スタイリストとしての腕に自信がある人ほど、自分の美容院を開業したいと考えてきたことでしょう。
美容師には実際にヘアサロンから独立し自分の店を構える人も多く、独立開業しやすい業種の1つです。
しかし同時に競合が多い業界でもあるので、独立前に確実な準備をしておく必要があります。この記事では、独立前に必要な準備や開業までの流れなどを解説します。
ちなみに、美容室の開業は美容師免許がなくても可能ですが(施術するスタッフには必須)、この記事では美容師免許を持つ人がより活躍するべく独立するケースを想定してお伝えします。
目次
美容師が独立するきっかけ&タイミングは?
まずは美容師が独立開業を決めるきっかけやタイミングについて見ておきましょう。
美容師が独立開業を決めるきっかけ
美容師が独立を決めるきっかけには、次のようなことがあります。
- 自身の施術スキルに自信がついた
- 雇い主の経営方針などについていけなくなった
- 報酬に不満を感じた
- 結婚し、家庭を持った
- 自分の「理想の店」が具体的になった
- 理想どおりの店舗物件が見つかった
きっかけは1つとは限らず、いくつかが重なり決定打となることも。もちろん、中には当初から計画的に「33歳になったら」など決めている人もいます。
ただ、店やオーナーへの不満だけで独立するのはおすすめできません。当てつけのようにオープンしても、経営は簡単ではないからです。「店に勤めていることによる恩恵」もよく考えることをおすすめします。
美容師が独立するタイミング
美容師として独立するタイミングは、美容師としてのスタートから8年~10年、年齢にして20代後半~30歳前後が最適と言えます。
というのも、学校を出て美容師となる年齢は早くて17歳です。アシスタントを経てスタイリストとして経験を積み、マネジメントなども経験して独り立ちするには年月を要するでしょう。
しかし美容師には「40歳定年説」という言葉もあるように、40~50歳あたりで実務から離れる美容師が多いという現状もあります。自分の城ともいえる店で手腕を発揮するには、早めに準備をしておきたいものです。
美容師のように専門技術を持つ人が20代で開業した場合、7割以上が黒字基調となっているという調査結果もあります(「2015年度 新規開業実態調査から見る20歳代開業者の実態と課題」日本政策金融公庫)。
独立開業までにしておきたいこと
独立開業するなら、具体的な手続きを始める前にしておきたいことがあります。
それぞれについて説明します。
十分な実務経験を積んでおく
施術のスキルを身につけるだけでなく、実務経験が長いことで得られるものがあります。独立すれば、当然ながら自分であらゆるケースに対処しなくてはなりません。
経験年数が長いほど、さまざまなお客さんへの対応、トラブル発生時などの場面に出会うでしょう。対処法を体得することができます。また、融資を受けるにも実務経験の長さが審査に影響します。
経理・会計などの知識を学ぶ
自分の美容室を開くなら、経営にかかることすべてを自分でしなくてはなりません。収支の管理はもちろん、売上目標を立て戦略を練るなど、経営者が考えるべきことは多岐にわたります。
考えなく好きなようにやっていては、自転車操業のような状態や赤字経営となることに。納税なども正しく行えない可能性があります。
人材育成・マネジメントも経験する
独立し、忙しくなればスタッフを雇うことも考えねばなりません。経験の浅い人に教えたりスタッフを管理したりといった仕事も積極的に経験しておきましょう。
自分の仕事のやりやすさに大きく影響するのはもちろん、店内の人間関係は店の雰囲気に直結しますし、従業員が働きやすい環境にすることも経営者の責務の1つです。
管理美容師の資格を取っておく
管理美容師とは、店舗の衛生管理を図るための資格で、実務経験3年以上の美容師が講習を受けることで取得できます。常に2名以上の美容師がいる場合は、管理美容師が1人以上いなくてはなりません。
自分が持っていなければ、資格を持つスタッフを雇わなくてはなりません。人件費にも影響しますし、急に退職されたときに困るため、やはり持っておきたいものです。
ちなみにこの管理美容師については、2016年のいわゆる「事業仕分け」によって廃止が決定されています。
しかし、管理美容師の設置は美容師法に定められており、法改正がされないためそのままになっています。
番外編:顧客は連れて行けるのか?
