
飲食業界は開業数が多く競争が激しいため、長く生き残っていくにはしっかりとした戦略や工夫が必要です。
特に、昨今はコロナ禍の影響もあってサービス業全体の倒産件数も多くなっているので、これから開業を考えている方は入念な準備をしなければなりません。
実は、飲食店経営で失敗してしまうのにはいくつかの共通する原因があります。
そのため失敗する原因と対策をきちんと押さえれば、これから飲食店を開業して成功することも十分可能です。
こちらの記事では飲食店経営に失敗する原因と対策、飲食店経営に欠かせない資金調達のポイントについて解説します。
これから飲食業での開業を考える方は、失敗しないためにもぜひ読んでみてください。
飲食店の倒産の実態とは

コロナ禍の影響が顕著に表れている飲食業界ですが、2020年4~2021年3月の倒産件数は715件で過去3番目の多さとなっています。
(出典:帝国データバンク「飲食店の倒産動向調査(2020年度)」)
特に酒場・ビアホールのような酒類を提供する飲食店は倒産件数全体の25%以上を占め、厳しい状況下にあります。
また中小企業庁が株式会社東京商工リサーチの調査結果を取りまとめたデータからは、「サービス業その他」の業種における2021年月別の倒産件数がわかります。
2021年6月の倒産件数は170件。
1ヵ月の倒産件数が100件を超える業種は「サービス業その他」だけであり、このデータからも飲食店業界の生き残りの難しさがわかるでしょう。
中小企業の倒産原因ランキング
先ほどの株式会社東京商工リサーチの調査では、中小企業における原因別の倒産件数も明らかになっています。
2014~2020年までの倒産件数上位5位までをランキング形式にすると、以下のとおりです。
1位:販売不振(平均倒産件数 5,978件)
2位:既往のしわよせ(平均倒産件数 1,002件)
3位:連鎖倒産(平均倒産件数 436件)
4位:放漫経営(平均倒産件数 419件)
5位:過少資本(平均倒産件数 365件)
まず1位は販売不振が原因の倒産で、数としては圧倒的に多く、また3位の「連鎖倒産」のように取引先の倒産に伴うなど避けることの難しい原因も上位に入っています。
しかしそれ以外をみると、例えば2位の経営難に対してきちんと対策をしなかった「既往のしわよせ」や、4位の経営者が会社を私物化する「放漫経営」など、きちんと対策すれば防げたような倒産原因が上位に挙がっていることは注目に値します。
このデータは飲食店以外の業種も含むものではありますが、これから紹介する飲食店経営に失敗する原因と対策をきちんと理解して実践すれば、倒産のリスクを抑えることは十分可能です。
飲食店経営に失敗する5つの主な原因

