
新型コロナウイルス感染症の影響により、2020年は多くの企業・事業者が厳しい状況に陥りました。
これは起業についても同様で、日本政策金融公庫が調査した「2020年度新規開業実態調査」によれば、調査時点で80%以上の起業家が「マイナスの影響を受けた」と回答しています。
2021年でも劇的な改善が見込めない以上、依然として起業を取り巻く環境は厳しいと言わざるを得ません。
この記事では、起業を考えている方が知っておくべき5つの知識をお伝えします。
起業を考える際はまず事業のアイデアを優先しがちですが、知っておくべきこともたくさんあるのです。
起業の準備や事業の構想を練るだけでなく実際に起業して事業を軌道に乗せるまでには、いくつもの壁があります。
自身で事業を行うのですから、会社の責任はすべて自身で取らなくてはなりません。
起業した後に「知らなかった」と悔やむことのないよう、必要な知識を頭に入れておきましょう。
目次
必要な知識.1 起業の種類
起業の種類は大きく3つに分類されます。
個人事業主として起業することと、会社を設立して起業すること、そしてフランチャイズ契約を結び、加盟店として起業することです。
事業の規模や内容、目的などによって起業の形態を決める必要があります。
3種類それぞれのメリットとデメリットを把握すれば、どのような形で起業すればよいかが見えてきます。
個人事業主の場合
個人事業主はあくまで個人で事業を営む形態です。
具体的には飲食店や美容院などのオーナー、フリーランスのライターやエンジニア、税理士などの士業で独立する場合などがあげられます。
個人事業主として起業するには税務署などの役所へ開業届を提出するだけでよく、手続きは簡単です。
また、資本金が不要なため、事業立ち上げの壁は低いといえます。
最大のメリットは、働く時間や働く場所などのすべてを自分で決められることでしょう。
自身の能力で得た収入がそのまま自分の利益となることも、会社員との大きな違いです。
デメリットとしては収入が安定しないことがまず挙げられますが、最近では会社員だから「安定している」とは言い切れない状況とも言えます。
なお、国民健康保険や国民年金保険などの社会保険には自身で加入し、保険料は全額自己負担となります。
また、年に1回確定申告を行う必要があります。
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会社を設立する場合
会社を設立するということは、「法律によって認められた新しい人格」を作るということです。
個人事業主と違って会社としての登記が必要となります。
法人として会社を設立する際には、「株式会社」「合同会社」「合名会社」「合資会社」という4つの種類からその会社の形態を選ぶことになります。
形態によっての違いがありますが、ここでは共通するメリットとデメリットについて考えてみましょう。
メリットは、法人の方が一般的に信用を得られやすいことが挙げられます。
信用を得やすいということは、大きな仕事がもらえたり、資金面でのサポートが受けやすくなったりすることにつながります。
また納税時には、経費として計上できる項目が個人事業主よりも多いというメリットもあります。
デメリットとしては、赤字でも住民税など税金の支払い義務が発生することです。
また、法人化して従業員を雇えば、従業員に対する社会保険・労働保険の整備も必要です。
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フランチャイズ契約の場合
フランチャイズ契約とは、フランチャイズ本部が加盟店に対して、商標・商号の使用権、商品やサービスの販売権や経営ノウハウの指導・教育などを提供し、その対価として加盟店から保証金やロイヤリティなどの対価を得るシステムです。
フランチャイズ契約の最大のメリットは、本部からのブランド名の使用許可や運営ノウハウの提供があることです。
それまで経営とは無縁だったり未経験の業界での起業を考えたりする人にも、独立・開業が比較的しやすい仕組みとなっています。
既にブランドがついていることで集客がしやすく、軌道に乗せるまでの時間を短縮させることができます。
ただし、フランチャイズでの起業は自由度が高くないというデメリットもあります。
本部の意向には従う必要があり、運営方法、仕入先などには制限がかかります。
ブランドイメージを毀損してしまった場合には、責任を問われるリスクもあります。
また、フランチャイズ本部にロイヤリティを支払う義務が発生します。
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必要な知識.2 起業する分野に関する知識
起業を考えているなら、すでに何かしらの事業アイデアを持っていることでしょう。
しかし、そのアイデアを実現させ事業として軌道に乗せるためには、業界や競合他社となる企業についての情報収集も欠かせません。
情報を集めて研究しておくべき3本柱は、市場の動向、ターゲット層、顧客ニーズです。
市場の動向
事業を成功させるには、市場動向は無視できません。
市場で何が起きているのか、どんな商品が売れていて、どのようなトレンドがあるのか、これらの情報は事業戦略を考える上で、欠かせないものです。
特にコロナ禍では、市場の動向はどの業界においても大きく様変わりしています。
起業して、誰を顧客とするのか、どんなサービスや商品を提供し、どれくらいの利益を得るのかを決めるには、市場の動向を探る必要があります。
大企業では多くの資産を投じて「市場調査」を行っていますが、新たに起業をする際にそこまで費用はかけられないという人がほとんどでしょう。