勤めている店に指名客がいる場合、そのお客さんにあらかじめ独立を知らせ、オープンしたら自分の店の方に来てもらいたいと思いますよね。
しかし多くの場合、独立時に顧客を持っていくことはオーナーから禁じられるのが現実。DMを出すなどの行為もしないよう言われる可能性が高いです。
DMなど黙って送ればいい、と言うのは危険な考え。顧客の口からもれれば損害賠償請求や刑事告訴をされる危険性があります。美容師は講習会などで互いに顔を合わせることもあるため、トラブルは避けるのが得策です。
美容室の現状―厚労省による調査結果より
現在すでに営業している店舗はどういった状況なのか、統計を見てみましょう。
まずは店舗数についての統計です。「令和3年度 衛生行政報告例の概況」によると、令和3年度末現在の美容所数は、全国で264,223施設。減少傾向にある理容所とは反対に、年々増加傾向にあります。
次に、厚生労働省の公式サイトより、美容業についての統計情報を抜粋してお伝えします。ただしデータは平成17年とやや古く、調査対象施設数も530施設となっています。あくまで参考程度にしてください。
美容業の経営主体
調査対象となった530施設のうち、個人経営が67.7%と最も多いという結果が出ています。次いで有限会社の29.1%、株式会社の3%となっています。ちなみに、有限会社はもう新規設立ができなくなりました。
美容業の1日の平均客数
厚生労働省によると、1店舗あたりの1日の平均客数でもっとも多いのが平日・休日ともに「5~9人」。ただし平日は過半数の店舗が平均10人未満、休日は10人以上となっています。
美容業のセット椅子数
設備のうち、セット椅子の台数については「4台」が24.7%と最も多く、次いで3台が20.4%、5台は14.5%。1店舗当たりの平均の椅子の数は4.9台でした。
美容業の経営上の問題点・今後の課題
経営上の問題点については、79.1%が客数の減少を挙げています。これから独立開業するにも、集客は必須の課題です。
今後の経営課題については、施設設備の改装や顧客サービスの充実、営業時間の変更などが多く挙げられています。独立開業時には、施設設備の費用を削りすぎないようにし、顧客ニーズを踏まえた営業時間やサービスも考えておくとよいでしょう。
美容師が独立開業して店を開くまでの流れ
独立開業は次のように進めていきます。
- 美容室のコンセプトやターゲットを決める
- 事業計画書を作り始める
- 美容室の出店地域を決める
- 店舗物件を探す
- 保健所に美容所登録の事前相談をする
- 必要な資金を調達する
- 内装工事を始める
- 開店を告知、集客を始める
- 保健所に開設届を出し、立入検査の予約をする
- 保健所の立入検査を受ける
- 保健所に確認済証を受け取りに行く
- 店舗をオープンさせる
- 税務署に開業届を出す
それぞれ説明していきます。
美容室のコンセプトやターゲットを決める
「美容室」と一口にいっても、さまざまなお店があります。例えば10代・20代の若い人をターゲットにする店なのか、40代・50代をターゲットとする店なのかで、選ぶべき立地や店の内装なども変わってきます。
次のような点を踏まえ、まずはどのような店にしたいのかを決めておきましょう。店のコンセプトを明確にしておくことで、実際の店づくりがしやすくなり、集客もしやすくなります。
- 何を「売り」にするか(得意なこと、他にない魅力)
- どのようなお客さんに来てもらいたいか(年齢・収入など)
- どんな場所に店を開きたいか
- どんな雰囲気の店にしたいか
美容室のコンセプトを決める際のポイントは、「ニーズ」と「他店との差別化」を重視することです。
事業計画書を作り始める
コンセプトやターゲットを明確にしたら、それを事業計画書として明文化します。事業計画書には、その他に決めること、たとえば施術メニューや導入する設備、取引先業者や顧客数の見込み、売上の見込みなどを記載します。
自己資金と必要な資金を計算し、足りない分をどう補うかを考えます。この計画書の作成は、ステップとしてここで完結せねばならないものでなく、徐々に決めていく形でもよいでしょう。
事業計画書は、手続きとして必須のものではありません。しかし成功には必須といっても過言ではなく、融資申し込みの際には必ず提出が求められます。
美容室の創業計画書(創業時の事業計画書)についてはこちらの記事を参考にしてください。
美容室の出店地域を決める
どんなに素敵な美容室でも、腕のある美容師でも、店舗に客が来なくては続けられません。そこで重要となるのが店の立地です。
まずはコンセプトに合わせ、どの地域に出店するのかを決めましょう。
繁華街や駅の近くなのか、住宅街に近いところなのか。その住宅街にどんな層が住んでいるのかによっても、集客のしやすさは違ってきます。