飲食店経営に失敗する原因は様々ですが、ここでは主な要因として挙がりやすい失敗の原因5つを紹介します。
- 店のコンセプトがあいまいだった
- 商圏や市場、競合店の調査を怠った
- 客のニーズより自分のこだわりを優先した
- 集客に力を入れなかった
- 人手不足で味・サービスの質が下がった
失敗原因.1 店のコンセプトがあいまいだった
コンセプトとはお店全体の統一的なテーマのようなもので、飲食店ではお店作りの基礎となる重要な要素です。
成功している飲食店経営ではみなコンセプトが明確であり、それによってターゲットも自然と限定されていくことでお店の個性が作られます。
またコンセプト作りは競合店との差別化にもなるため、独自性があって共感を生むコンセプトがあれば競合店と差をつけて競争で優位に立つこともできます。
逆にコンセプトがあいまいだと競合店に顧客を奪われ、継続的に集客することができません。
もっともコンセプトは、変えることも可能です。
経営していく中で顧客層や人気メニューなどに一定の傾向がみられる場合、臨機応変に変えることも大事です。
考えなしにコロコロ変えてしまうのは失敗につながるおそれもありますが、当初のコンセプトに固執することなく状況に応じて柔軟に対応することも、飲食店経営の成功の秘訣と言えます。
失敗原因.2 商圏や市場、競合店の調査を怠った
商圏分析は、国勢調査などの国の統計指標や自社の顧客データなどを活用し、出店を考えているエリアの市場規模や地域特性を把握する分析手法です。
商圏分析ではそのエリアの人口分布・年齢層などから市場規模を図り、地域性・慣習なども分析します。
さらに競合店や集客の障壁となる大型店舗の存在なども考慮して自店舗の優位性を確立し、出店後にきちんと利益を出せるしくみを作るのです。
このような商圏分析を詳細におこない、どこにどんなコンセプトのお店を開業するかを綿密に計画することは、飲食店開業の土台となる大事なことです。
ニーズに合わせた料理・サービスを提供するためには、商圏分析によって出店エリアの特性をよく知らなければなりません。
つまり詳細な商圏分析は、マーケティング戦略にも密接に関係するのです。
このような客のニーズに合わせて商品・サービスを作っていく「マーケットイン」的な発想を疎かにすると、自分本位のお店になって経営に失敗する可能性は高くなるでしょう。
失敗原因.3 客のニーズより自分のこだわりを優先した
きちんとした明確なコンセプトを決めたものの、自分の作りたい理想のお店のイメージが優先して客のニーズに合わないお店になってしまうことがあります。
これは「マーケットイン視点」の欠如にもつながっていますが、やはり飲食店経営では商圏分析やマーケティングをきちんとおこない、客のニーズに合ったお店作りをしなければいけません。
またこだわりを優先すると集客に失敗するというだけでなく、理想のお店作りのために多額の初期費用をかけてしまうという問題もあります。
飲食店経営はもともと固定費や仕入れに利益を圧迫されやすい業種なので、こだわりが強すぎると資金繰りが悪化する要因になりかねません。
さらにお店作りばかり意識していると「いかに利益を上げるか」という経営的な視点が疎かになり、「売上は高いのに利益が出ない」という問題に直面することもあります。
「こんなお店にしたい」という強い思いを持っていることは大事ですが、あまりに自分のこだわりを優先してしまうと客のニーズに合わないお店になってしまうので注意しましょう。
失敗原因.4 集客に力を入れなかった
「美味しい料理さえ作れば集客できる」という考えでは、飲食業界の厳しい競争を生き残ることは難しいでしょう。
確かに、なかには特別な集客をしなくても料理の腕だけで人が集まるお店もあります。
しかしそれはごく一部の限られた事例であり、最近では小規模なお店であってもインターネットやSNSを活用して集客に力を入れているお店の方が多いのです。インターネットを使えば少ない費用で大きな集客効果もあるため、どのお店でも様々なツールを活用して戦略的な集客活動を行っています。
様々なツールを活用して戦略的に集客することは、今、そしてこれからの飲食店経営には必須です。
集客を軽視することで倒産することも決して珍しくありません。
料理やサービスの質を上げるだけでなく、集客活動にもきちんと力を入れてください。
失敗原因.5 人手不足で味・サービスの質が下がった
メディアに取り上げられるような人気店であったのにも関わらず、経営に失敗して閉店してしまう。
飲食業界においてはそういったこともよくあります。
料理が美味しくてお店の雰囲気もよく、話題になったことで来客も増えたのに、なぜ閉店してしまうのでしょうか?
その原因の一つとして考えられるのは、人手不足で味・サービスの質が下がってしまったということです。
飲食店では来客数に応じて適切に人材を調整しなければなりませんが、話題を集めて突然来客数が増えてしまうと、人材の確保が追いつかなくなります。
その結果料理の味やサービスの質が低下してしまい、客離れによって売上が減ってしまうのです。
もっとも逆に人材を集めすぎると今度は人件費がかさんでしまい、利益が出にくくなってしまいます。
このように来客数にあわせてうまく人材を調整することは難しいため、人手不足をはじめとした人材関係の要因による経営の失敗も飲食店ではよくあることなのです。
【実例から学ぶ】飲食店経営に失敗する原因