マーケティング会社などによるセミナーも盛んに行われているので、参加してみるのもおすすめです。
ターゲット層
ビジネスを始めるなら、それは必ず「誰か」に向けたものであるはずです。
その「誰か」を明確にする作業ができていないと、起業はうまくいきません。
自分が始める事業は、どんな人が最も喜んでくれるものでしょうか。
自分は誰を幸せにしたくてその事業を始めるのでしょうか。
そこを明らかにしておくと、何をすべきかが見えてくるはずです。
例えば、20代夫婦の年収400万円世代と50代夫婦の年収1,000万円世代では、求める商品や値段、品質などに違いがあります。
どんな材料でどんな物を作り、どのように宣伝すれば売れるのか、そういった一連のマーケティングも、ここから始まります。
顧客ニーズ
顧客ニーズとは、人々が生活や仕事の中で感じる不満を、理想の状態にしたいと考えたときに生まれる欲求です。
商品やサービスを購入するときには、たいていの人が何らかの目的を持っているもの。
その目的を果たすための商品やサービスを生み出すことで、自身も利益を得ることができるのです。
不満やニーズを把握できなければ、その解決方法も見つけられません。
さらにニーズを先回りすることができれば、他社をしのぐヒット商品を生み出せる可能性も高くなります。
実際に多くの企業は顧客ニーズを知るために、街頭インタビューやアンケート調査、SNS、イベントなどの手段を駆使しています。
起業をするなら、このようなマーケティングの基礎知識は必ず知っておくべきです。
必要な知識.3 マーケティングの知識
上の章で述べた業界に関する知識は、すべてマーケティングに結びつくものです。
マーケティングの必要性について聞いたことがあっても、よくわからない人もいるかもしれません。
ここで改めて「マーケティング」について考えてみましょう。
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そもそも「マーケティング」とは何か?
マーケティングとは、市場分析や商品開発、広告宣伝など、市場や顧客のニーズを満たすために行う一連の活動をいいます。
端的にいえば、ビジネスを進めていく上での「戦略」です。
どのような価値を、どのようなターゲットに、どういった手法で提供するか。それぞれを明確にし、的確にアプローチしていくことがマーケティングです。
事業の成功のカギは、マーケティング戦略をいかにして練り上げていくか、というところにあると言っても過言ではありません。
マーケティングの知識が起業に必要な理由
「マーケティングなど行わなくても、良い商品だから売れる」と考える人もいるかもしれません。
事実、かつて日本の高度成長期には、物は次々と売れていきました。
しかし現在の日本の経済活動は、鈍化していると言っていいでしょう。
モノがあふれる時代になり、さまざまなサービスも発展してきました。
そんな中、コロナショックによってさらに顧客の購買力そのものが低下しているという状況もあります。
多種多様な物があふれている現代では、1つの物を販売するのも大変です。
また、インターネットの急激な普及により、消費者側の選択肢もかなり増えています。
社会の情勢が変わる中でビジネスモデルも大きく変化し、今日売れたものが明日も売れるとは限りません。
そのような時代にマーケティングを行わず、自分のこだわりだけで勝負しようとすると、いくら良い商品でも受け入れらない、もしくは認知もされない可能性もあるのです。
【マーケティングの流れ】
マーケティングは、基本的に次のような流れで行います。
1.市場分析を行う(マーケティングリサーチ)
2.自社に適した市場を選ぶ(セグメンテーション)
3.ターゲット層や競合を見極める(ターゲティング)
4.競合との差別化を図る(ポジショニング)
5.提供する商品やサービスとその価格、広告宣伝や流通の方法を決める(マーケティングミックス)
6.戦略を実行に移す
こうしたマーケティングに加え、現代では自社の強みをブランド化して価値を上げる「ブランディング」も行っていく必要があります。
必要な知識.4 お金に関する知識
起業には、お金に関する知識も欠かせません。
事業をおこす際に必要となるのは、まず資金集めでしょう。
収支を管理する経理や、国に支払う税金についても知っておかなくてはなりません。
資金集めの知識
起業する際は、できるだけ自己資金を準備する必要があります。
どんな形態で起業するにせよ、事業を始めるにはある程度の初期費用がかかります。
また、起業してすぐに十分な収益を得られる保証はありません。
事業が軌道に乗るまでには、赤字でも耐え抜ける資金が必要です。
とはいえ、自己資金が貯まるまで待っていてはビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。
自己資金以外で開業資金を集めるには、主に次の5つの方法があります。
【開業資金集めの方法】
- 日本政策金融公庫の融資を受ける
- 民間の金融機関から融資を受ける
- 国や自治体の補助金・助成金を利用する
- クラウドファンディングで資金を募る
- ベンチャーキャピタル(VC)からの出資を受ける
資金調達の方法には、金融機関からお金を借りるだけでなく、国や自治体から助成金を支給してもらう、クラウドファンディングで事業への思いを訴え不特定多数の人たちから資金を集める、といった方法があります。
それぞれにメリット・デメリットがあるので、自分にあった資金調達を選びましょう。
自分にとってベストな資金調達の方法を選ぶには、詳しい専門家にアドバイスを求めることもおすすめです。
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簿記の知識
