定款認証を申請します
登記時:法務局へ代表印と会社設立登記申請を提出します
登記後:関係機関へ会社設立届を提出します
- 税務署
- 年金事務所
- 労働基準監督署
- ハローワーク
- 健康保険組合
さらに税務署へ「法人設立届出書」「源泉所得税関係の届出書」「消費税関係の届出書」「青色申告の承認申請書」の提出が必要です。
創業融資の前に法人成りするメリット・デメリット
メリット・審査が通りやすく、創業時の運転資金が確保しやすい
法人としての登記手続きがすでに完了している、もしくはほぼ法人設立のめどが立っている事業者は、融資審査が通りやすくなります。
すでに資本金を計上しているため、自己資金が確保されていることや、ビジネスを継続する意思表示が、審査担当者に好感を与えるところが大きいからです。
売上が上がらない時期が続くことが予想される開業時には、「資金繰りを乗り越えられるか」という大きな不安が経営者を襲います。
この資金繰りの苦労は経営者に避けられないものですが、起業間もない事業者に与えるストレスは相当なものです。
実際、資金繰りに失敗したため、起業後わずか1年で廃業する事業者は多数います。
(創業後のどれだけの企業が生き残るか?という調査結果によると5年後には15.0%、10年後は6.3%。20年後は0.3%にも満たないといわれています)
創業融資によって、起業時の一大難問が緩和されることは、起業家にとって大きなメリットとなります。
デメリット・設立費用がかかるため、売り上げを上回れば赤字経営リスク
起業時に、想定顧客が既に存在する事業者の場合、利益の状況や取引先の信用度アップなどを鑑みて、創業と同時に法人化することは、メリットの多い選択であるといえます。
役員報酬は、損金算入が認められるので(一定条件あり)節税対策になりますし、先に述べたように創業融資審査が通過できる可能性も高くなります。
しかし、創業時の売り上げ発生の可能性が低い場合は、法人税や従業員の社会保険料などのコストがかかる法人成りという選択肢は、リスクがあると言わざるを得ません。
創業融資を受けられたとしても、資金繰りの目途が立たなくては返済プランが成り立たないからです。
創業融資の前に法人成りを実行するならば、創業後の売り上げ確保の目途が立つことが前提となります。
創業融資の後に法人成りする場合のメリット・デメリット
メリット・過度な負担なく法人化でき、資金繰りにゆとりができる
法人であっても個人事業主であっても、創業前あるいは創業直後は「実績」がまだ見えていない状況です。
融資担当期間が審査するのはあくまでも「事業の可能性」「経営者の信用」です。
その意味では、無理してまで法人化を急ぎ、余計なコストを発生させる必要はありません。
もし、法人化した事業者が創業融資に有利なのだとしたら、それは自己資金の確保や申告決算書の透明性(法人申告は青色申告よりより専門的になる)などの理由によるものです。
審査担当者を納得させるに足る、利益が確保できる可能性、そして事業の有望さを説明することができれば、法人・個人に関わりなく創業融資の審査に通過する可能性は十分にあります。
創業融資を受けてから事業実績を積んでいけば、また別制度による融資を申し込んだときにも、審査をクリアする勝算が高くなることでしょう。
デメリット・創業融資の審査が法人に比べて通りにくい可能性がある
創業年度の利益が、法人税を払うにも見合わない金額なのに(所得税額が800万を超えたところで法人税が下回る)、法人化を急ぐ事業者が存在します。
その理由のひとつが先に述べた「法人化すると創業融資が通りやすい」というものです。
法人化することで決算申告がより専門的となり、かつ事業継続が見込まれることによって、審査条件をクリアする根拠となりうる可能性は確かにあります。
しかし、創業前から直後の事業は、個人法人関係なく将来性が見られない場合は審査を通ることは難しいのは同じです。
いずれは法人化したいし、そのための準備も行っていることをアピールすることで、審査担当者の心証はよくなることが期待できます。
創業融資と法人設立のタイミングは慎重に
同時に創業融資実行と法人化を行うケースにおいて、実行タイミングパターン別のメリットデメリットをまとめました。
「まだまだ準備を始めたばかり」
「具体的な手続きに入る前の段階」
という方も、創業融資や法人化に必要な手続きや進行スケジュールを知っておくことで、今後の事業プランニングをより具体的にイメージできるようになります。
ここで、先に説明した法人化と創業融資のタイミングについて、もう一度まとめておきます。
- 個人事業主に比べて法人化手続きは複雑
- 創業融資と法人化のタイミングは必ずしも合わせる必要はない
このふたつを念頭に置き、自身の事業プランと照らし合わせて、最適なタイミングで実行することが肝要です。
まとめ

一昔前の情報入手が難しかった時代には、起業を決心した、あるいは創業したばかりの時期に、パーフェクトな融資や経営の知識を備えていたという経営者は少数派でした。
しかし、現在はインターネットを利用したり、支援窓口のサポートを受けたり、さまざまな知識を事前にリサーチすることが可能な時代です。
後悔することのないように充分な情報収集、そして検証を重ねておくことが重要です。
できる限りの万全な準備をしたという安心感&満足感は、起業した後にも大きな支えとなってくれることでしょう。