Aさんが店舗経営撤退に追い込まれた経緯
飲食店経営者のAさんは飲食業界で長年勤めた後に、当時流行していたタピオカミルクティーのお店をオープンさせました。
同じく流行っていたかき氷店やチーズボールの店などの経営にも乗り出します。
その後もコンセプトカフェの流行に乗って、接客を伴う飲食店(事実上のガールズバー)の運営を行ったり、他にも飲食関連の様々な業態のお店を買収するなどして精力的に経営拡大を続けました。
しかし同じ飲食業界といえども、当然ながら経営の仕方は業態ごとに異なるものです。
ノウハウのないまま流行に乗って買収を繰り返したことが災いし、設備投資がどんどん膨らんでいきました。
そのような折、新型コロナウイルス感染症の流行が拡大。
経営の立て直しを図るべく拠点を移したあたりから、金融機関との連携も取れにくくなってしまいます。
また、接客を伴う飲食店が風営法でいう「接待飲食等営業」に当たると知らなかったことが状況を悪化させます。
公安委員会に許可申請を行う必要があると知らず、事実上の風営法違反を犯してしまうことに。
開業時から受けていた融資も、業態が異なるということで審査が一からやり直しとなってしまいました。
さらには、昼の部と夜の部に分けて営業を始めたことで従業員の労務的な管理が行き届かなくなり、社会保険料の未払いも発生。
社会保険料未払いのような公金債権があるとわかった時点で、銀行は債権の回収見込みが立たなくなったものと判断、融資も打ち切られてしまいました。
そうして資金繰りが難しくなった上、コロナ禍の「ニューノーマル」にも対応できないまま売り上げはどんどん落ち込み経営が悪化。
ついには店舗経営から撤退せざるを得なくなりました。
Aさんの失敗の原因とは
この経営失敗には、5つの原因があります。
- 業態に合った経営ノウハウを学ばず別業態に手を広げた
- 綿密な計画を立てることなく流行りものに手を出した
- 従業員の労務管理・手続きを怠った
- 上記のような理由により金融機関の信用を失った
- コロナ禍を甘く見てしまった
さらに、当初から税理士や経営に関する専門家がついていたものの、相談することなく事後報告で済ませたりアドバイスに従わなかったりしたことから、立て直しへの選択肢がどんどん減っていった、という背景もありました。
飲食店経営に失敗しないため必要なこと

上で紹介した例を踏まえると、まずは事業への知識や理解を深めること、綿密な計画を立てることは不可欠です。
その上で、次の点も押さえておきましょう。
- 店のコンセプトを明確にする
- 客のニーズや人の意見を重視する
- 集客に力を入れる
- スタッフを大切にする
- キャッシュフローの管理を徹底する
こちらの5点について、順番に詳しく解説します。
店のコンセプトを明確にする
コンセプト作りをごく簡単に言えば「誰に対してどんな料理・サービスを提供するか」を考えることです。
コンセプトはキャッチフレーズなどに落とし込むことができ、特定のターゲットに深く刺さるものほど確かな集客が見込めます。
コンセプトを作るにはまず、ターゲット層を決めましょう。
そしてしっかり市場調査をしてターゲットのニーズをきちんと把握し、どんな料理・サービスを提供するのかを考えます。
またコンセプトが明確になればそれに合わせて内装・メニューを決めていけるので、資金計画も立てやすくなります。
やはり飲食店経営は、立地によって売上が大きく左右されます。
そのためコンセプトとターゲットをもとに、出店場所をよく検討しましょう。
コンセプトがよくても立地が悪いと経営に失敗する危険は大いにあるので、十分に時間をかけて慎重に立地を決めてください。
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客のニーズや人の意見を重視する
お店にこだわり過ぎてニーズに合った料理・サービスを提供できていないことが、飲食店経営の失敗原因になると説明しました。
このような失敗を避けるためには、綿密に市場調査をして客のニーズを把握することです。
お店のターゲット層にはどのようなニーズがあるのか、またニーズを満たすためにはどのような料理・サービスを提供すればよいのかをよく考えましょう。
このとき自分の考えに固執するだけでなく、人の意見に耳を傾けるということも大事です。
例えば資金面や経営に関することは、税理士のような専門家の意見を聞くのが得策です。
また、経営者仲間に話を聞いてみるのも良いでしょう。
悩みをどう克服してきたか、など参考になる意見が聞けることもあります。
このように様々な人の意見をとりいれ、柔軟にお店を改善していくことが飲食店経営では大事です。
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集客に力を入れる
安定して利益を上げていくためには、集客への注力は必須です。
集客手段には様々な手法が考えられますが、代表的なものをいくつか紹介します。
まず基本的な集客方法には、チラシ配布やフリーペーパーへの掲載があります。
最近ではウーバーイーツのようなデリバリーサービスのニーズが急増しているので、デリバリーが可能なメニューであればそのようなサイトを活用するのもよいでしょう。
あとは、やはりホームページ制作・SNS・メルマガ配信など、インターネットを使った集客が効果的です。
SNSのなかにもTwitter、Instagram、Facebookなどいくつかのツールがあるので、それぞれの特性を理解しお店に合ったものを選んで活用しましょう。
飲食店はいつの時代も競争が激しい業界です。
特に最近では料理サ―ビスだけでなく集客に力を入れているお店も多いので、集客を工夫しなければ生き残ることができません。
ただし広告宣伝費をかけすぎることも負担になり経営の失敗につながるので、無料のSNSを活用するなどできるだけ費用負担の少ない方法を選ぶことも大事です。
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スタッフを大切にする
飲食店は慢性的に人手不足の業界なので、「いかにして良い人材を確保するか」ということはどのお店も頭を悩ませている問題です。
そのため優秀なスタッフに長期間働いてもらうことも失敗を避けるのに不可欠なこと。
またスタッフを大切にできるお店作りも欠かせません。
スタッフが「このお店で働きたい」と思うのは、コンセプトに共感して働くことにやりがい・楽しさを感じたときです。
例え業務内容が大変であっても、コンセプトを共有してみんなで協力してお店作りができればスタッフのモチベーションは高まります。
お店は経営者だけのものでなく、スタッフ全員で作っていくのだという感覚を大事にしてください。
お店のコンセプトをスタッフみんなで共有し、ともに成長していくという共同意識を持てるようなお店作りが理想です。
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キャッシュフローの管理を徹底する
キャッシュフローとはお金の流れのことですが、キャッシュフローの管理で大事なことは、1日あたり、そして毎月どれくらいのお金が入ってどれくらいのお金が出ていくのかということをきちんと把握することです。
キャッシュフローをきちんと管理していないと、利益は出ているのに手元の資金が足りなくなり、ローンの返済などが滞って「黒字倒産」するリスクがあります。
このような黒字倒産は飲食店経営にはよくあり、キャッシュフロー管理の重要性がわかります。
キャッシュフロー管理のためには、資金繰り表を作りましょう。
資金繰り表とは現在の手元資金から将来の出入金を差し引きして、将来の手元資金を計算した表のことです。
資金繰り表を使って入出をしっかり管理し、マイナスになることがないよう手元資金には余裕をもった事業経営をしていってください。
飲食店の成功に欠かせない資金調達のポイント