起業するために細かい経理の知識が必要というわけでも、簿記の資格が必要だというわけでもありません。
しかし、事業を運営するのなら大まかなお金の流れや収支を把握することが不可欠です。
損益計算書や貸借対照表といった決算書を、最低限、理解できる知識は持っておきましょう。
家庭の収支簿とは違い、事業活動による収支管理は国が定めたルールに従って行う必要があります。
税金の納付にもかかわるため、正確に処理をしなくてはなりません。
経理業務を行う従業員を雇ったり、会計ソフトなどを使ったりするとしても、簿記の基礎的な知識はぜひおさえておきたいところです。
簿記2級あるいは3級のテキストなどで勉強することをおすすめします。
税金に関する知識
事業で収入を得れば、税金を納める必要も出てきます。
起業後に納める税金の種類は、個人事業主と会社を設立した場合とで異なります。
【個人事業主が納める主な税金】
- 所得税
- 消費税
- 個人事業税
- 住民税
起業した人が支払う消費税とは、取引先や客から受け取った消費税のことです。
個人事業税とは、事業所を設けた地域の自治体に収める地方税の1つで、ほとんどの事業にかかります。
ただし年間290万円の控除があり、課税所得が290万円を超える場合に必要となります。
法人として会社を設立した場合に収める税金の種類は、個人事業主より多いです。
ここでは主なものを紹介します。
【法人が納める主な税金】
- 法人税
- 法人事業税
- 法人住民税
- 消費税
- 源泉所得税・特別徴収の住民税
- 償却資産税
法人税とは、事業で得た利益に対してかかる国の税金です。
法人事業税は事務所を置く自治体に収めます。
法人になると、従業員の給与から天引きした所得税や住民税を納付する必要も出てきます。
また、建物や機械などの固定資産がある場合には償却資産税(固定資産税)なども必要となります。
支払うべき税金の納付もれがないようにするため、あるいは節税対策をするため、税金についても勉強しておいてください。
必要な知識.5 法律に関する知識
事業経営にはさまざまな法律が関わります。
すべてを理解することは難しいですが、最低限必要な知識については大まかでも知っておきましょう。
【起業、経営に関わる主な法律】
- 民法
- 会社法
- 労働法
- 景品表示法
- 不当競争防止法
民法とは、日常のさまざまな契約や取引に関して定めた法律です。
会社法では、設立や解散に関する手続きや会社の運営に関する取り決めがなされています。
従業員を雇うなら労働法も理解しておくべきですし、商品やロゴの作成、広告宣伝には景品表示法や不正競争防止法もおさえておかなくてはなりません。
業務形態によっては、「訪問販売法」や「特定商取引法」なども関わってきますし、「下請法」や「著作権」、「個人情報保護法」など、事業運営には数多くの法律が関係しています。
労働法に関しては、専門家である社会保険労務士と顧問契約を結ぶ企業も多くなっています。
番外編・起業に必要なスキルとは?
知識だけでなく、起業にはどんなスキルが必要なのか、そこが気になるという人も多いでしょう。
ここでは起業するなら持っておきたいスキルについて説明します。
とはいえ、最初からこのすべてを備えている起業家はいません。
まずは行動し、経験をしていくことで身につける意識を持ちましょう。
行動力・決断力
成功している起業家に共通しているのが、行動力・決断力があることです。
起業すること自体もそうですが、事業を継続していくならあらゆる場面で必要となります。
ビジネスでは、「プロジェクトの立ち上げ」「トラブル・クレーム発生」「改善」「実行」が繰り返され、それぞれの局面で経営者には決断や行動が求められます。
まだ世にない新たな商品やサービスを生み出すにも、考えているだけではライバルに先を越されてしまいます。
従業員を雇いリーダーシップを発揮する上でも、行動力や決断力は欠かせない要素です。
コミュニケーション能力、プレゼンテーション能力
すべての社会人に求められているコミュニケーション能力やプレゼンテーション能力も、起業には当然重要となってきます。
資金集めには金融機関や出資者などを説得する必要もありますし、事業への想いや魅力も伝えなくてはなりません。
クライアントには商品の良さをわかってもらい、競合他社でなく自社を利用してもらうようにアピールする必要があります。
従業員を雇うなら、組織としてまとまり事業を成功させるためにコミュニケーションは欠かせません。
課題発見・問題解決能力
常に成果を上げ続けるためには、課題や問題点を把握して解決するサイクルを続けていく必要があります。
商品やサービスが売れないとしたら何が問題なのか、従業員が自社に不満を持っているとしたらなぜなのか、そういった課題があることにすら気づかない事業主もいますが、それでは会社の発展は望めないでしょう。
課題を見つけるには、現場をよく知る必要もあります。
また、良くない状況の打開には、解決策を見出す能力も欠かせないものです。
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起業には多くの知識とスキルが必要です。
しかし、すべてを兼ね備えた人はいたとしてもごく稀ですし、それを習得するまで起業を待つ必要もありません。
とは言え、ここでご紹介した基本的な知識は身につけておきたいものです。
知識を身につける方法には、書籍など独学で勉強するだけでなく、セミナーなどに参加したり、すでに起業した人に話を聞いたりする方法もあります。
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