例えば学生向けで低価格、気軽に入れる店なら、駅など人通りが多い場所。飛び込み客も狙えます。隠れ家サロンのような形で収入が高い層を狙うなら、車やタクシーで来店しやすい立地、落ち着いた環境などを重視したいところです。
ヘアサロンは全国的に店舗数が多く、低価格なフランチャイズなども多数存在しています。競合となる店についても研究し、客層や価格設定などを見てみるとよいでしょう。
店舗物件を探して契約する
地域を選んだら、その中で店舗となる物件を探します。店舗(営業形態)については、主に次のようなパターンがあります。
- 一般的な空き店舗の物件を借りる
- 美容室の居抜き物件を利用する
- 自宅を改装する、自宅敷地内に店舗を建設する
- 店舗を持たず「面貸し」(ミラーレンタル)で営業する
一般的には、「空き店舗」となっている物件を借りるなどして、内装工事などを施し店舗を作っていきます。
ただ、美容室であれば、飲食店のように居抜き物件を利用できる可能性もあります。居抜き物件とは、以前に店舗として使われ、設備などが残っている物件です。美容室の居抜き物件なら、費用を節約できます。
賃貸などでなく、自宅の敷地の一角に小さな店舗を作る人や、自宅を増改築するなどして一部を店舗とする人もいます。
また、店舗を作る前段階などとして、自分の店舗を持たないいわゆる「面貸し」で時間やスペースで空いているサロンを借り、美容師としてお客を得るのも1つの方法です。
保健所に美容所登録の事前相談をする
美容室を開くには、保健所への美容所登録が必須です。美容室の施設については、椅子と床面積の関係や床などの材料、洗い場などについて複数の基準があります。
内装工事の図面などを管轄の保健所に持参して、問題ないかどうかを工事に入る前に必ず相談・確認してください。
美容室開業に必要な資金を調達する
美容室の開業には、1000万円から2000万円の費用を用意する必要があります。工事や設備の導入などにいくらかかるのかは、業者に見積もりを依頼し、なるべく具体的に、明確にしておきましょう。
すべてを自己資金でまかなうのは難しいため、融資を受けるのが一般的。政府100%出資の公的金融機関「日本政策金融公庫」や、自治体と保証協会、金融機関が提携する制度融資を利用するのかおすすめです。
内装工事など店舗づくりをする
資金調達ができれば、内装工事や設備機器・家具の導入など、店舗を整えていきます。電気や水道、インターネットなども整備します。
事前に相談した内容を踏まえ、美容所登録の審査基準に合うようにしてください。
保健所に開設届を出し、立入検査の予約をする
管轄の保健所に、美容所の開設届を提出します。開設届には、構造や設備の概要、付近の見取り図、平面図と設備機器の配置図などのほか、美容師免許証の原本、検査手数料を現金で(現金以外は不可)持参します。
提出の期限は基本的には営業開始日の7日前、年末年始や大型連休などを挟む場合には2週間前まで。このときに、立入検査の予約もしておきましょう。
保健所の立入検査を受ける
開設届が受理され、店舗が完成したら、環境衛生監視員による施設の立入検査が行われます。検査日時は予約時に希望が出せます。
検査を受け、不適合とされた場合には改善が必要となり、再度検査を受けて適合が確認されるまで営業はできません。
保健所に確認済証を受け取りに行く
立入検査や提出した書類等の審査で美容所登録が認められれば、確認済証が交付されます。
保健所から電話連絡が入ったら、自分で取りに行きます。確認済証は店舗への提示義務はなく、保管義務もありません。ただし再発行は不可なので、念のため保管しておきましょう。
開店を告知、集客を始める
店舗経営で大切なのは集客です。開店後では遅いので、早めに始めましょう。SNSを使って告知したり、地域のフリーペーパーに広告を掲載したりするなど、複数の方法を試してみてください。
店舗をオープンさせる
すべての準備が整えば、いよいよ美容室がオープンできます。なお、営業開始後にも抜き打ちで保健所から立入検査が行われることもあります。衛生基準を守って営業しましょう。
税務署に開業届を出す
保健所への開設届とは別に、税務署への開業届の提出が必要です。開業後、1カ月以内に手続きをしてください。
この時、確定申告を節税効果の高い青色申告にするための「青色申告承認申請書」も一緒に出しておくと手間が省けます。
ちなみに開業と同時に会社設立をすることもできますが、設立登記には定款認証や登記申請などの手続きが必要となり、費用もかかります。
まず個人事業主として始め、経営が軌道に乗ってから法人成りするというのが一般的です。
美容室の開業に必要な初期費用の目安
店舗の規模や工事の程度、内容などによって費用は大きく異なりますが、美容室の開業には約1000万円~2000万円かかるのが一般的です。家賃を10万円と想定した場合の大まかな内訳は次のとおりです。