店舗経営となると自己資金だけでの開業はなかなか難しいので、多くの場合は融資を受けることになるでしょう。
そこで、ここでは開業時の融資におすすめな日本政策金融公庫の「新創業融資制度」について説明します。
創業支援に特化した融資を利用する
新創業融資制度は、新たに開業する人を対象とした無担保・無保証の融資制度です。
公庫自体が中小企業支援を目的とした公的機関であり、新創業融資制度も将来性を考慮して融資をしてくれるため、開業当初で実績のない企業にも積極的に融資をしてくれます。
新創業融資制度でもある程度の自己資金は必要ですが、民間金融機関と比べれば審査のハードルは低いため、多くの起業家が利用しているおすすめの融資制度です。
もちろん新創業融資制度を利用しても必ず融資が受けられるわけではありません。
次に紹介する創業計画書の作りこみや開業する業種の経験、事業の将来性など、しっかりと時間をかけて開業準備をする必要があります。
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融資が通りやすい創業計画書を作成する
創業融資においては実績よりも将来性をみて判断するので、創業計画書の内容はとても重要視されます。
融資によって資金調達をするのであれば、きちんと創業計画書を作り込んで完成度を高めましょう。
創業計画書を見る際、審査担当者は「事業で安定した収益を上げられ、きちんと毎月の返済ができるか」という点を重視しています。
そのため収益の根拠や資金繰りの計画など、客観的なデータや具体的な数値を用いて説得力のある返済計画を立てなければなりません。

まとめ

飲食店経営に失敗する原因を踏まえた対策と、飲食店経営に欠かせない資金調達のポイントについて解説しました。
まずは自分がどのようなお店にしたいのか、誰にどんな料理・サービスを提供したいのかをよく考え、コンセプトを明確にしましょう。
そして商圏分析や市場調査を綿密に行った上で立地を決め、ターゲットのニーズに合ったお店を作っていきます。
ただし、経営していく中で状況は常に変化していくので、他人の意見も柔軟に取り入れ変化に対応していくことも大事です。
また集客に力を入れることも大事な要素ですし、人材確保に困らないよう一緒にお店を作っていくスタッフも大切してください。
その他にも飲食店経営では資金調達や創業計画書作成など、経営面の課題もあります。
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