使途 | 費用の目安 |
---|---|
店舗物件の取得 | 110万円~160万円程度 |
店舗の内装・外装工事 | 500万円~1000万円程度 |
設備・機器などの導入・購入 | 200万円~400万円程度 |
広告宣伝費 | 5万円~10万円程度 |
当面の運転資金 | 200万円程度 |
それぞれについてもう少し具体的に見ていきましょう。
店舗物件の取得
独立するなら、ほとんどの人は自分のお店を持つことになります。物件を所有していなければ、新たに不動産契約を結ぶのに費用がかかります。
店舗の確保には、次のような費用が必要です。
- 敷金または保証金…家賃10カ月分
- 礼金・・・家賃1~2カ月分
- 仲介手数料・・・家賃1カ月分
- 前家賃・・・家賃1カ月分
ちなみに、美容師の売上に対する家賃比率は10%以下となるのが理想と言われています。家賃が月に10万円だとすれば、100万円以上の売り上げが必要となる計算です。
このほかに、「3日分の技術売上の合計額が家賃を上回るのが理想」という目安も。家賃10万円として、1日あたり3~4万円の売上という計算になります。
店舗の内装・外装工事
美容室は「美」にかかわる仕事なこともあり、店の外観や内装にも気を配る必要があります。ただ、外装については、ビルの2階以上のテナントなどであれば工事の必要がないため、費用がかかりません。
内装工事については、坪単価が約30万円という目安があるものの、物件の状態により大きく異なります。最も費用が抑えられるのは居抜き物件。空調や水道などの設備が残っていれば、設計や工事の費用がかかりません。また、自分の店を開くなら壁や家具などをDIYで自作するのもよいのではないでしょうか。
ただし、残された設備や内装を変えたいという場合には、解体・撤去などの作業が発生することから、工事費用がかえって高くつく恐れがあるので要注意です。
設備・機器などの導入・購入
美容室には、施術に必要なものと店舗運営に必要なものとがあります。施術に必要なものは席数が多くなれば比例して数が必要となるので、費用も高くなります。
施術関連では、スタイリング用の椅子や鏡、シャンプー台やドライヤー、ヘアアイロン、パーマなどの専用機材など。
その他の設備としては、レジ、カウンターやパソコン、電話、タオルウォーマやドリンク用の冷蔵庫、待合室用の椅子、テーブルなど。
シャンプー・トリートメントからパーマ・ヘアカラー用の薬剤、クロスやタオルからフェイスガーゼまで、さまざまな美容材料や道具・小物類、消耗品も必須です。
シザー(はさみ)はすでに愛用の物があるとしても、レザー(かみそり)や電動カミソリ、ブラシ、コーム、パーマ用ロッド、ダッカールクリップ、ピンなどが必要です。
材料は高品質なほど高額になります。どんなものを使用するかは、予算と店のコンセプトやターゲット層を踏まえて考えましょう。
広告宣伝費
美容室の広告宣伝費は、売上の5~10%がその目安です。費用をかけすぎるのも危険ですが、出し渋ると集客がうまくできず、売上が伸びないまま経営が立ち行かなくなることも。
無料のSNSなども活用して、費用は抑えつつ最大限の効果を狙いたいところです。
当面の運転資金
美容室をオープンしてすぐは、思うように集客できず収益が上がらないのが一般的です。軌道に乗るまでは赤字でも営業を続けられるよう、当面の運転資金を確保しておいてください。
目安としては少なくとも固定費の3カ月分。軌道に乗るまで半年かかるのが一般的と言われるため、半年分以上は持っておきたいところです。
当面の生活費も忘れずに!
独立開業となれば、そのための費用を調達することで頭がいっぱいになりがちです。中には、自分や家族の生活費を忘れて計画を立ててしまう人も。
生活費は別で必ず確保しておきましょう。車検や税金、学費といったイレギュラーで高額なものにも注意してください。
美容師の独立開業サポートはBricks&UKで
美容師は独立する人が多く、独立もしやすい仕事ですが、それだけライバル店も多いということです。
これから独立を考えるなら、まずスタイリストとしてだけでなく経営者としての勉強もしておきましょう。美容室の開業には多くの費用もかかります。なるべく多くの自己資金を貯め、独立時には融資も受けやすい状態にしましょう。
融資を受けるには、事業計画書の内容が重要です。熱意や計画性、実現可能性などが見られ、融資の可否が決まります。
融資に通る事業計画書には書き方にコツもあるので、専門家に頼ることをおすすめします。当サイトを運営するBricks&UKは、税理士法人を母体し、起業・会社設立の専門家を擁しています。事業計画書の無料添削も行っていますのでぜひお気軽にご相談ください。